記憶はリセット
公開日時 2011/07/12 04:00
転職を成功させたHさんと、入社3ヶ月後、偶然出会った我々は…。
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人事の仕事は、人を知ること。企業人事のなかには、千人近い社員の顔と名前、プロフィールを暗記しているという人も多いと聞く。社員ひとりひとりを大切にする人事担当者には本当に敬服するが、我々転職エージェントに同じことは出来そうにない。
エージェントは毎日のように新しい方と面談し、担当業界・職種・地域などによって差はあるが、アティティブに応募・面接をされている転職者だけでも、常に30人〜50人の方を担当している。
現在進行形で選考を受けている方々については、どういうキャリア、どういう志向、どういう希望条件があるといったことは頭に入れているが、経験を積んでマッチングの精度があがるほど、担当する転職者の入れ替えは速くなるので、いったん転職が決まり、手を離れた後は、ほとんどの情報を忘れてしまう。いや、むしろ、記憶をリセットしなければ回らない仕事なのである。
Hさん(28歳)は、我々が紹介した企業A社の研究部門に転職したエンジニアである。
人一倍心配性のHさんは、内定を受けた後入社するかどうかを決める際、考えがまとまらず、約1週間にわたり、毎晩彼からの電話相談を受けていた。
さんざん悩んだうえでの転職だったが、入社後は「転職して本当に良かった」とメールがあり、我々はホッと安堵していたのだった。
彼と連絡をとらなくなってから3ヶ月ほどだったころ、Hさんの担当エージェントは、とある冠婚葬祭の席で偶然、彼と顔を合わせた。
「あ、エージェントさんじゃないですか!」
転職成功で、我々に好印象をもって下さっていたHさんは、満面の笑顔で声をかけてきて下さった。
研究職という仕事柄、人と接する機会の少ないHさんは、我々のことをよく覚えてくれていた。いや、少し前に毎日のように電話で話していたのだから、覚えていて当然と言うべきか。
会話ははずみ、数十分も雑談は続いたのだが、ふとした時に担当エージェントはHさんの名前を別の方と取り違えて呼んでしまった。
「私の名前はHですが…」
「申し訳ありません。うっかりしてしまって…」
一瞬気まずい空気があったが、Hさんはすぐに笑顔に戻り、
「いいんですよ、お忙しいことは、よく分かってますから」
と、言ってくれたのだが…。
数日して、Hさんから我々のところに連絡があった。それも担当エージェント宛でなく、会社の代表に。
といっても、クレームが入ったわけではない。それは、実に心配性のHさんらしい内容だった。
「先日、お世話になったエージェントの方に偶然お会いしたのですが、私のことをよく覚えていらっしゃいませんでした。ほんの3ヶ月前、毎日電話をして、私のことを私以上に理解して下さっていたことを思うと考えられないことだと思います。失礼を承知で申し上げますが、ひょっとして担当エージェントの方は、なにか病気があるのではないでしょうか?以前、なにかで若年性健忘症は、いろいろな病気につながっていると聞いたことがあります。私は、転職が成功したのは、なにより担当エージェントの方のお陰と思っています。その恩人にもしものことがあれば、悔やんでも悔やみきれないという想いから、こうして連絡をさせて頂きました。私の考えすぎであることを祈っております」
礼を失したのはこちらなのに、こんな気づかいまで頂いて、本当に恐縮至極な気持ちである。我々もできることならすべての人を記憶しておきたいが、リセットしながらでないとパンクしてしまう。Hさんには心からお詫びしつつ、こう申し上げたい。
「転職エージェントというのは、むしろ心身の健康を保つために記憶をリセットしながらやっていく仕事のようです」と。
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