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有識者検討会 薬剤費とGDPを直接結び付ける議論は“片手落ち” 調整弁としての薬価改定は「やめるべき」

公開日時 2023/04/05 07:52
厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は4月4日、マクロ的な視点からの総薬剤費のあり方について議論した。財務省OBの小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、「財政との調和を図りながら、少なくとも中長期的な経済成長率に沿うように、薬剤費を最低限伸ばしていくという仕組みの検討を行うべき」と主張。厚労省OBである香取照幸構成員(兵庫県立大大学院社会科学研究科特任教授)は、日本の医療費はGDPの伸びを上回って成長しているとしたうえで、「GDPの関係で、医療保険の薬剤費の範囲を議論するというのは、真ん中に医療費が挟まっているので、その議論を抜きにこの議論をするというのはいかがなものか」と述べ、薬剤費とGDPを直接結び付ける議論は“片手落ち”と断じた。

厚労省は、日本と諸外国( 英米独仏) の薬剤費、薬剤費/ GDP費率のデータを提示。薬剤費/GDP比率は日本で1.72%、米国で1.58%、ドイツで1.18%、フランスが0.97%、イギリスで0.70%(いずれも2019年時点)で、日本は欧米諸国に比べて高い状況にあるとのデータを提示した。小黒構成員が理事を務めるシンクタンク・新時代戦略研究所(INES)がGDPを指標に長期的な経済成長率に見合った薬剤費を担保する「マクロ的アプローチ(成長率調整メカニズム)」を提案しており、有識者検討会でも議論となっていた。データを踏まえ、坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)が「これまでINESさんなどから提出されたものに比べると、日本の薬剤費は結構高いように見える」と述べた。

◎香取構成員 医薬品産業の産業規模が「GDPに対してナンボかという議論になる」

香取構成員は薬剤費/GDP費をデータとして見ること自体を問題視。「医薬品産業がどれくらいの規模があるのか、国内経済に対してというのであれば、薬剤費ではなくて医薬品産業の産業規模がGDPに対してナンボかという議論になる」と指摘。「薬剤費をGDPと比べるというのは、一体何の議論をしているのか」と指摘した。

小黒構成員は、新薬創出等加算や市場拡大再算定の見直し、医薬品の安定供給には「それなりの財源が必要だ」と表明。一方で、15年以降、薬剤費が横ばいで推移していることに触れ、「財源論」を論じる必要性を強調。「財政との調和をきちっと図りながら少なくとも中長期的な経済成長率に沿うように、薬剤費を最低限伸ばしていく、というような仕組みの検討を行うべきというような文章を報告書に残せないかというふうにご提案させていただく」と述べた。財源の観点から、長期収載品の薬価引下げも議論の俎上にのぼるが、「ボリュームとして1.9兆円しかないので、検討会として中長期に考えた場合にここだけを財源にすると結構難しいんじゃないかと思う」などとも述べた。また、医療用医薬品のうち、OTCで代替可能な品目が3278億円とのデータもるが、「やはり限界がある。薬剤費そのものをどうコントロールしていくのか、というところをしないとパッチワーク的な対応で財源が捻出されることによって、結局行き詰まってしまうということならざるを得ない」との見解を示した。

これに対し、香取構成員は、「全体として医療費がGDPを少しずつ上回って伸びてきたトレンドがあり、諸外国の医薬品産業の規模を考えれば、それをさらに上回って伸びている」としたうえで、“少なくとも中長期的な経済成長率に沿う”という表現に疑義を示し、「ロジカルにつながる形で、医薬品産業の規模はかくあるべし、という理屈を考えないといけないと思う。お考えはわかったが、物の言い方は少し考えた方がいい」と断じた。

