【ASCO特別版】PLCO試験 前立腺生検による死亡リスクは極めて低い
公開日時 2013/06/10 07:30
前立腺がん生検を受けた男性が、生検後120日以内に死亡する頻度は2.5人/1000生検であることが、PLCO試験の介入群を追跡した調査結果から明らかになった。この数値は、同様の患者背景を有する生検を受けなかった男性と比較して、むしろ低く、医師が生検を勧める際の選択バイアスがある可能性が示唆された。5月31日から6月4日まで米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会のポスターディスカッションセッションで、1日、International Prevention Research InstituteのMathieu Boniol氏らが報告した。
PSA検査の普及に伴い、前立腺生検の実施数も増えている。前立腺生検は一般に安全な手技だとされるが、血尿、血精液症、尿貯留、電解質異常、感染など、いくつかのリスクも知られている。感染によって敗血症となれば死亡する可能性もある。
そこでBoniol氏らは、前立腺、肺がん、大腸がん、卵巣がんについて、検診実施によって、早期発見、適切な治療が可能となり、がんによる死亡が減少する可能性を検討した大規模無作為化集団ベース研究PLCO試験の介入群を対象に、前立腺生検による死亡リスクを検討した。
PLCO試験では、前立腺がん検診として、年1回の血中前立腺特異抗原(PSA)検査と、直腸内検診(DRE)が実施された。試験開始の1993年から登録完了の2001年までの間に、全米10施設から登録され、介入(検査実施)群に割り付けられた男性は3万8340例(55~74歳)。このうち6834例が少なくとも1回の前立腺生検を受けていた。複数回の解析例を二重に評価することを避けるため、解析は最後の生検に限って行った。
Boniol氏らによれば、施設(P<0.0001)、婚姻の状態、教育、職業、人種などの因子が、生検実施の有無に影響を与えていた。また生検を受けた男性はより高齢(p<0.0001)だった。前立腺がんの家族歴、過去3年間のPSA値、喫煙、BMI、糖尿病などの医学的背景も、生検実施に影響を与えていた。
解析は、年齢、施設、人種、婚姻状態、職業、個人のがん歴、家族の前立腺がん歴、PSA検査値など、生検実施のリスクと、過去180日間のDREの結果、喫煙状態、BMI、糖尿病について、すべてのデータベースをコンピュータで処理し、1例に対して1例を対照群として抽出し、比較検討を行った(propensity score matching 解析)。集団の特徴が大きくことなっていたために、48%については直接マッチさせることができず、年齢、施設、喫煙、BMI、糖尿病についてロジスティック回帰補正した。
◎医師による生検実施例の選択バイアス存在か?
生検を受けた男性で生検後120日以内に死亡したのは17例で、頻度は2.5人/1000生検。既報(2人/1000生検)と同等であった。Boniol氏らが「驚いた」としたのは、対象群6834例では128例が死亡しており、頻度は18.7人/1000生検と、介入群よりも高かったこと(オッズ比7.7、95%CI 4.6-12.8)。
Boniol氏は、「PSA値やDREや他のリスク因子など、今回補正した因子とは独立して、臨床家が、生検後短期間で死亡するような男性には、前立腺生検を推奨しなかった可能性がある」との見解を示した。ディスカッサントのStephen Freedland氏(Duke University)も、「臨床家の立場から、120日以内に死亡する可能性のあるような男性が、前立腺がんを気に病み、早期診断のために生検を行うこともなく、臨床家がこれを勧めることもないことは想像に難くない。PLCOは、第3相試験ではあるが、何らかの選択バイアスが存在したと考えられる」と、同意した。
◎生検による死亡リスクは極めて低い
生検例の多く(64%)は、陽性だったが、陽性(3.0人/1000生検)か陰性(1.0人/1000生検)かによる120日以内の死亡頻度に、有意差は認められなかった(p=0.32)。死因も生検群と対照群で差はなく、主な死因は呼吸器系疾患と腫瘍だった。
Freedland氏は、陽性例でやや死亡頻度が高かった原因として、手術やホルモン療法などの治療による死亡リスクの可能性もあるが、興味深いデータとして、進行前立腺がん、転移性前立腺がんの診断を受けた男性は、自殺する可能性が高いことを示した報告を紹介。進行がんの診断が、大きなストレスになることを示唆した。そして、「生検を受ける男性には、事前に感染、敗血症で死亡する可能性を告げるべきだが、生検自体による死亡リスクは極めて低い。またがんだと告げられた場合は、治療や自殺によって、死亡リスクはやや高くなるが、生検によってがんを早期発見することは、その後の長期死亡リスクを軽減する」と説明。「ベネフィットを得るためには常に何らかのリスクを伴うものだ」とまとめた。