製薬トップが2022年始動で年頭あいさつ ビジネス転換に意欲表明 DX推進やデジタル人財育成など注力
公開日時 2022/01/07 04:51
製薬企業各社のトップは2022年の始動にあたり、年頭あいさつを公表した。各社トップはコロナ禍を経験したことに伴う社会構造や社会システムの変化を捉え、ビジネストランスフォーメーションの必要性や、そのために必要な人財と育成、さらにはデジタルを活用した新たなビジネスへの転換などについて意気込みを語った。
◎武田薬品 クリストフ・ウェバー代表取締役社長 CEO
今後もさまざまな面から変革に取り組む。その一例として、世界に通用する理想的なハイブリッドの働き方の構築を目指す。これにより、武田薬品の企業文化や一体感がさらに強化され、適度な柔軟性を確保しながら最も望ましい形でワークライフバランスを実現できると確信している。私個人は、バーチャル環境で仕事をすることにメリットはあると実感している。同時に、実際に対面で交流することで生まれるパワーは何物にも代えられないと思っている。
加えて、データ&デジタルの活用をさらに進めたい。AIや機械学習の活用は研究開発分野のみならず、あらゆる仕事の進め方に影響を与えるだろう。また、逆境に負けないしなやかな強さ(レジリエンス)を持ち、将来の変化にしっかりと対応できる組織づくりを進めるためにも、全従業員を対象としたデータとデジタルに関する学習プログラムを計画している。
◎大塚ホールディングス 樋口達夫代表取締役社長 兼 CEO
未知の感染症の世界的流行により、人々の生活は一変し、変異を繰り返すウイルスへの対応、そしてウィズコロナの社会構築の模索が続いている。このような変革のさなか、大塚グループは昨年9月に創業 100年を迎えた。
1921年の創業より、時代とともに移り変わるニーズを注意深くとらえ、変化に対して柔軟に対応を行うことで事業を継続してきた。これからも「健康」という人々の普遍的な願いにこたえるべく、トータルヘルスケア企業としての強みを生かして、「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」に取り組む。これまでの 100 年にご支援いただいた皆様への感謝を胸に、大塚グループは“Otsuka-people creating new products for better health worldwide”の企業理念のもと、今後も事業活動を通じたサステナブルな社会の実現に向けて邁進したい。
◎中外製薬 奥田修代表取締役社長CEO
2021 年は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンや治療薬が普及する一方、デルタ株やオミクロン株などの変異株が発生し、引き続き世界の人々が大きな制約を受けた一年だった。こうした中、昨年2月に2030 年に向けた成長戦略「TOP I 2030」を発表し、「世界の患者さんが期待する」、「世界の人財とプレーヤーを惹きつける」、「世界のロールモデル」という「トップイノベーター像」を掲げた。この目標に向け、事業活動のあらゆる場面で着実に歩みを進め、実り多い一年とすることができた。
2022年は、建設中の新研究拠点「中外ライフサイエンスパーク横浜」がいよいよ10月に竣工を迎える。富士御殿場と鎌倉に分かれた二つの研究所を集約し、創薬研究に関わる全機能を統合することで効率化と連携を促進し、連続的なイノベーション創出を目指す。新製品では、糖尿病黄斑浮腫および加齢黄斑変性を対象に昨年承認申請したファリシマブにより、当社として初めて眼科領域に本格参入する見込み。主力品の適応拡大に対する承認や申請も複数予定し、治療へのさらなる貢献を目指す。
◎田辺三菱製薬 上野裕明代表取締役社長
昨年は COVID-19 が社会・経済に大きな爪痕を残す一方、世界が力を合わせ、自らの力で回復の兆をつかみとり、人類のレジリエンスの高さを証明した一年でもあった。昨年4月にMISSIONとVISION 30を新たに掲げ、中計 21-25 をスタートさせ、その中で研究開発ではプレシジョンメディシン、事業展開ではアラウンドピルソリューションを新しい取組みとして推進している。またCOVID-19に挑戦すべく世界初となる植物由来 VLP ワクチン(MT-2766)の開発に注力し、カナダでの承認申請を行った。現在、日本でも臨床試験を実施しており、一日も早くCOVID-19 ワクチンの新たな選択肢として届けたい。
2022年はCOVID-19 と共生しながら本格的な経済回復に向けて、世界の動きが活発化する1年となるだろう。当社も、MT-2766 の事業化に加え、MT-1186(経口 ALS 治療薬)や MT-7117(プロトポルフィリン症治療薬)の米国承認申請などグローバル展開を更に加速させ、未来に向けた重要なマイルストンを刻む1年としたい。
