小野薬品の相良暁代表取締役会長CEOは5月9日、2023年度(24年3月期)決算説明会に臨み、国内売上が24年度以降に「下がっていくリスクがある」と述べ、主要製品の価値最大化とともに製品導入に積極的に取り組んでいく考えを示した。24年度は市場拡大再算定を受けたオプジーボで200億円強の減収を見込むほか、25年度から段階的にフォシーガやグラクティブの特許が切れる。相良会長は、26年度に国内上市予定の抗てんかん薬・Cenobamateだけではフォシーガやグラクティブの減収影響をカバーすることは「難しい」と指摘。がんや免疫などの重点領域にこだわることなく、ニッチな領域の新薬やイノベイティブな新薬の導入を「積極的に考えていきたい」と述べた。
◎オプジーボ 24年度売上予想1250億円、14%減 市場拡大再算定の影響大きく
「(国内売上が)下がっていくリスクがあるから、これを防ぐことをいろいろ考えている」――。相良会長は国内事業の短中期の展望について、こう語った。
収益の柱であるオプジーボは24年4月の薬価改定で、バベンチオの共連れで市場拡大再算定を受け、薬価を15%引き下げられた。胃がんなど消化器系のがんを中心に処方は伸びているが、薬価引下げの影響は大きく、24年度売上は前年度比14.1%減(205億円減)の1250億円と予想した。
また同社では、25年度にフォシーガの2型糖尿病適応の特許切れ、26年度までに2型糖尿病治療薬・グラクティブの特許切れ、28年度にフォシーガの慢性腎臓病(CKD)などの適応の特許切れが控えており、日本市場で今後数年間、売上収益にマイナスインパクトを与えるイベントが続く。
このうちフォシーガは、オプジーボに次ぐ社内売上2位の主力品で、24年度は9.0%増の830億円を計画している。フォシーガの現在の成長ドライバーはCKD適応だが、25年度に特許切れ影響を受ける2型糖尿病に係る売上は全売上の50%以上を占めるとみられる。
◎オプジーボ 24年度申請予定の肝細胞がん適応に「ピーク時売上を上回っていく期待ある」
相良会長は、国内パイプラインのうち数年内に新たな収益貢献が期待できる新薬としてCenobamate(開発コード:ONO-2017)を挙げた。ただ、「これだけで当社の糖尿病主力2製品の段階的な特許切れを補うことは難しい」と指摘。「他の製品(の最大化)をはじめ、新たなアプローチも進める」と述べ、製品導入に積極的に取り組んでいることを明らかにした。なお、Cenobamateは韓国SKバイオファーマシューティカルズからの導入品で、小野薬品は国内の開発・販売権を持つ。てんかん部分発作を対象疾患に25年度中の国内申請、26年度中の上市を目指している。
胃がんや食道がんを中心に使用が拡大しているオプジーボは、24年度に肝細胞がん1次治療(ヤーボイ併用)の適応追加などの申請を予定している。相良会長は、この肝細胞がん適応を引き合いに、「データ次第ではあるが、オプジーボのこれまでのピーク時売上を上回っていく期待はある」と強調。既承認適応の最大化と新適応の取得によるオプジーボの25年度以降の再成長と、国内売上への貢献に高い期待感を示した。
このほか、今後の国内事業の展望を踏まえ、国内営業組織をスリム化する考えがあるかについては、「今の時点で決まったものはない」と述べた。
◎23年度業績 過去最高の売上、営業利益 研究開発費は初の1000億円超え
23年度連結業績は、売上は前年度比12.4%増の5027億円、営業利益は12.7%増の1599億円、親会社帰属純利益は13.5%増の1280億円――で、いずれも過去最高の数値を更新した。売上は9期連続の増収で、初めて5000億円を突破した。営業利益及び純利益は6期連続の増益を果たした。研究開発費は1122億円で、初めて1000億円以上を投じた。
◎オプジーボ 胃がん1次治療で新規処方シェア81% フォシーガはCKDで「大幅に拡大」
23年度の好業績の主な要因は、オプジーボやフォシーガを中心とする主力品の成長や、PD-1関連ロイヤルティの増加、アストラゼネカ(AZ)からの特許関連訴訟の和解に伴う一時金収入170億円の計上となる。
