日本人の幸せ
公開日時 2010/11/09 04:00
同じタイミングで、同じ会社の同じ部署に転職をしたUさんとSさん。だが、2人には決定的な違いがあった。
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機械系エンジニアUさん(28歳)の転職エージェントとして、我々が最も力を注いだのは、彼を元気づけることだった。
Uさんのキャリアは、エリートエンジニアとはいかないが、中堅企業でコツコツとキャリアを磨いてきていた立派なもの。コミュニケーション能力・英語力なども平均以上で、Uさんを必要とする企業は必ず見つかるだろうと我々は踏んでいた。
唯一ボトルネックだったのは、彼自身の気持ちだった。前の企業で年配のエンジニアが、次々と肩たたきされていくのを見ていたUさんは、
「このまま一生懸命エンジニアを続けていても、自分の将来はあんな風にしかならないのかと思うと、仕事に対する意欲というか、執着心みたいなものが湧いてこないんですよ」
と、どうにもならない無気力感を訴えていた。
それでもフリーターから抜け出せない弟の姿を見てきたこともあり、「正社員として働き続けることの大切さ」、そして「自分にはエンジニアという仕事しかない」という気持ちから、Uさんは何とか転職活動に踏みとどまっていた。
彼が面接中最も気をつかっていたのは、キャリアの説明でも、自己アピールの方法でもなく、ふとしたタイミングで出てしまう「ため息」を抑えること。そんな状態だったので、簡単には良い結果は得られなかったが、ようやくもらった内定は、なかなか良い内容のものだった。
転職が決まった金型メーカーA社は前職より規模も大きく、年収も3割近くあがっていた。しかし、それでもUさんは
「ホッとはしています。でも、将来のことを考えると、自分の選択が正しかったのかどうか不安ですね」
と、晴れない霧の中にいるようであった。
さて、Uさんが内定になった時、もう1人のエンジニアが同時にA社への転職を決めていた。Sさん(29歳)である。
「A社は高い技術力をもった会社。間接的とはいえ、ずっと夢だった環境関連の事業に携わることもできます!」
求人紹介時に我々が説明した台詞をそのまま我々に返してくるほど、彼は興奮し、内定を心から喜んでいた。
SさんのキャリアはUさんと似たり寄ったり。中小のメーカーの開発・評価エンジニアとして、5年の経験があり、給与もほとんど変わらないものだったが、境遇という面では、2人の間には大きな違いがあった。
Sさんは中国の出身だったのだ。
SさんはUさんと違い、小さなことにも喜びを感じているように我々には思えた。
求人を紹介すると、Sさんは「また日本の会社で、働けるかもしれないんですね」と嬉しがり、開発の仕事には「今は掛け持ちの開発設計なので、専任になれたら最高です」と、やる気をみなぎらせ、選考が一段階前に進んだだけで「自分の能力を認めて貰えた」と、自信を深めていた。
Sさんの根底にあったのは、彼自身、そして故郷の成長感なのだろう。努力していれば、山を登るように見える景色はよくなっていく。そんな思いが、彼を前向きに、そして笑顔にしているように思えた。それは、現代の普通の日本人にはなかなか得難い確信である。
だが、と考えてしまう。似たような出発点から、同じ会社の同じポジションについたのなら、Uさんも同じように喜べておかしくないはずだ。たしかに中国出身のSさんのように、皆と発展を共有する感覚は持てないかも知れないが、もともと日本は、自分たちをダメだダメだと言いながら、少しずつ前に進んできた国だったように思う。そもそも、外国の人が「この国で働ける」と喜んでくれる、そんな日本にいること事態、幸せなはずではないか。
UさんとSさんの転職をふりかえる時、こう考えずにはいられない。日本人はどこに幸せを置き忘れてしまったのだろう、と。
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