2010年のがん市場動向と注目すべきがん種 サイニクスとKantar Healthが調査
公開日時 2011/05/24 04:01
「大腸がんではKRASテストの実施頻度が84.8%に急伸し、米国の100%に近づきつつある。腎細胞がんではスーテントやネクサバールなどの分子標的治療薬の使用率は約50%まで上昇し、インターフェロンなどのサイトカイン療法の使用率を上回る結果となった」。日本のオンコロジー市場の治療動向に関する最新の調査・分析結果「Treatment Architecture Japan/Treatment Evolution Japan」の総集総責任者ゴードン・ゴコナワ氏が本誌の取材に応じ、2010年の調査結果から注目すべきがん種とその治療動向について分析した結果を明らかにした。
大腸がん 日本でKRAS遺伝子変異検査の普及率が85%に
同調査は昨年11~12月に医薬品マーケティング企業サイニクス社と米国のヘルスケアコンサルタント企業Kantar Healthが実施したもので、24のがん種に関して最新の治療動向について市場調査を実施し、分析・レポートしたもの。
ベクティビックスとアービタックスのEGFR抗体が使用可能になった大腸がん治療。KRAS遺伝子に変異のない(野生型)患者に効果が高いことが臨床試験で明らかになり、KRAS遺伝子変異検査が保険適用となり、EGFR抗体を投与する際に臨床現場で使われ始めている。
日米での着目すべき相違点は日本ではベクティビックスの使用率が高く、これは米国では同剤の適応が後期ラインに限定されている一方で、日本では治療ラインの縛りがなく、KRAS野生型患者の1stライン(ファーストライン)に使用可能なことが背景にあると分析している。一方、前年調査では日本でのアバスチンの使用率は米国より約20%低かったが、今回の調査ではその差が10%以下に縮まってきているとした。
また、国内でのKRASテストの実施頻度が向上(09年度調査49.4%→10年度調査84.8%)していることも報告しているが、テストの普及により、KRAS遺伝子変異群と比べ、KRAS野生型患者がより後期ラインまで治療を受けることを明らかにした。
腎細胞がん 分子標的治療薬の使用率がサイトカイン療法を上回る
国内で分子標的薬が4剤承認され、非常には競合の激しい腎細胞がん市場。欧米と比較しインターフェロンなどのサイトカイン療法の使用の減少傾向は緩やかであるものの、分子標的薬の使用率は上昇しているという。1stラインではスーテントやネクサバールの使用は拡大している一方で、mTOR阻害薬2製品(トーリセル、アフィニトール)の登場により、スーテントやネクサバールのセカンドライン以降の再使用が減少しているという。今後、開発中のパソパニブ(GSK)やアキシチニブ(ファイザー)等の分子標的治療薬の上市が見込まれるため、さらなる影響が考えられるとした。
なお、現在進行中の1stラインでのスーテントとIFN(インターフェロン)の併用療法、ネクサバールとIFNの併用療法のフェーズ2無作為比較試験の意義について、ゴコナワ氏は「現在の臨床データではスーテントのほうがネクサバールに比べて、PFSやレスポンスレイトは高い。しかし、日本では毒性の低い薬剤が好まれるため、ネクサバールのほうがアドバンテージが高い。IFNとの併用臨床試験でネクサバールがスーテントを上回る有効性を示すことができれば、ネクサバールは1stライン治療でより多く使われ、1stラインでのシェアは現在の25%前後から50%前後に上昇し、スーテントのシェアは25%前後から下がる可能性がある」との見方を示した。
慢性骨髄性白血病 注目されるグリベック特許切れ後の治療薬選択肢
慢性骨髄性白血病では1stライン治療のゴールデンスタンダートのグリベックに加えて、タシグナが使用可能になり、さらにスプリセルが10年12月に1stラインの承認申請を行ったばかり。今後の市場動向が気になるところだが、ゴコナワ氏は「タシグナは肺毒性の低さからスプリセルよりも忍容性の高い薬剤と捉えられているが、両剤ともグリベックより有効であるとの結果が出てきた」と指摘。今後、グリベックに対しどのくらい使用されるかが注目だが、両剤ともグリベックに比べ2倍の薬価がついており、しかもグリベックは非常に有効な薬剤であるとして「保険を支払う側がどう出てくるかで、今後の使用に影響を与えると考える」と述べた。
さらに、グリベックの特許切れ後の市場動向については「グリベックの価格が下がると大きな影響力を持ち、グリベックのシェアが戻る現象になりえる」と語った。