◎小黒構成員「薬剤費については、少なくとも財政当局も含めて握れる余地がある」

小黒構成員は、「いま足下で、薬剤費はすでにゼロ成長だ。特許品ですらマイナス成長になってきてしまっている。診療報酬本体はどうかというと、まだ違う」との見方を表明。財務省の財政制度等審議会(財政審)が薬剤費総額についてのマクロ経済スライド制度を提案していることを引き合いに、「財務省がほしがっているのは財政的予見性であって、財務省も少なくともその足下で薬剤費がどうなっているかということについてある程度わかっている。にもかかわらず、ある一定程度の伸びであれば許容すると、はっきり財政支援に変えているということもある」と説明。「まだ診療報酬本体と薬剤費の環境が違っていて、薬剤費については、少なくともまだ財政当局とも含めて握れる余地がある。交渉できる余地が出てきているというところなのではないか」と述べた。

◎市場拡大再算定の共連れや後発品の3価格帯「財源出しの調整、やめていただきたい」

これに対し、香取構成員は、「私の理解では現状、医療費はGDPを上回って伸びている。財務省の考え方は、医療費は基本的にはGDPの範囲内、あるいは予算統制の範囲内に収めるということになっていて、それこそ調整弁として薬価改定も行われている。市場実勢価格とか実態に合わせてと言っているが、現実には基本的には改定すれば薬が下がるような制度、仕組みを作って、市場で競争させて財源を出して薬価を下げると今回も0.625っていう、誰がどこで決めたのか知らないが、数字を出して一定の財源を出している」と述べ、「そもそもGDPの範囲内にならないように、言ってみればやっているという現実があることを考えれば、議論の出発点はそこだ」と指摘した。市場拡大再算定の共連れや後発品の3価格帯などを例にあげ、「仕組まれた」形で薬価制度が構築されているとの見方を示し、「薬価を財源出しの調整に使うというのは、基本的にやめていただきたいというのを本当は言わないといけない。もちろん中長期的に医療費も薬剤費もコントロールしなきゃいけないというのはその通りなので、そういう視点はある」と述べた。

◎薬剤自己負担で堀構成員「医薬品の価値や必要性で見直しも一考」 財源論とは切り離しを

厚労省は、「薬剤自己負担」についての資料も示した。財源論からの議論については反対する声があがった。堀真奈美構成員(東海大健康学部・健康マネジメント学科教授)は、「(医薬品の)価値とか必要性とか、そういうものによって、患者の負担のあり方を見直すというのも一つの考えることも、財源とは全く切り離して議論することはあるのではないかと思う」と述べた。

患者の自己負担や給付範囲をめぐっては、OTC類似薬を中心に社保審などで議論がなされてきた。遠藤久夫座長(学習院大学経済学部教授)は、「特に、スイッチOTCは自己負担率を高めるべきであるということで、物によっては保険から外せ、という議論もあった。それに対して、そうなるとむしろ自己負担が少ない、高い新薬の処方が行われるという、新薬シフトになって、薬剤費はむしろ高くなってしまうのではないかというような意見もあって、結論が常に出ない」と説明。「それを回避するためには、何か診療報酬上で他のこととの合わせ技で、そう簡単にシフトできないような仕組みを作らなければいけないのかもしれない。それをやると、診療の自由度に対する問題も出てくるというところもあってなかなか難しい課題だ」と述べた。

フランスのように薬効別で患者負担の割合を変える制度もあるが、「やはり難しいのは、何割と決めるカテゴライズだ。そこの社会的合意が得られるかどうか。フランスのように抗がん剤を使ったら100%保険給付、ビタミン剤だったら100%自己負担とこういうふうに分かれるわけだが、そこをやろうとすればどういうふうに決めていくのかみたいな議論もあった。その他もろもろ3割負担に対してどう考えるかという付帯決議の制約問題などあってなかなか議論がそれ以上進まなかった」と振り返った。

坂巻弘之構成員(神奈川県立保健福祉大大学院教授)はスイッチOTCを推進する必要性を強調したうえで、「保険でカバーする範囲との議論とあまり組み合わせるべきではない。国民の選択する範囲を広げる、セルフメディケーションを広げていくという議論が必要だろう」と述べた。また、長期間使用され、有効性・安全性が確立されている医療用医薬品についてスイッチOTC化を推進することで、「産業振興するという考え方もあるのではないか」と述べた。


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