中医協・公聴会 地域包括ケアシステムの構築で「医療機能の分化・連携」に意見多数
公開日時 2018/01/22 03:50
中医協は1月19日、2018年度診療報酬改定について千葉市内で公聴会を行った。医療法人芙蓉会五井病院の川越一男理事長は、医療経済実態調査の結果を引き合いに、「多くの病院が公私を問わず経営の危機にある」と指摘した。入院医療については、患者の医療ニーズと看護配置など医療資源の投入量に応じた報酬体系に見直す方針。川越理事長は、看護配置7対1の一般病棟入院基本料に相当する診療実績部分の評価について、現行の重症患者の受入れ割合25%を「引き上げることのないよう要望する」と求めた。このほか意見発表者からは、地域包括ケアシステム構築を視野に、医療機能の分化・連携に関連する意見が多く出された。
この日の公聴会では、医師、薬剤師、看護師、健康保険組合、連合、協会けんぽ、患者などが、2018年度診療報酬改定に際して、意見発表を行った。2018年度診療報酬改定が地域包括ケアシステム構築に向けて、かかりつけ医、かかりつけ薬剤師、かかりつけ医が重視される中で、医療機関をはじめとした機能分化・連携が求められている。入院医療については、医療ニーズ(患者の状態や医療内容)と医療資源の投入量(看護配置等)に応じ、基本料と診療実績部分による報酬体系に一本化される。地域医療ニーズの将来推計として、急性期のニーズが横ばいから減少へと向かう中で、7対1入院基本料を算定する医療機関の需要も減少し、今後削減に向かうことも想定される。一方で、急性期病床の受け皿とされる地域包括ケア病棟の位置づけも重要になる。
◎入院医療「地域医療が崩壊しないよう十分な手当てを」芙蓉会五井病院・川越理事長
川越理事長は、「7対1削減ありきで議論が進んでいるように見えるが地域医療が崩壊しないよう十分な手当てをしてほしい」と強調。一方で、地域包括ケア病棟については、制度発足当初は地域医療を支える中小病院の算定を想定していたが、実際には大規模な急性期病院が算定している状況にあると指摘。「地域医療を支える中小病院の評価にすべきだ」と述べた。また、開業医の立場で意見表明した医療法人社団孚誠会(ふせいかい)浦安駅前クリニックの佐藤孝彦院長(千葉県医師会理事)は、かかりつけ医を評価する点数である、地域包括診療料・加算の算定が進んでいない実態について、「かかりつけ医を診療報酬で後押ししていただきたい」と述べた。
◎「予防から治療・療養まで見ることが薬剤師の役割」カネマタ薬局・高橋代表取締役
開局薬剤師の立場で意見表明したカネマタ薬局の高橋眞生代表取締役(元千葉県薬剤師会常任理事)は、「地域に密着し健康をサポートすることが薬局の本来あるべき姿だ」、「薬を通じ、地域住民を生まれてから亡くなるまで、予防から治療・療養まで見ていくことが薬剤師の役割だ」との考えを表明。かかりつけ薬剤師について、「制度の正しい理解と十分な浸透が必要だ」と強調した。地域包括ケアシステム構築が求められる中で、医師や歯科医、病院薬剤師を含めた多職種連携の必要性を指摘し、「薬剤師の地域賦活ケアへの参画は必須。チームとして療養に当たり、その成果があったのならばそのチームを評価することは必要ではないか」との考えも示した。
患者代表の立場で意見表明したNPO法人患者スピーカーバンクの香川由美理事長は、がん患者などで治療と仕事の両立支援として、主治医と産業医との連携などについての評価が新設される方針であることに触れ、「治療と仕事だけでなく生活上の様々な変化が困難を生み出す。主治医とは治療の話をするのが精いっぱいでその後の生活のことを相談することは難しかった」と指摘。「医師だけでなく多職種が活躍できる」ことを訴えた。
◎「財政状況は極めて深刻」千葉銀行健康保険組合・上野常務理事
保険者の立場である千葉銀行健康保険組合の上野洋一常務理事は、「厳しい事業運営を余儀なくされている。拠出金の増大などで財政状況は極めて深刻だ」と説明。診療報酬改定の改定率がプラス0.55%で決着したことについても、「残念で遺憾だ」と述べた。その上で、「地域医療構想に沿って病床機能の分化・連携を確実に進め、過不足なく効率的に提供される医療提供体制が求められている」と述べた。日本労働組合総連合会千葉県連合会(連合千葉)の林田博史事務局長は、同一県内でも医療格差が生じている実態を指摘し、「同じ保険料を支払っている患者が等しく医療を受け入れるよう、こうした視点に配慮した診療報酬」の実現を求めた。
◎遠隔診療の「安易な診療報酬の手当ては反対」浦安駅前クリニック・佐藤院長
また、18年度診療報酬改定で焦点となっている遠隔診療について、医療法人社団孚誠会浦安駅前クリニックの佐藤院長は、「遠隔診療はあくまで対面診療の保管。利便性を優先し、有効性・安全性を無視すれば患者にとってかえって不利益となる。安易に診療報酬で手当てすることは反対だ」と強調。千葉銀行健康保険組合の上野常務理事は、生活習慣病の重症化予防が求められる中で、遠隔診療の推進により、患者が脱落しない体制が構築できることに期待感を示し、「ICT化時代にあったツールの活用を図りつつ、効率的・効果的な医療の促進を求める」と述べた。
後発医薬品の使用促進について、カネマタ薬局の高橋代表取締役は、1店舗で在庫医薬品数が2500を超えるケースもあることを紹介し、「調剤過誤等のリスク回避のために負担が増えている。行政や保険者の連携が必要だ」との考えを示した。そのほか、診療明細書の無料発行を求める声が多数あがった。中医協では2月7日の答申に向け、各改定項目の算定要件について詰めの作業を行うことになる。