IN-TIME 在宅モニタリング機能付きICD活用で左心室機能障害のある心不全患者の予後改善
公開日時 2013/09/04 05:00
在宅モニタリング機能付き植込み型除細動器(ICD)は、進行性心不全患者における心不全悪化と死亡リスクを有意に低下させることが、国際多施設無作為化試験「IN-TIME(Influence of Implant-Based Home Monitoring on the Clinical Status of Heart Failure Patients with an impaired Left Ventricular Function)」の結果から分かった。8月31日からオランダ・アムステルダムで開催されている欧州心臓病学会(ESC)2013の9月1日に開催されたセッション「Hot Line II:Late Breaking Trials on Intervention and Devices」で、ドイツUniversity of LeipzigのGerhard Hindricks氏が報告した。
遠隔モニタリング機能が付いたデバイスは、従来の植込み型除細動器(ICD)、または心臓再同期治療除細動器(CRT-D)と異なり、デバイスから医療機関に、定期的またはイベント発生時に直接データが送信することが可能だ。そのため、不整脈や臨床検査値から増悪によるイベントや、増悪傾向を早期発見することが可能になる。その結果、適切なインターベンションが施行され、重篤なイベントによる入院を予防できることが期待されている。
対象は、病歴が3カ月以上の慢性心不全で、ICD(二腔ICDかCRT-D)の植え込みを計画されている患者。スクリーニングまでの過去1カ月間のNYHA分類がIIまたはIII、スクリーニング前の過去3カ月間の左室駆出率(LVEF)が35%以下、利尿薬の処方が計画されていることを登録条件とした。
欧州の医療機関36施設から716例が登録された。全員に遠隔モニタリング機能のあるICDを植め込んだ後、最適な心不全治療を行った。run-in期間の1カ月間でデバイスの送信機能を確認した後、在宅モニタリングと標準治療を行う群333例、標準治療のみを行う群331例に無作為に割り付けた。
在宅モニタリング群では、毎日特定の時間か、不整脈や特定のイベントが発生した際に、デバイスからHeart Center Leipzigの中央監視部門にデータが直接送信される。イベントが発生した際は、中央監視部門からフィードバックが得られるまで、繰り返し警告する。連絡を受けた中央監視部門は、担当医に連絡。担当医が患者への電話、診察によるフォローアップを行うこととした。担当医と連絡が取れない場合は、CMUが直接患者と連絡を取ることとした。一方、標準治療群でも、遠隔データが集積されるが、中央監視部門または担当医師のいずれも、試験終了までデータにアクセスできないようにした。
主要評価項目は、modified Packer score(死亡、心不全悪化による夜間宿泊を伴う入院、NYHA分類の変化(好ましい、好ましくない、変化なし)、総合的自己評価(改善、悪化、変化なし)を組み合わせたスコア)を基準に、「悪化」、「変化なし」、「改善」の3段階で評価した。副次評価項目は全死亡、心不全悪化による夜間宿泊を伴う入院などとした。追跡期間は1年間だった。
患者背景は、平均年齢65.5歳、虚血性心疾患が69%、脳卒中/TIA既往10.8%、心房細動25.3%、糖尿病40.1%、NYHA クラスⅢが57%を占め、LVEFは平均25.8%だった。除細動が必要とされた理由として、一次予防が79.1%、デバイスの種類はCRT-Dが58.7%、ICDが41.3%だった。投与薬剤は、利尿薬が93.4%、β遮断薬が91.6%、ACE阻害薬/ARBが89.3%、脂質異常症治療薬は72%、抗血小板薬は64%、抗凝固薬が30.6%だった。ACE阻害薬/ARBの投与率には差がみられ、在宅モニタリング群で有意に高かった(在宅モニタリング群92.2%、標準治療群86.4%、p=0.016)。
◎Hindricks氏「心不全の悪化予防につながる処置も可能に」
主要評価項目のmodified Packer scoreで、「悪化」と評価された患者は、在宅モニタリング群18.9%に対し、標準治療群27.5%で、標準治療群で有意な悪化がみられた(p<0.05)。「改善」または「変化なし」と評価された患者は、在宅モニタリング群では81.1%、標準治療群72.5%だった。
全死亡は、在宅モニタリング群10例、標準治療群27例で、在宅モニタリング群で有意に少なかった(ハザード比(HR):0.356、95% CI: 0.172 – 0.735、p=0.004)。単変量Cox回帰分析を用いて、全死亡の予測因子を検討したところ、在宅モニタリング群と年齢、腎不全、高BMI、ベースラインのNYHAスコアと有意な関連がみられた。さらに、多変量解析でも有意な予測因子として挙がってきたのは、在宅モニタリング群と腎不全、高BMI、NYHAスコアだった。
心血管死は、在宅モニタリング群8例、標準治療群21例で、在宅モニタリング群が有意に低かった(p=0.012)。
中央監視部門に送られたイベントの66.5%は、モニタリングシステムに関する技術的な問題だったが、残りは臨床イベントに関するデータだった。内訳は、心不全関連のイベントが8.5%、CRT<80%(48時間以上)が7.2%、心室細動・心室頻拍・ショック5.2%などだった。
患者への連絡に至ったケースは696件で(2.27/患者・年)、このうち、薬剤の服薬アドヒアランスの低下が13%(0.30/患者・年)だった。医師の診察を受ける必要性が生じたケースは、16%だった(0.36/患者・年)。イベントと医療的処置、タイミングなどのデータに関する詳細については現在解析中。在宅モニタリングによる心不全への有効性について、今後、潜在メカニズムを探索していく。
Hindricks氏は、「進行性心不全患者に対する植込み式在宅モニタリングシステムが、有意な有効性を示した初めての無作為化臨床試験だ」と強調した。その上で、「在宅モニタリング群は標準治療群と比べ、臨床状態の悪化を示す症例が有意に少なく、全死亡と心臓死も有意に抑制された」とまとめた。これらの結果から、「在宅モニタリングをベースに、患者の臨床状況やICDの技術的イベントを発見することで、心不全の悪化予防につながる医療的処置を始動させることができる」と期待感を込めた。
◎Auricchio氏「遠隔モニタリングの有用性 初めて説得力のあるデータを示した」
同発表を論評したスイス・Fondazione Cardiocentro TicinoのAngelo Auricchio氏は、今年改訂されたCRTとペースメーカーに関するESC/EHRAガイドラインで、初めて特定の患者における遠隔モニタリングの使用が推奨されたことを紹介。「同試験が非常にタイムリーで、遠隔モニタリングを活用した患者の転帰について、初めて説得力のあるデータを示した重要な試験だ」と評価した。
IN-TIME試験では遠隔モニタリングにより心臓死と全死亡が有意に抑制されたが、これらのデータは患者管理システムLATITUDEに関する大規模観察研究の結果と類似していることも指摘し、観察研究の結果を再確認したとの見解を示した。さらにIN-TIME試験では、遠隔技術により患者を密接にモニターすることで、コンプライアンス遵守の支援や追加治療が可能であることも示したとした。
一方で、再入院率の低下への影響が不明である点や、異なるデバイスでも同様の有効性が示せるか、適用患者の詳細な定義がまだ確立されていないなど、課題は残っていることも指摘した。