【最終回】田野岡大和君とトム・ソーヤーに脈打つ腕白精神の系譜
公開日時 2016/06/16 05:00
情熱的読書人間
榎戸 誠
【田野岡大和君】
2016年5月28日に北海道七飯町の林道で行方不明となり、6日後に保護された7歳の田野岡大和君。発見直後、渡されたお握りを手にした大和君の写真を目にした時、ホッとすると同時に、なぜか無性に、『トム・ソーヤーの冒険』を読みたくなった。そこで、書斎の本棚から引っ張り出してきたのが、『トム・ソーヤーの冒険』(マーク・トウェイン著、H・ミラー翻案、渕脇耕一訳、ニュートンプレス・Newton Classics。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)である。
【劇画と英日対訳】
本書は、原作の一番面白い部分に焦点を絞り、劇画で表現されているので、短時間で『トム・ソーヤーの冒険』の醍醐味を味わうことができる。
取り上げられている2つのエピソード――悪戯をした罰としてポリー伯母さんから科せられたペンキ塗りを、巧みに友達に肩代わりさせてしまう話と、真っ暗な大洞窟の迷路から危うく脱出し、少し前に目撃した殺人事件の真犯人が洞窟に隠した宝物を発見する話――を通じて、19世紀初めのアメリカ南西部の腕白少年たちの考え方や行動が生き生きと甦ってくる。
宝物を遂に見つけた時、腕白仲間のハックルベリー・フィンに「トム、何考えてるんだ?」と聞かれて、トム・ソーヤーはこう答えている。「なにね、盗賊はやらずにすむし、これだけありゃあ、一生、学校にも行かずに、魚を釣りながらぶらぶらできるぞって」。
劇画だけでなく、作品の解説が充実しているのも本書の特徴である。さらに、巻末に劇画のナレーションと台詞が英日対訳で収載されているので、原作の雰囲気に触れることができる。
『トム・ソーヤーの冒険』は子供向けの小説であるが、マーク・トウェインが「かつて少年少女だった成人たちにも読んでほしい」と述べているように、大人が読んでも十分楽しめる作品である。