4 月からは三菱ケミカルホールディングスの新体制が本格的に始動し、その中で当社は、重要事業として位置付けられたヘルスケアの中核企業としてその存在感を高めたい。
◎アステラス製薬 安川健司代表取締役社長CEO
昨年5月に「経営計画 2021」を発表した。これは「経営計画 2018」での取組みをさらに加速させるものであり、戦略の立案から実行に軸足を移すものだ。中長期的な成長を牽引するイクスタンジおよび重点戦略製品の分野は、尿路上皮がん治療剤「パドセブ」を日本でも販売開始できた。HIF-PH 阻害剤「エベレンゾ」の欧州における慢性腎臓病に伴う症候性貧血治療薬としての販売承認取得、急性骨髄性白血病治療剤「ゾスパタ」の中国における条件付き承認取得、さらに、前立腺がん治療剤「イクスタンジ」は各国で適応追加を取得するなど順調な進捗を見せた。閉経に伴う血管運動神経症状に対する経口型の非ホルモン治療薬「fezolinetant」は昨年、2本の第3相臨床試験で主要評価項目を達成することができました。今年度も重点戦略製品は重要なマイルストンを数多く迎える。その一つひとつを確実に成果に変えられるように取り組んでいく。
重点戦略製品の次のパイプラインを確実にするための研究開発戦略であるFocus Area アプローチに引き続き注力し、その戦略に基づいて選定した Primary Focusに重点的に投資する。「Rx+」ビジネスにおいて、昨年はエムハートと共同開発したAIを用いたホルター心電図解析サービスを開始した。今年も複数の 「Rx+」の開発と商業化に取り組む。
◎エーザイ 内藤晴夫代表執行役CEO
アルツハイマー病治療薬開発のトップランナーを走り続けることができたことは大きな誇りだ。米国で迅速承認を取得したアデュカヌマブに加えて、同じく米国で迅速承認制度に基づき段階的申請を開始したレカネマブについても、今年は申請を完了するとともに、臨床第Ⅲ相試験の結果取得が期待される。新たな治療薬をグローバルに届けるという大きな使命を果たし、1 日も早く身近なものにしてほしいという人々の期待に応えたい。
2022年に本格的な始まりを迎える New Normal 時代のコミュニケーションにおいては、相手の想いをより深く知ろうとする努力(共感)、そして相手の想いと自分の想いを重ね合わせ(相互主観)、未来を見据える力(本質的直観)が最も重要となる。これらを用いて、神経領域とがん領域におけるイノベーション創出と、DX 活用によるエーザイのエコシステム・プラットフォームの構築・実装に向けて大きく踏み出す 1 年としたい。
◎大日本住友製薬 野村博代表取締役社長
2022 年は、米国で「マイフェンブリー」の子宮内膜症の適応追加の取得、大塚製薬と共同開発する ulotaront(SEP-363856)の第2、第3の適応症の決定と臨床試験の開始を予定している。フロンティア領域では日本で認知症周辺症状用機器、米国で社交不安障害用VRコンテンツが提携会社から発売される予定。再生・細胞医薬分野では、パーキンソン病を対象とした iPS 細胞由来ドパミン神経前駆細胞について、2023 年度の日本での上市を目指すとともに、米国での展開も進める。
中期経営計画の最終年度にあたる 2022 年度は、「ラツーダ」の独占販売期間終了後の新しいフェーズに向き合うための準備期間となる。内外の環境変化によって、当社の課題も自ずとチャレンジングになる。このような不確実性の高い状況下でも、私たちがプロアクティブに行動し、果敢に課題に挑戦して結果を出していくことが必要。従業員一人ひとりがしっかり自律・自立して、組織の能力を最大限に発揮し、チーム一丸となっていかなる困難も克服するという強い意志を皆さんにお持ちいただきたいと考える。
4 月には社名を「大日本住友製薬」から「住友ファーマ」に変更する。企業ブランドを世界共通ブランドとして明確にすることで、一体感と住友ブランドに対するプライドをもって仕事をしていただけると信じている。
◎塩野義製薬 手代木功代表取締役社長
パンデミックは私たちに本当に沢山の変化をもたらした。大切なのは、その変化を見極めることだ。2022年、そしてそれ以降、会社全体、組織全体、あるいは一人ひとりになって、何が新しい日常(ニューノーマル)で、何が変えられない、変わらない「価値」なのかを改めて考える機会にして頂きたい。
