香取・上智大教授 「薬価は予算編成の財源を出すツール」 これではマクロとミクロの政策が整合的でない
公開日時 2022/11/09 04:55
上智大学総合人間科学部の香取照幸教授は11月8日、第5回ヘルスケア・イノベーションフォーラム終了後の記者会見で、「薬価は予算編成の財源を出すための、いわばツールになっている」との認識を強調した。「これは別に医薬品や医療だけの話でなく、国の予算全体がそういう構造にはまり込んでいる」と指摘。「この話はこの場でする議論ではないかもしれない」と前置きしつつも、「歳出コントロールはしなければいけないが、やはり安定的な歳入をどう確保するかだ。国としてやるべきことができる財源を確保することだ」との見解を示した。
香取教授は、「日本も含めて、主要先進国で医療費の伸びがGDPの範囲内に収まっている国は一つもない」と指摘。その背景に医療技術の高度化や人口の高齢化などの環境要因があるとしながらも、「そういう中でやっぱり予算に収めないといけないってことになれば、どこかで削減の財源を求めることになる。財源をコントロールできる部分としては、もう窓口負担も3割まで引き上げたし、診療報酬もバリバリに縛っているわけだから、ほぼ薬価しかないという状態だ」と述べ、「いま薬価は予算編成のための財源を出す、いわばツールになっている」と指摘した。「財政当局も、全体としてのコントロールするためにはある意味それは仕方がないというか、当然というか、そういうふうになっている」との見解を示した。
こうした状況を捉えて香取教授は、「いくら研究開発とか創薬に対する支援とかを言っても、GDPの伸びより医療費の伸びを抑えないといけないっていうことになる。これではミクロの政策とマクロの政策が一致しない」と批判し、「国として必要なことは、できるだけ安定的な歳入を確保すること」と強調。「負担を求めることになるので国民は反対するだろうし、政治もなかなかついてこないと思うが、そこはやっぱりやり続けるというのが、財政当局のもう一つのお仕事だ」と述べた。
◎岡本・元財務次官 重点的なところに資源投入 効果が薄れたものは個人負担へのシフトも
元財務省事務次官で日本たばこ産業の岡本薫明取締役副会長は会見で、薬価制度について、「より良い効果が見込まれるところにできるだけの資源を入れる。その反面、そうでないところは縮小してもらう。こういったことを財政当局として求めている」と指摘。「なかなか中身に入っていけないもどかしさのある制度」としながらも、「少なくともきちんとした評価に基づいて、より重点的なところに資源を入れて、その反面、やはり効果が薄れてきている、あるいは基本的に“これは個人の負担でやってもらうべきではないか”というもののところは、そちらの方に移していくという形をより進めていくことで、新たな創薬、必要なものへの資源の振り向けができる。開発のインセンティブにつながっていく」と述べ、これが現在でも財政当局の基本的なスタンスだと思うと強調した。