Meiji Seikaファルマ・小林社長 抗菌薬のトップサプライヤーに舵 薬価改定を受けない製品群確立に注力
公開日時 2023/07/12 04:52
Meiji Seikaファルマの小林大吉郎代表取締役社長は7月11日の記者説明会で、同社が挑む抗菌剤のトップサプライヤー戦略を語った。同社の強みである感染症プラットフォームをベースに、「薬価改定を受けない製品ポートフォリオの確立」に注力する。具体的には疾病リスクの高い高齢者の増加でペニシリン系抗菌薬の使用拡大が今後も続くと見込み、必須医薬品の原薬提供から生産・供給の全てを自社で行い、シェア拡大する戦略に舵を切った。政府が特定重要物資に指定したスルバシリン、タゾピぺの原薬・出発原料である6-APAの生産を同社岐阜工場で行うとし、実生産設備を構築し、2025年には実製造を開始する方針を示した。
◎国内医薬品事業における3つの脅威
「国内の医薬品事業には3つの脅威がある。1つは特許切れ。もう1つは毎年薬価改定。3つ目はmRNAに代表する破壊的イノベーション。常に新規技術の代替需要の脅威にさらされている」-小林社長はこう指摘した。続けて、「この3つの脅威からどうやってボラティリティー(Volatility)が(少ない)ないような事業運営していくかで構造改革したわけだ」と強調した。
小林社長の掲げる中期経営計画の成長戦略に、「国内で戦略的自律性が求められる必須医薬品(抗菌薬)のシェア拡大」とある。小林社長は、「具体的に申し上げると、薬価改定の影響を受けない製品ポートフォリオのシェアをまず増しましょうと。それ以前はワクチンだけだったが、これからは主に注射用の抗菌薬を我々が原薬の提供から、サプライヤーとしてのシェア、製品供給先のシェアを全て自律性を持って増していこうということだ」と力を込めた。
◎「全ての品目が不採算だったら薬価で賄えみたいな乱暴な議論はいかがなものか」
こうした背景について小林社長は、今年1月19日に政府が安定確保法で抗菌薬4成分を「特定重要物資」に指定したことをあげた。「(政府が)なぜ指定したかという方が重要」と語る小林社長。「バリューチェーン全体を国として確保しなければいけない剤(医薬品)。民間企業1社で出来ないところは支援を受けながら、国家的安全保障上の観点からやるべきものだ」との見解を示した。その上で、「例えば後発品の安定供給問題について不採算品目は全て薬価でカバーすべきだとか、いろんな声があるが、“私は必ずそう必ずしもそうは思ってない”」と強調。さらに、「社会保障費の増高の中で、全ての品目が不採算だったら薬価で賄えみたいな乱暴な議論はいかがなものかなというふうに考えている」とも述べた。
◎「75歳以上の実人口は増える。この人たちの治療は抗菌剤がなければ支えられない」
なお、同社が提供するスルバシリン(スルバクタム・アンピシリン)の国内数量シェアは79%、タゾピぺ(タゾバクタム・アンピシリン)は49%を占める。加えて両剤とも、「安定確保医薬品カテゴリーA」に分類される。同様に、カテゴリーAに分類されるメロペネムは59%、バンコマイシンは76%と、いずれの製品とも国内数量シェアの水準が高位にあることが分かる。小林社長は、「これから2050年まで日本の総人口は減っていくが、75歳以上の疾病リスクのある高齢者の実人口は増える。この人たちの治療はこの抗菌剤がなければ支えられない」と述べ、トップサプライヤーとしての安定供給の重責を担う考えを改めて強調した
◎特定重要物資の供給確保 岐阜工場で原薬・出発原料「6-APA」の国内生産開始へ
さらに、特定重要物質の供給確保に向けて、海外に依存するペニシリン系注射抗菌薬の原薬・出発原料の「6-APA」について同社の岐阜工場で国内生産する方針を明示した。政府の「医薬品安定供給支援事業」に指定されたことを受けたもの。小林社長は、「6-APAの国内全量を賄う設備を立てろと言われ、私どもの岐阜工場で取りかかっている。恐らく2025年までに何とか完成できる」と見通した。さらに、2028年までに内製化を100%進める方針を示し、「これは画期的なこと。今まで経済合理性からいえばありえなかった。全く次元の異なる国策誘導がなされている」とも語った。