【ESMO2012事後リポート】PHARE、HERAからみる トラスツズマブの妥当な投与期間は1年?
公開日時 2012/10/18 04:00
HER2陽性乳がん患者に対する標準治療である、トラスツズマブの治療期間は1年が適切——。これが現時点におけるエビデンスに基づく研究者/専門家の認識のようだ。9月27日~10月2日までオーストリア・ウイーンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で10月1日に開かれたProffered Paper Session「Presidential SymposiumⅡ」では、トラスツズマブの至適投与期間を検討した2試験、「PHARE(Protocol for Herceptin as Adjuvant therapy with Reduced Exposure)」、「HERA(HERceptin Adjuvant)」の成績が報告された。(医学ライター/リポーター 中西美荷)
トラスツズマブは、HER2陽性乳がんに対する標準的な治療法だが、至適治療期間についての明確なエビデンスはこれまでに確立されていない。
これまで1年が妥当とされてきたが、FinHer試験では、トラスツズマブ9週間投与によって1年投与と同等の成績が得られた。さらに、トラスツズマブ投与後の心毒性に対する懸念から、より短期間の投与の有用性が議論となっている。
◎PHARE 6カ月投与 12カ月投与への非劣性示せず
PHAREは、トラスツズマブ6カ月投与の12カ月投与に対する非劣性を検討した無作為化臨床第3相試験だ。
対象は、術後補助(アジュバント)療法/術前補助(ネオアジュバント)療法として、4サイクル以上の化学療法を受けているHER2陽性早期乳がん患者。2006年5月~10年7月までに3382例が登録され、化学療法後にトラスツズマブを6カ月投与(以下6カ月群、1690例)、12カ月投与(12カ月群、1690例)に1:1で無作為に割りつけられた。主要評価項目は無作為化後の無病生存(DFS)で、非劣性のハザード比(HR)は1.15とした。
追跡期間(中央値)42.5カ月におけるDFSイベント数は12カ月群176、6カ月群 219の合計395イベント。6カ月群の12カ月群に対するHRは1.28(95%CI :1.04-1.56、p=0.29)で、事前に設定されたマージンを満たすことができず、非劣性は証明できなかった。
結果を報告したThe Universite de Franche ComteのXavier Pivot氏は、「非劣性は証明できなかったが、今回の成績から6カ月投与が劣っていると結論づけることはできない」との見解を表明した。その理由として、6カ月群では12カ月群と比べ、心毒性が有意に少ないことや、ベネフィットを得る患者群がいることを挙げた。現在、6カ月投与によりベネフィットを得る患者群を特定するための多変量解析を行っているという。同試験はThe French National Cancer Institute主導で実施された。
なお、短期間投与の有用性については、現在PRESEPHONE、SHORTHER&SOLDなど複数の臨床試験が進行中であるほか、ゲノムワイド関連解析(G-WAS)によってHER2陽性乳がんのリスクとトラスツズマブに対する反応性/毒性を検討するSIGNALも進行中という。
◎HERA 2年投与 1年投与にDFS、OSともに有意差示せず
一方、トラスツズマブ1年投与、2年投与の有用性を検討したのが、HERAだ。多施設無作為化臨床第3相試験として実施され、今回、最終解析結果が報告された。
対象は、HER2陽性早期乳がん患者5012例で、アジュバント療法として必要に応じて化学療法、放射線療法を行った後、トラスツズマブ3週毎1年投与(1年群)、2年投与(2年群)または観察(観察群)の3群に無作為に割付けられた。
追跡期間(中央値)8年において、無病生存(DFS)イベントは、2年群、1年群ともに367イベントで、2年群の1年群に対するHRは0.99(95%CI: 0.85-1.14、p=0.86)で、有意差はみられなかった。
全生存期間(OS)もHR 1.05(95%CI:0.86-1.28、p=0.6333)で有意差はみられなかった。
結果を報告したHarvard Metical School/ Dana-Faber Cancer InstituteのRichard Gelber氏は、「現時点においてトラスツズマブの1年投与が、HER2陽性早期乳がん患者の標準療法というのが重要なメッセージだ」と述べた。なお、同試験は、the Breast International Group(BIG)の主導で実施された。