日本人の全死亡率 コロナ禍で10年ぶりに増加 21年は20年比2.2%増 国がん分析
公開日時 2023/09/01 04:51
新型コロナ感染症のパンデミック期に当たる2021年の日本人の全死因死亡率が人口10万人当たり989.6人と20年比で2.2%増加したー。国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部の分析で明らかになった。全死亡率が前年比で増加したのは、東日本大震災の影響を受けた11年以来10年ぶりで、新型コロナをはじめ、老衰や心疾患の死亡率増加が主な要因という。論文は、「BMJ Open」に8月31日に掲載された。
◎がん死亡率は減少トレンド 受診抑制の影響など顕在化は「2~3年のタイムラグも」
死亡率では、日本人の死因第1位であり、全死因死亡率への影響が大きいがんの死亡率には、人口10万人当たり275.0人と前年比0.6%減少しており、パンデミック期以前(19年以前)からの減少トレンドに変化はなかった。ただ、同研究部サーベイランス研究室の⽥中宏和研究員は「治療の先延ばしやがん検診の受診抑制など医療・保健サービスの変化の影響が顕在化するまでには、2~3年のタイムラグがある可能性がある」と話している。
実際、6月に公表された厚労省の人口動態統計速報などの結果から、22年には女性のがん死亡率が増加したと見込んでおり、部位別では女性の「乳房」や「大腸」の死亡率増加を予測している。
◎老衰の死亡率低下「21年は増加トレンドに拍車がかかった形に」
同研究部では、厚労省が公表している⼈⼝動態統計の死亡データを主要な死因ごとに整理し、95年から21年までの毎年の年齢調整死亡率を算出し、新型コロナのパンデミック期における⽇本⼈の死亡率の動向を分析した。⽚野⽥耕太研究部長は「がんだけを対象にトレンドを分析するのが普通だが、今回、全死因を分析し、全体の中でのがんの位置付けを示した」と説明している。なお、年齢調整死亡率とは、高齢化の影響を除外するため、人口の年齢構成の差異を取り除いて算出したもの。
それによると、21年の全死因年齢調整死亡率(人口10万対)は989.6人となり、20年⽐で2.2%増加した。主要な死因ごとに見ると、新型コロナは11.8人で380.0%増と急伸。老衰は93.8人で9.3%増、循環器疾患のうち心疾患は145.2人で1.4%増となった。
同研究部では、老衰の死亡率増加について「年齢調整をしているため、高齢化の影響を取り除いているものの、21年は増加トレンドに拍車がかかった形になっている。⽼衰や主要死因に分類されない死因(「その他」)の増加は、医療機関の診療体制の制限によって医療機関以外の場所での死亡が増加し、⽼衰や他の疾患の死亡診断が増えた可能性が考えられる」とした。
◎循環器疾患の死亡率増加「パンデミック以前に増加に転じた可能性も」
また、循環器疾患(特に⼼疾患)の死亡率の増加については「パンデミック期以前のトレンドが21年に増加に転じた可能性が示唆され、新型コロナ感染によるリスク増加の可能性や、コロナ対応などの医療機関の診療体制の制限により救急体制に影響が及んだ可能性などが考えられる」との見方を示した。
一方、がんの死亡率は275.0人で0.6%減となった。男女別に見ると、男性が390.8人で1.0%減、女性が195.5人で0.4%減となっている。同研究部では「主要部位や患者数が少ないがん種もチェックしたが、コロナ前からトレンドに大きな変化は認められなかった」とした。肺炎の死亡率は48.4人となり、9.7%減少。「マスク着⽤など感染対策の徹底により大きな減少が見られた」とした。
同研究部では、厚労省が6月に公表した22年の⼈⼝動態統計速報値等をもとに、22年の全死因年齢調整死亡率も増加を見込んでおり、21年が新型コロナのパンデミックによる⽇本⼈の死亡率トレンドの変わり⽬となった可能性を指摘している。死因別では、新型コロナをはじめ、⼼疾患、脳⾎管疾患、肝疾患、⽼衰、不慮の事故、⾃殺などほとんどの死因で増加したと⾒込んでいる。がんについては、男性で減少、⼥性で増加を⾒込んでいる。
同研究部では、今後、全国がん登録(20年以降)に基づくがんのステージや⽣存率、がん検診などさまざまなデータを組み合わせてパンデミックによるがん診療への影響を検討していく方針。