提供:株式会社 ケアネット
画期的新薬に高い評価を与えるものの、特許失効後はこれまで以上に売上減少を覚悟しなければならない市場環境に近年、激変している。特に2012年4月に新設された一般名処方加算は、特許失効後の先発品の売上減少スピードを、より加速させる可能性もある。このような市場環境への対応策のひとつが、新薬の売上の早期最大化だ。しかし、訪問規制や接待規制の強化によって医師との面会機会は減少傾向で、最前線で働くMRの頭を悩ませている。
そこで、eプロモーション分野で長い経験を持つケアネット社の大野元泰社長に、いまの市場環境を踏まえた最適な営業手法を聞いた。
―製薬企業を取り巻く環境をどのように見ていますか
大野氏 2012年度までにジェネリック品(以下、GE)比率を30%まで高めるとの政府方針のもと、4月から一般名処方加算という診療報酬での政策誘導も始まりました。今後はGE比率の目標が40~50%になる可能性も囁かれています。
従来の日本市場では、先発品は特許失効後、薬価の著しい低下がみられるものの、その使用量はほとんど不変ということが少なくありませんでした。しかし、今後はGEへの置き換えが一層進むことが政策上からも予想されます。つまり先発品企業の経営陣にとって2012年4月は、利益獲得の見取り図が大きく変化した分水嶺といえるでしょう。
しかも、訪問規制や事実上の接待禁止など、医師との面談機会が一段と厳しさを増していることを考えれば、新薬上市後から特許失効までの期間の売上上昇カーブが、今後は緩やかかつ低空な線を描く懸念さえあります。
こうして見ると、次世代の新薬開発原資だけではなく、プロモーション政策の予算にも影響を与え、MRの雇用継続の原資確保すら危ぶまれかねません。
今まで以上に上市後の売上上昇カーブをより早期に最大化する、もっと平たく言えば、「いかにして医師の新薬処方開始までの時間を短縮するか」という視点が重要性を増していると考えます。
―処方開始までの時間短縮を実現するカギはどこにあるのでしょう
大野氏 我々が会員医師と会員MRの双方にリサーチを行った結果から、非常に多くの重要な示唆が明らかになっています。医師側は、①基礎的な疾患および薬物療法の理解②作用機序③製品特性④他製品比較⑤患者タイプの把握――という5段の「理解の階段」を順々に昇らないと積極的な処方には至らないのです。
しかも、医師がこれらの各段階を理解するのにMRに許容する面談時間は概ね5分以内です。日常診療で短時間かつ効率的に患者を問診して、その対処法にまで至る医師の思考から考えれば、ある意味では当然の時間感覚です。
―MRの認識はどうでしょう
大野氏 MRは各段階とも5分以上の時間を想定しています。実際、会社から与えられた資料を使って最低限のキーメッセージを一方的に話しても、5分以内は極めて困難です。
より詳細に考察するならば、5分超となった段階で、医師の耳も塞がれる懸念が大きくなるといえるでしょう。
この点について医師・MRの双方へのヒアリングで確認すると、医師側は「MRは一方的な説明でこちらが理解したと思っているが、初期の段階でこちらの理解が止まっている場合が多い。にもかかわらず、処方催促の訪問を続けられると不快感が増す」という回答が目立ちます。
これに対してMRは、「医師に疑問点があって立ち止まっているとしても、それを察知したり、理解度を直接お伺いするのは難しい」との声が少なくありません。
また、別のMRリサーチでは、医師の処方開始までに必要な面談回数は平均8~10回となりました。一方、医師はあるMRに会う機会は、1回5分であったとしても、月1~2回といいます。単純計算しますと、医師が5段の「理解の階段」を最も順調に登り終えても、処方開始まで平均4か月以上が必要になります。この4か月をいかに短縮できるかが、今後の製薬企業の経営課題となるわけです。
―“4か月の短縮”という命題を達成するための妙案はありますか
大野氏 医師の多忙な労働環境と、現在の情報環境を踏まえた対策が必要です。ケアネットは10年以上にわたってeプロモーションに取り組み、豊富な効果実証経験を有しています。5段の「理解の階段」でも、eプロモーションが適しているものと、MRの訪問が効果的なものに分かれることが判明しています。
例えば作用機序の説明などは、CGを駆使したコンテンツの視聴の方が、MRが文書を手に口頭で説明するより医師には理解しやすいようです。しかし、ある新薬について、自身の診ている患者のうち、どういった患者に最適なのかといったことは、MRが持つ医薬情報や提案が重要な位置づけを占めます。
また、eプロモーションの利点のひとつは効果検証に優れることです。コンテンツの最後に医師の理解度を尋ねる質問やコメントを求めると、実は半数以上の医師が何らかのアクションを示します。
実際にMR調査では、MR活動と当社のeプロモーションを組み合わせると、訪問回数が5割程度削減できると実感したとの結果が出ました。5割削減となると、処方開始まで平均2か月になる計算です。
一方で、eプロモーションの最大の弱点は、コンテンツが秀逸でも、一般的に視聴率20%程度が限界だということです。しかし、これにMRから視聴を促すメッセージなどが加われば、視聴率がさらに上昇することが確認されています。もちろん、MRによる情報提供を好む医師については、従来通りペーパーベースでのやりとりが良いでしょうし、相手や状況によってはiPadを使用して説明するといった対応も考えねばなりません。
―ケアネットの新サービス「MRPlus」とはどういったものでしょうか
大野氏 ケアネットでは2011年春から、「MRPlus」を運営しています。これは医師が、自身の視聴履歴をMRが知ることを容認したeプロモーションシステムです。さらにアンケートの実施時に開示許可した医師に関しては、そのアンケート結果もMRに提供します。
医師が視聴時には、画面右上に該当薬剤の担当MRの写真が表示され、感想や質問、追加の資料要請などを担当MRに瞬時に行えます。
医師の記入内容は、MRにとって、該当医師への次回以降の効率的な訪問を行う一助になります。医師側も、求める情報を効率的に入手しやすくなります。
とりわけ従来から関係が深かった医師では、訪問頻度は最大で半減するとのデータもあります。そして、新たに創出された時間を、これから関係を深めたい医師への訪問時間に配分できます。その結果として、ターゲット医師全体に対して効率的かつ短期的な新薬投入が可能になります。
つまりMRかeプロモーションかの二者択一ではなく、困難な時代に立ち向かうことのできるMRのe武装化がとても重要というわけです。