製薬協・中山会長 産業育成には市場が重要 製品価値を薬価で「適正な評価を」
公開日時 2018/06/01 03:52
日本製薬工業協会(製薬協)の中山讓治会長(第一三共会長)は5月31日、就任後初の記者会見に都内で臨み、「産業が育つには市場がなければいけない。市場の一番大事なことは製品の価値を適正に評価することだ」と述べ、薬価制度改革に注力する姿勢を鮮明にした。特に、2018年4月の薬価制度改革で抜本的な見直しがなされた新薬創出等加算について、「研究開発への投資意欲が大きくそがれる制度となったというのが正直な感想だ」と述べ、品目要件の見直しと企業要件の撤廃を主張した。
◎革新的新薬創出は生産年齢人口増加につながる
中山会長は、「様々な環境変化があるが、革新的新薬創出を通じて健康に貢献する製薬協の使命は変わらない。この目標に向かって全力で邁進する」と述べた。高齢化が進展し、社会保障費の伸び抑制が求められる中で、革新的新薬の創出を通じ、「生産人口が増えて介護負担が減れば日本経済の成長を加速し、社会保障費の伸びを抑制できる」と説明。「イノベーションには社会を変革する力がある。製薬産業の担っている可能性は大きい。悲観的な予測の多い未来をもっと明るい未来に変えることができるのが製薬産業だと考えている。簡単だとは思わないがステークホルダーと知恵をだしあって明るい未来にしていきたい」と熱く語った。
◎RWD利活用に期待も「価格評価とのバランスが必要」
製薬産業が革新的新薬を創出するうえでの最大の課題について中山会長は、新薬創出等加算をあげた。中山会長は、「市場全体のパイが減ってもイノベーションが適正に評価されれば、そういうメカニズムさえ用いれば、イノベイティブな企業は残るし、それぞれの会社として様々な戦略の取りようがある」と指摘した。薬価改定後に、早期退職優遇制度の実施など、人員を含むコスト削減に向けた動きもあるが、「投資がままならないのでビジネスリスクが大きい。財務リスクが取れない」と製薬業界の窮状を語った。
政府は18年度予算決定に際し、薬価制度改革を断行するのと同時に、リアルワールドデータ(RWD)の利活用などを盛り込んだ日本創薬力強化プランの予算を確保した。薬価制度改革と研究開発の生産性向上を両輪に位置付けた格好だ。MID-NETや疾患レジストリーなど、RWD利活用に向けたインフラ整備も進む。中山会長は、基盤整備の必要性やIT企業などの多業種との連携による技術開発を推進することが必要との見解を表明。「優れたデータベースができれば、日本での開発には新しい可能性が生まれてくると期待している。日本で開発する上でのコストの低減、効率性が高まることで日本での創薬が進む」と期待感を示した。そのうえで、「あくまで適正な価格評価とバランスしなければ本当の意味での完成形ではない」との考えを表明。「価格がきわめて妥当だと思うことから遠ざかっている。ここを戻さないと産業は育たない」と強調した。
日本市場が厳しさを増す中で、武田薬品のアイルランド・シャイアー社を買収するなど、大手内資系企業を中心に売上高の海外比率を高める動きもある。17年の国内上位14社の海外売上高は約3.6兆円で、12年と比べて1.5倍に増えたという。中山会長は、「国内市場が伸び悩んでいる。海外での成長で成長を実現したという絵がある」と説明。製薬協としても、APAC(アジア製薬団体連携会議)の開催やPMDAアジアトレーニングセンターへの協力などを通じ、薬事規制の調和などを図っていることにも言及した。