オプジーボは競争環境が激化するなか、胃がん、食道がん、尿路上皮がんなどで使用が拡大し、2.2%増の1455億円を売り上げた。本剤の直近の新規処方シェアは、胃がん1次治療で81%(24年2月)、食道がん1次治療で45%(23年11月-24年1月)、食道がん術後補助化学療法で51%(24年3月)――。いずれもシェア1位で、右肩上がりのトレンドと見せている。フォシーガはCKDでの使用が「大幅に拡大」して、34.7%増の761億円とした。フォシーガの前年度からの増収額は196億円となる。
PD-1関連ロイヤルティは、ブリストル マイヤーズ スクイブ(BMS)からのオプジーボに係るロイヤルティ収入が83億円増の979億円、米メルクからのキイトルーダに係るロイヤルティ収入は79億円増の530億円などとなった。
◎24年度は2ケタの減収減益予想
一方、24年度(25年3月期)は2ケタの減収減益と、厳しい年度となる見通しだ。同社は、売上は10.5%減の4500億円、営業利益は23.7%減の1220億円、親会社帰属純利益は28.9%減の910億円――になると予想した。ただ、研究開発には引き続き積極的に投資するとして、前年度並みの1120億円を用意した。
厳しい業績となる主な理由は、オプジーボの再算定影響や、PD-1関連ロイヤルティの料率変更などとなる。
オプジーボは市場拡大再算定による15%の薬価引下げの影響が大きく、14.1%減の1250億円となる見通し。なお、同社は4月の薬価改定で、オプジーボを含め、290億円のマイナス影響を受けた。
さらにPD-1関連ロイヤルティ収入に関し、契約に基づき、米メルクのキイトルーダに係るロイヤルティ収入の料率が23年12月までの全世界売上の1.625%から、24年1月以降0.625%に引き下げられた。スイス・ロシュからのテセントリクに係るロイヤルティ収入も、料率は非開示だが、1月から率が下げられた。小野薬品によると、これらの料率低下で370億円の減収影響が出る見通し。米メルク及びロシュからのロイヤルティ収入は26年末で終了する。
このほか24年度は、前期に計上したAZからの和解一時金170億円の反動も受ける。
相良会長は、24年度は▽4月の薬価改定影響(▲290億円)、▽ロイヤルティの料率低下の影響(▲370億円)、▽AZからの和解一時金の反動(▲170億円)――による計830億円の減収影響がある一方で、主要製品の売上増(+160億円)やBMSからのオプジーボ関連ロイヤルティ収入等の増加(+140億円)を見込んでいると説明。その上で、「(差し引き)500億円程度の減収を覚悟しないといけない厳しい年度になる」と述べた。
なお、小野薬品が4月30日に発表した米バイオ医薬品企業デシフェラ・ファーマシューティカルズの買収は、当局承認などの諸条件の充足を前提に、24年度第2四半期中に完了させる予定。このため現在の24年度業績予想にデシフェラの収益などは含まれていない。小野薬品はデシフェラの買収により、欧米での開発・販売力の強化につなげるとともに、デシフェラが欧米で販売している抗がん剤や後期開発品による短中期の収益貢献も期待している
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【23年度連結業績 (前年同期比) 24年度予想(前年同期比)】
売上高5026億7200万円(12.4%増) 4500億円(10.5%減)
営業利益1599億3500万円(12.7%増) 1220億円(23.7%減)
親会社帰属純利益1279億7700万円(13.5%増) 910億円(28.9%減)
【23年度の国内主要製品売上高(前年同期実績) 24年度予想、億円】
オプジーボ 1455(1423) 1250
フォシーガ 761(565) 830
オレンシア 258(248) 270
グラクティブ 212(225) 185
ベレキシブル 102(85) 100
カイプロリス 91(87) 95
パーサヒブ 82(84) 85
オンジェンティス 63(50) 75
オノアクト 43(45) -
ビラフトビ 34(32) -
オパルモン 36(44) -
メクトビ 26(25) -
*仕切価ベース
ロイヤルティ・その他 1857(1521) 1460
*BMSからオプジーボに係るロイヤルティ収入が23年度979億円(22年度896億円)――、メルクからキイトルーダに係るロイヤルティ収入が23年度530億円(22年度452億円)――がそれぞれ含まれる。