患者が使いたくなるPSPを組織全体で追求し全関係者がWin-Winとなる仕組みを構築へ
公開日時 2024/10/01 00:00
提供:PwCコンサルティング合同会社/CSLベーリング株式会社
医薬品市場のスペシャリティ領域へのシフトや、患者のライフスタイルの多様化、さらにデジタル化の進展といった外部環境の変化などを背景に、製薬業界では治療薬の提供を超えた価値の創出が試みられている。PSP(患者サポートプログラム)の提供により新たな患者エンゲージメントモデルを築こうとする動きは、その最たる例だ。中でも、CSLベーリングが希少・難治性疾患領域で在宅患者に提供する数々のサポートは、Patient Centricityを体現したPSPの数少ない成功例と評価できる。戦略の策定から実装まで一貫して支援したPwCコンサルティング合同会社(以下、PwCコンサルティング)との二人三脚の取り組みから、患者が使ってみたいと思えるPSPを提供するためのポイントを紹介する。
PSPは希少疾患領域で より重要に
Patient Centricityの実現はヘルスケア産業全体の命題だ。製薬業界においても、疾患・治療に関する情報発信のほか、患者のアンメットニーズの抽出や、アドヒアランス向上、個別化医療に向けたサポートといったPSPに注力する企業が増えている。こうした取り組みを通して製品価値の最大化のみならず、リアルワールドデータ(RWD)の蓄積・活用による新薬の開発、さらには法規制の整備を含めた最適な治療環境づくりなどへの期待も高まっている。同時に、患者のみならず医療を提供する医療従事者にとっても、その一助となる施策が必要になっている。
もっとも、日本ではPatient Centricityの浸透は欧米と比べて立ち遅れていると言わざるを得ない。「欧米では患者さんの声を治験に生かしたり、データの利活用も進んだりしています。しかし日本では一部の企業が同様の動きを見せているものの、規制等の影響もあってか、服薬コンプライアンスの向上といった活動にとどまっているケースがほとんどです。部門横断で取り組んでいくというPatient Centricityの考え方は理解されつつありますが、実際には部門や製品を軸とした活動から脱しきれていないと思います」とPwCコンサルティング ヘルスケア・医薬ライフサイエンス事業部シニアマネジャーの須田真澄氏は指摘する。
同社は疾患予防を目的としたウェルケア領域と、特定疾患の治療を中核とするシックケア領域のデータを相互に流通・活用するヘルスケアエコシステムを提唱。ビジネス(B)、顧客体験(X)、テクノロジー(T)を融合したBXTアプローチにより、製薬企業と患者の新たなエンゲージモデル構築を支援している。特に治療法が限定的で根治が困難な希少疾患は、個々の患者が長期的な治療のみならず、生活の面を含めさまざまな課題を抱えているだけに、PSPの重要度が高く、同社としても注力している領域である。
「そもそも診断の遅れや専門医の不足、治療への地理的なハードルが生じやすい上、患者の疾患や治療への向き合い方や、介護者の有無などで患者さんの課題は大きく異なってきます。そのため、リアルなペルソナを定義してどの課題を解決するのかを明確にしていく必要があります」と須田氏。さらに、製薬企業同士や他業種との連携、情報提供などの規制緩和への働き掛けも重要になるという。
在宅自己注射薬の自宅配送で 患者の持ち運びの負担を軽減
PwCコンサルティングのバックアップを得て、在宅自己注射薬のPSPを実践しているCSLベーリングは、希少疾患の革新的な生物学的製剤の開発・提供による患者の健康的な生活の支援をミッションとして掲げている。これらを加速させるため、継続的な安定供給を行う仕組みづくりなど、年ごとのミッションも設定しており、PSPの開発や改善はその1つという位置付けだ。
「健康的な生活を支援する一環として、患者さんの病院や薬局での待ち時間を短縮し、普通の生活の時間を延ばしていくとともに、病院での投薬を減らして医療者の負担軽減を図るという考えにより、当社の多くの製品では在宅自己注射が可能となっています。その上で注射薬や医療材料の持ち運びをサポートするというところからPSPの開発に取り組んできました」と代表取締役社長の吉田いづみ氏は話す。
同社のPSPでは、調剤薬局や配送業者などとの連携による在宅自己注射のホームデリバリーを軸に、専任看護師による自己注射の練習や、投与時の患者や家族へのオンラインサポート、モバイルアプリによる自己投与や症状の記録、それらの診察時の活用などを支援しているが、際立つのは各サービスのきめ細かさである。例えば、ホームデリバリーでは適切な温度管理が可能な専用ボックスに製剤などをセットして配送するほか、患者の希望する日時に確実に届けるためチャーター便を利用。現在は自宅の冷蔵庫での保管を容易にするために分割配送も計画している。加えて、3つの異なる治療領域ごとに専用ボックスや配送方法などのサポート内容をカスタマイズしており、同社が最も重視している “患者志向”という価値観を徹頭徹尾、貫いているのが大きな特徴だ。
「われわれの自己満足ではなく、患者さんに『本当に使いたい』と思っていただけるレベルのサービスを目指しています。そのために“End to End”で患者さんや医療者のカスタマージャーニーを理解し、それに沿ったケアやサポートを全て提供するという姿勢に徹しています。また、患者さんが使いづらいと感じることがないように、製剤ごとに絶えずサービスの調整を図っています」と吉田氏は強調する。
医療や社会を変える力に
在宅自己注射に特化したPSPプロジェクトはコロナ禍の只中、吉田氏が営業本部長時代にプロジェクトリーダーとして立ち上げたもの。マーケティング、メディカル、流通などの各部門がクロスファンクションでチームを結成し、2年近くの歳月を開発に取り組んだが、その際に徹底したのが、先述の“End to End”に加え、“Whyから考え行動する”“ゼロベース”という考え方だったという。
「なぜ希少・難治性疾患の患者さんに薬を届けるというサービスが必要なのかを自ら問い掛け、このPSPを行う意義や目的をチーム全員に腹落ちしてもらうこと、そして行き詰まったら安易に妥協せず、ミッションや目的に立ち返って考えることが重要です。実際にPwCコンサルティングの指導や助言により、目的達成を常に念頭に入れ、例えば法規制に阻まれた場合は改正や緩和を働き掛けるといったことも行っています」(吉田氏)
薬の配送方法についても100以上出てきた案を一つ一つ検証し、それらを折衷してベストの形を追求してきたという。こうしてつくられたPSPはサービス開始から半年も経たずに当初想定していた対象患者の3割近くが使用。調剤薬局は在庫リスクのない仕組みになり、さらに専任看護師の代行による医療者の勤務時間の短縮など数々のメリットを生み出している。「PSPは1つの部門、あるいは製品単位でつくりがちですが、さまざまな部門が参加することで多様な視点のアイデアを立案することができました。また全社的に取り組むこと自体が組織文化の改革につながり、社員の患者志向を目指す意識がより高まっていると感じています」と吉田氏は評価する。
同社のモバイルアプリは一部で他社の薬剤も記録できるようになっているが、今後は患者中心のPSPを進めていくために企業間のコラボレーションを加速させていく構えだ。さらに、遺伝性疾患の早期診断および有事に対応する体制の構築、保険制度や情報システムの改革にもコミットしていくほか、希少・難治性疾患を有する患者への偏見の解消に向け、正確な情報を社会全体に発信することも同社や業界の役割と捉えている。Patient Centricity に基づいたPSPの追求は医療、そして社会を変えていく力になりそうだ。
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