厚労省は3月28日、新薬16成分34品目を承認した。この中には、日本肺癌学会が早期承認を求めていたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性非小細胞肺がん治療薬タグリッソ錠(アストラゼネカ)など抗がん剤6成分が含まれる。
承認されたのは次のとおり(カッコ内は成分名と申請社名)。
▽タフィンラーカプセル50mg、同カプセル75mg(ダブラフェニブメシル酸塩、ノバルティスファーマ):「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。
国内の悪性黒色腫患者は約4000人で、「BRAF V600遺伝子」の変異を有する患者は800人~1200人と推定される。同剤は、腫瘍増殖に関わる「BRAF V600遺伝子」の変異型のセリン/スレオニンキナーゼを阻害し、腫瘍増殖を抑える。
用法・用量は通常、成人には1回150mgを1日2回、空腹時に経口投与する。単剤投与も可能。
▽メキニスト錠0.5mg、同錠2mg(トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物、ノバルティスファーマ):「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。
タフィンラーカプセルと併用する。BRAF遺伝子変異による腫瘍増殖に関わる酵素であるMEK(MEK1、同2)を阻害する作用を持つ。これにより、腫瘍の増殖を抑える。
用法・用量は、「ダブラフェニブとの併用において、通常、成人には1回2mgを1日1回、空腹時に経口投与する」。
▽サブリル散分包500mg(ビガバトリン、サノフィ):「点頭てんかん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。
「点頭てんかん」は通常1歳未満の乳児に発症する稀な難治性のてんかん。乳幼児での死亡率は5~30%と推定される。患者数は2997人(平成24年度小児慢性特定疾患治療研究事業の全国登録状況)。厚労省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を経て、厚労省から開発要請を受け、アルフレッサファーマと共同開発された。
日本においては1990年代に開発されたことがあるが、海外での不可逆性の視野狭窄の副作用の報告を受け、開発が中止されていた。米国でも視野狭窄の副作用が問題視されたが、厳格な管理下で使用されている。そのため今回、承認条件として、使用にあたっては講習を義務づけ、処方医のみならず、眼科、薬局でも十分な安全対策がとられること求める。
▽シクレスト舌下錠5mg、同10mg(アセナピンマレイン酸塩、Meiji Seika ファルマ):「統合失調症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年
非定型抗精神病薬。通常1回5mgを1日2回舌下投与から開始。維持用量は1回5mgを1日2回。最高1回10mgを1日2回まで。同社は中枢神経領域を重点領域とし抗うつ薬を持っていたが、統合失調症の治療薬は初めて取り扱うことになる。
▽フィコンパ錠2mg、同4mg(ペランパネル水和物、エーザイ):「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)、強直間代発作に対する抗てんかん薬との併用療法」を効能効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年
同剤はAMPA受容体の活性化を非競合的に阻害し、神経の過興奮を抑制するAMPA受容体拮抗薬。1日1回2mgの就寝前投与から開始し、その後1週間以上の間隔をあけて2mgずつ漸増する。同剤はCYP3Aで代謝されるため、同酵素を誘導するフェニトインなどと併用すると、効果が減弱する。そのため、それら代謝促進する薬剤と併用する場合の維持用量は1日1回8~12mg、併用しない場合は1日1回8mgとする。
▽カヌマ点滴静注液20mg(セベリパーゼ アルファ遺伝子組換え、アレクシオンファーマ):「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。
ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(LAL欠損症)は、リソーム酸性リパーゼをコードとする遺伝子が欠損する常染色体劣性遺伝疾患で、肝障害や脂質異常症など重篤な合併症をきたすことが多い。乳児期に発症すると通常、生後6カ月以内に死亡する。
同剤はLAL欠損症で消失または低下した酵素を補充することで全身に蓄積したコレステロールエステル及びトリグリセライドなどを低下させ、LAL欠損症の症状を改善する。国内初のLAL欠損症の医薬品となる。
▽マーデュオックス軟膏(マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル、中外製薬):「尋常性乾癬」を効能・効果とする新医療用配合剤。再審査期間6年。
マルホと共同開発。中外が創製した活性型ビタミンD3誘導体のマキサカルシトールと、合成副腎皮質ホルモンのベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステルの配合外用薬。両剤とも単剤で尋常性乾癬の効能・効果があり、単剤療法または併用療法が実施されている。
承認取得後は、中外が製造販売承認を保持し、マルホが情報提供活動と販売を行う。
▽ゾーフィゴ静注(塩化ラジウム223Ra、バイエル薬品):「骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。
進行した状態である去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)では、患者の多くが骨転移しているといい、疼痛や骨折、脊髄圧迫、生存期間に影響するとされる。同剤は放射性医薬品で、骨転移巣に対し、同剤から放出されるアルファ線がDNAの二重鎖切断を誘発し、殺細胞効果を示す。
