医療・ヘルスケアデータをめぐる産業界の動きが熱い! オムロンがJMDCを連結子会社化でTOB実施
公開日時 2023/09/12 04:52
医療・ヘルスケアデータをめぐる産業界の動きが熱い! NTTドコモがインテージHDの連結子会社化で株式公開買付け(TOB)を9月6日に発表したのに続き、8日にはオムロンが国内ナンバー1のヘルスケアデータアセットを持つJMDCの連結子会社化を目的として9月11日からTOBを実施すると発表した。7月には製薬企業、医薬品卸、食品メーカー、損保・保険会社など121事業者(8月29日時点)が会員となる「PHRサービス事業者協会」が発足し、これを契機に医療・ヘルスケアデータを活用したビジネスソリューション開発やサービス提供への動きが急激に高まっている。政府の医療DX推進本部が2030年に向けた工程表を公表する中で、健康、予防・未病、治療、予後の各段階におけるヘルスケア・ソリューション事業への動きに熱い視線が注がれている。
◎1年半の業務提携を通じて「JMDCの“凄さ”を学んだ」 オムロン・辻永社長CEO
「業務提携によるデータソリューション事業の開発と社会実装を、従前のヘルスケア・ソリューションにとどまらず、インダストリアルオートメション、ソーシャルソリューション領域でも行っていく」-。8日の記者会見でオムロンの辻永順太代表取締役社長CEO(写真)は宣言した。
オムロンとJMDCは2022年2月に資本業務提携を行い、ヘルスデータプラットフォームの強化や予防ソリューションの開発などに着手していた。辻永社長CEOは8日の記者会見で、この1年半の業務提携を振り返えり、「協業検討により、オムロンの新たな“成長可能性”が出現した。同時にJMDC の“凄さ”を学ぶ機会となった」と強調した。JMDCの“凄さ”とは、国内 No.1 の圧倒的な質量を誇るヘルスケアデータアセットはもちろん、非標準データを利活用可能なデータプラットフォームとして構造化する「データマネジメント力」や、人財を惹きつける「人財吸引力」、さらにデータを価値に変える「ソリューション開発力」だと辻永社長CEOは語る。
◎“モノ”から“コト”へビジネス転換 医療データと日常データで予防ソリューション開発
そのうえでJMDCを連結子会社化する目的として、「JMDCのケイパビリティ活用をレバレッジし、新たなデータソリューションを創出すること」と述べ、オムロンのビジネスモデルをこれまでの“モノ”から“コト”(新たなデータソリューションへの転換)に注力する姿勢を鮮明にした。具体的には、JMDCの「医療データ」とオムロンの「日常データ」をプラットフォーム化し、ビッグデータを解析することで、「デバイス+サービス」を基軸とする予防ソリューションを開発するというものだ。これらを企業向けに展開することで、生活習慣病の重症化予防や女性の健康支援、メンタルヘルスなどのニーズに応え、「健康経営アライアンスに貢献する」と辻永社長CEOは強調する。
◎JMDCの野口社長 オムロンと「健康経営アライアンス」を発足
一方、JMDCの野口亮代表取締役社長も会見で、オムロンとJMDCが発起人となり「健康経営アライアンス」を発足させたことを明らかにするとともに、「データを活用して具体的な取り組みを行い、そこでのノウハウを共有する」と強調。「すでに200を超える企業、団体から参加表明があり、大きなうねりとなっている」と語ってくれた。
◎いよいよPHRの時代へ 7月に「PHRサービス事業協会」発足 121事業者が参加
「大量の医療・ヘルスケアデータを有するものが、次の世代の医療・健康ビジネスをリードする」―。政府の医療DX推進本部がヘルスケア領域でのDX化の工程表を示したことで、製薬企業はもとより、医療機器、検査薬、食品、さらにはIT企業や損保・保険業界からデータビジネスに参入する動きが強まっている。7月に発足した「PHRサービス事業協会」には、エーザイ、塩野義製薬、シミックHD,Welby、TIS、テルモなど121事業者が参加表明。パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)の利活用についての議論を開始した。経産省主導の協会ではあるが、今後のDXの社会実走やCX(カスタマー・エクスペリエンス)を活かした医療・ヘルスケア分野でソリューション化を睨み、新たなビジネスモデルの創造やサービスソリューション開発の方向性をめぐる議論が俄然熱くなってきた。
高齢化に伴う医療費や社会保障費の高騰が叫ばれる一方で、日本は人口減少に向かっており、地域経済や地域産業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が注目されている。誰もが健康で長生き出来る社会を実現し、70歳まで働ける社会を実走する。その結果、高騰する医療・介護費用の適正化には、もはやデータビジネスの発展とソリューションサービスの産業化は待ったなしの課題に浮上してきた。
◎製薬産業のビジネストラスフォーメーションに不可欠 CXを事業化する流れ
製薬産業にとっても、革新的新薬の創出と同時に、患者が安心して治療を継続できるデータソリューションの事業化への期待は今後高まると予想される。すでに大手製薬企業を中心に大量のヘルスケアデータを活かすビジネスソリューション開発とサービス提供に取り組んでおり、その流れは製薬業界全体に波及する可能性を秘めるといっても過言ではない。ますます熱い視線が注がれるだろう。今後は、NTTドコモとインテージHD、オムロンとJMDCのような大量データ保有企業といかに協業するかも戦略上の課題として浮上するだろう。