変化の例として、COVID-19のワクチンに関し、研究から開発、そして商用生産に到るまで、毎日新しい課題との戦いだが、それを通して皆さんには日々本当に力をつけて頂いていると実感している。治療薬についても通常の1/3以下の時間で研究・開発が進んでおり、商用生産は通常2~3年かかるところを3~4か月で走りながら新しいやり方にトライしている。今後は、他の品目や他のプロジェクトにいかに適用し、仕事のやり方を世界水準に引き上げていくかが大切だ。リスクを取り、一定の失敗を覚悟の上で仕事のやり方を変えてくことを最大のテーマにして頂きたい。
◎協和キリン 宮本昌志代表取締役社長
2022年は、外部環境の変化や昨年の課題をもとに各製品のさらなる市場浸透を進めていく。そのためにはまず、グローバルでの安定供給体制を強固なものにしていく必要がある。また、地域、組織、製品ごとの課題を解決するためにグローバルでの社内コミュニケーションをより円滑にし、これまで以上に患者さんを中心とした活動を推進していかなければならない。
加えて、中長期的な成長のためには、後期フェーズの開発を着実に進め、Life-changing な価値を提供するパイプラインを充実させるための研究開発をより活性化させることも欠かせない。このような活動を推進する人材育成やデジタル基盤の強化、また、目標全ての土台作りとして位置づけられる企業文化改革プロジェクトも引き続き強く推し進めたい。
◎東和薬品 吉⽥逸郎代表取締役社⻑
昨年はジェネリック医薬品業界の品質や安定供給の問題について、関係者の皆様にご⼼配とご迷惑をおかけしましたことを⼤変⼼苦しく思っている。ジェネリック医薬品数量シェア 80%となった今、ジェネリック医薬品の安定供給は社会的責任があると考えている。製造管理、品質管理を徹底し、安定的に供給できるよう努めてまいりたい。
新規事業については、昨年 12 ⽉ 17 ⽇に三⽣医薬の買収合意について発表した。今後、三⽣医薬の既存事業の拡⼤を図るとともに、三⽣医薬の製造技術とノウハウに東和薬品の製剤技術を付加した東和ブランドの製品の企画、開発および製造を新たな事業展開として進めたい。
◎ツムラ 加藤照和代表取締役社長CEO
2022年の干支は「壬寅」だ。壬は荷を担う、任務を立派に処する、という意味をもつ。寅の「宀(う・かんむり)」は建物、組織を表し、真ん中は人がさし向かいになっている象形文字で、手を合わせる、協力するという意味がある。転じて、「壬寅」は、一人ひとりが責任をもって任務を全うし、お互い助け合いながら成果をあげる年といえる。一人ひとりが使命感に燃え、ツムラグループが一体となり、チームで大きな成果を生み出す年としていきましょう。
◎持田製薬 持田直幸代表取締役社長
医薬品業界においては、社会保障費財源確保の問題を背景とする薬剤費・医療費抑制政策が継続的に推し進められ、2022 年度も薬価改定が控えているなど、取り巻く環境は厳しさを増している。このような中、当社グループは、さまざまな環境変化にも柔軟に対応できるよう全社を挙げて取り組んでいる。
イノベーション創出と生産性向上に向けた取り組みをさらに加速し、利益を生み出す体制の強化を目指す。製薬企業としての価値の提供に取り組むとともに、持続可能な社会の実現にも努めたい。
◎日本新薬 中井亨代表取締役社長
私たちの働き方、社会・経済は大きく変化しているが、変化を恐れず、私たち自身が変化を起こすのだというマインドセットが必要だ。新しいことに挑戦し、成長していくためには、現在、自分がいる快適な空間「コンフォートゾーン」から一歩外に出た「ラーニングゾーン」に身を置く機会を増やさなければならない。今年は、「コンフォートゾーンを飛び出して、成長への一歩を踏み出そう!」を合言葉に、皆さんと会社がともに成長していきましょう。
◎帝人ファーマ 渡辺一郎代表取締役社長
新型コロナ禍は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やカーボンニュートラル実現への流れが世界的に強まる契機となり、その感染拡大と長期化は、予想を超えるスピードでDXの実用化を進めた。特に過去20年間にわたり議論されてきたオンライン診療・服薬指導の導入は、この2年間で劇的に進展した。このような変化が新しいヘルスケアの扉を開き、リアルとデジタルを融合した健康・医療の未来像を現実的なものにしていくのではないかと思っている。
昨年10月にはグループ会社である帝人ヘルスケアの営業拠点を、これまでの12支店75営業所から、地域密着型の18支店129営業所へと再編した。今年も厳しい経営環境が続くが、医薬品、在宅医療の事業統合を進め、さらに保険外ビジネスを併せ持つ強みを活かし、質の高い地域密着型の情報提供・収集活動を通じて、患者様にとって価値ある企業として存在感をさらに高めていきたいと考えている。