▽ジカディアカプセル150mg(セリチニブ、ノバルティスファーマ):「クリゾチニブに抵抗性のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。
同剤は、がん細胞の増殖に関与するALK融合遺伝子の活性を阻害することで効果を発揮するALK阻害薬。通常、成人には1回750mgを1日1回、空腹時に経口投与する。ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん患者数は約2200~5500人と推測され、非小細胞肺がん全体の2~5%程度とされる。
▽タグリッソ錠40mg、同80mg(オシメルチニブメシル酸塩、アストラゼネカ):「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。優先審査品目。
イレッサなどEGFR阻害薬による治療に耐性が生じた患者にみられる「EGFR T790M変異」という新たな遺伝子変異を標的にするもの。EGFR阻害薬が奏効しても、ほとんどの症例で1年程度で耐性化し病状が進行するが、この耐性化した症例の過半数にT790M変異がみられるという。ただ、T790M変異陽性肺がんに対する治療薬がないため、日本肺癌学会が15年7月に同剤の早期承認を厚労相に求めていた。同剤は同年8月に申請、優先審査された。EGFR T790M変異陽性の非小細胞肺がん患者数は約1万9700人~3万5300人と推測されている。1日1回経口投与で用いる。
▽イムブルビカカプセル140mg(イブルチニブ、ヤンセンファーマ):「再発または難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間10年。
1日1回経口投与タイプの新規作用機序を有するブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬。慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)は血液がんの一群で、白血球の一種であるB細胞由来のB細胞性悪性腫瘍。患者数はCLLが約1000人、SLLが約1600人と推定される。
悪性B細胞ではBTKを含むB細胞受容体シグナル伝達経路が過剰に活性化しているが、イブルチニブはBTKと強固な共有結合を形成し、悪性B細胞の過剰な細胞生存シグナルの伝達を抑え、リンパ節などでの過剰な細胞増殖を阻止する。
▽アディノベイト静注用250、同500、同1000、同2000(ルリオクトコグ アルファペゴル(遺伝子組換え)、バクスター):「血液凝固第8因子欠乏患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。
出血時の止血管理、定期補充療法に用いる。既存のアドベイト静注用の有効成分であるルリオクトコグ アルファ(遺伝子組換え)に分子量約20kDaのポリエチレングリコール(PEG)を結合させた遺伝子組換え血液凝固第8因子製剤。PEG化することでアドベイト静注用よりも血中半減期を延長させた。
▽コバールトリイ静注用250、同500、同1000、同2000、同3000、同静注用キット250、同キット500、同キット1000、同キット2000、同キット3000(オクトコグ ベータ(遺伝子組換え)、バイエル薬品):「血液凝固第8因子欠乏患者における出血傾向の抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。
出血時の止血管理、週2または3回の定期補充療法に用いる。既承認のコージネイトFSでは生産培養工程において、アルブミン及びグロブリンを含有するヒト血漿タンパク質溶液を使うが、同剤はこの溶液を使わないで生産できるようにしたもの。これにより生産性を高める。
▽マラロン配合錠、同小児用配合錠(アトバコン・プログアニル塩酸塩、グラクソ・スミスクライン):「マラリア」を効能・効果とする新用量(配合錠)、剤形追加(小児用配合錠)に係る医薬品。再審査期間は残余(平成32年12月24日まで)。
小児用配合錠は1/4の含量で、アトバコン62.5mg、プログアニル塩酸塩25mgとなる。追加されたのは小児の治療における体重5kg以上11kg未満の用法・用量と、小児の予防における体重11kg以上40kg以下の用法・用量。
▽プリマキン錠15mg「サノフィ」(プリマキンリン酸塩、サノフィ):「三日熱マラリア及び卵形マラリア」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。
これらマラリアの治療には、まず血液中のマラリア原虫を殺す薬剤を用いるが、休眠原虫が肝細胞内に残存し、再発のおそれが残る。それに対し今回申請した薬剤は効果を発揮して完全治癒に導く。唯一の根治治療薬として60年以上、臨床使用されてきたという。
日本では未承認だが、他の代替薬がないことから、熱帯病治療薬研究班に所属する医療機関にて、海外と同様の用法・用量で使用されてきた。日本熱帯医学会、日本感染症教育研究会から厚労省に開発要望があり、同省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で開発の必要性があると判断され、厚労省から開発要請されていた。
成人には30mgを、小児には0.5mg/kg(最大30mg)を1日1回14日間食後に経口投与する。
▽ヌーカラ皮下注用100mg(メポリズマブ(遺伝子組換え)、グラクソ・スミスクライン):「気管支喘息(既存治療で喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間8年。
喘息の症状に関与するインターロイキン-5(IL-5)を標的とし、好酸球の増殖・活性化を抑制し、好酸球に起因する気道炎症に伴う喘息増悪を抑える。高用量の吸入ステロイド薬、他の長期管理薬によっても増悪をきたす重症患者が適応となる。類薬にはゾレア皮下注用があるが、同剤は症状に関わるIgEに作用するもので、ヌーカラと作用が異なる。
成人、12歳以上の小児には1回100mgを4週間ごとに皮下注射する。