厚労省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」は4月6日、報告書をまとめ、塩崎厚労相に手渡した。報告書では、今後の地域包括ケアシステムの普及や、人工知能（ＡＩ）やIoTなどICTの急速な進展を見据え、医師と他の医療職間で行う「タスク・シフティング（業務の移管）／タスク・シェアリング（業務の共同化）」を提言した。具体的には、新たな「診療看護師」の養成や、薬剤師による調剤業務の効率化、フィジシャン・アシスタント（ＰＡ）の創設などを盛り込んだ。審査支払機関に対しては健診情報やレセプト情報をビッグデータとして活用し、保険者の機能強化への取り組みを求めた。

◎医師偏在「敢えて医師数を増やす必要のない環境づくりを」

報告書は、高齢化の進展や人口構造の変化、さらにはＩＣＴ技術の進展に伴う医療環境の変化などを見据え、今後の医師や看護師など医療従事者の「働き方」について提言した。報告書を通じたメッセージは「高生産性と高付加価値」の実現。喫緊の課題であった医師偏在については、「敢えて医師数を増やす必要がない環境を作り上げていく事が必要である」との見解を明示した。

その上で地域医療を支えるプライマリ・ケアの構築にあたっては、一人の医師に負担が集中しないよう「グループ診療」を基本とした診療体制が必要と指摘。「疲弊しないシステム」とするために、医師と多職種間で患者情報を共有・連携しながら、チームでケアに応じる体制の整備を求めた。プライマリ・ケアの機能としては、住民への予防・健康リテラシーや医療コスト意識の涵養を図るとし、スイッチＯＴＣ医薬品の普及促進も機能強化の後押しになるとした。

◎「診療看護師」養成　薬剤師業務は、箱出し調剤、リフィル、ＩＣＴ活用の服薬指導

「タスク・シフティング（業務の移管）／タスク・シェアリング（業務の共同化）」の提言のうち、看護師については、2015年10月から特定行為研修制度が創設・開始されたことを踏まえ、研修制度の対象となる医行為について、安全性と効率性を踏まえながら拡大し、このような業務を行う「診療看護師」を養成していく必要があるとした。
一方、薬剤師については、生産性と付加価値の向上を求めた。具体的には調剤業務の効率化を推進するとし、欧米で主流の「箱出し調剤」を検証し、移行すべきとした。かかりつけ薬剤師についても多様な働き方を確保するため、常勤薬剤師に限定されることのないよう要件の見直しを図ることも求めている。さらに地域包括ケアシステムにおいて、保険者が行う糖尿病性腎障の重症化予防プログラムにかかりつけ薬剤師が指導的役割を担うことも一考とした。リフィル処方への対応やＩＣＴを活用した服薬指導なども例示している。

◎「ＰＡ資格」創設　簡単な診断や処方などを想定

このほかプライマリ・ケアと高度医療の両面で医師を支える「フィジシャン・アシスタント（ＰＡ）」の資格を新たに創設する考えを提言した。簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理などを想定しており、具体的な内容は学会などが中心となってガイドライン等を検討すべきとした。

◎審査支払機関はビッグデータ活用し、保険者保有情報をプラットフォーム化

審査支払機関の役割にも言及している。ＡＩやIoTなど最新のＩＣＴ技術が医療・介護分野に浸透することを見通し、電子的な診療情報を積極的に活用していく考えを明記した。すでに政府も医療ＩＣＴの利活用に向けた動きを加速させている。報告書では、個人の健康・医療・介護に関する履歴を分析し、医療の質向上に資するような各保険者保有情報のプラットフォーム化を提案。その上で、保険者がこの情報を用いてデータへルスの中核的な役割を果たし、保険者本来の機能を強化していくことが必要との考えを盛り込んだ。

◎日医・横倉会長がコメント　診療報酬・介護報酬への報告書言及は「適切な方策ではない」

なお日本医師会は同日、厚労省検討会の報告書について横倉義武会長名のコメントを発表した。焦点となった医師偏在対策については、「方法論は別として、本会の意見と同じ」とした。ただ、報告書に明記された取り組みに対しては、「診療報酬や介護報酬による誘導や、その支払い方式にまで言及する記載があるが、これらが必ずしも適切な方策とは考てえない」と強調。「本来は中医協や社会保障審議会介護給付費分科会などで適切に財源配分を含めて議論することが重要」とコメントした。