武田薬品の岩﨑真人代表取締役・日本管掌は11月１日、HMICカンファレンス 2022で講演し、経営が求めるインサイト人財について、「リスクを取らないことが最大のリスクだということを理解して欲しい」と訴えた。新型コロナや気候変動問題、人口減少や潜在的成長率の停滞など社会環境や国内の構造的課題を捉え、人財育成の重要性がこれまで以上に高まっていると強調した。その上で求める人材像について、①会社に依存しないリーダーとしてのアスピレーション、ビジョン、覚悟、自信、②自らリスクをとって大胆に変革するマインドとスキル、③グローバルで多様性に富む環境下でのコミュニケーションスキル―をあげた。

◎「変わらない価値観。何のために我々は存在しているのか」－岩﨑氏

「創業1781年から241年間、タケダが変わっていないのは私たちの価値観だ。何のために我々が存在しているのか。この考え方は全く変わっていない」－、岩﨑氏は力を込めた。「三方良し」でスタートを切ったタケダの価値観は、1940年の「規（のり）」、2004年の「タケダイズム」（誠実：公正・正直、不屈）を経て、2019年から「タケダイズム＆行動指針」（Patient、Trust、Reputation、business）に進化した。さらにシャイアを買収した2019年に企業理念を見直し、これまでの価値観に加えて「私たちの約束」として、PATIENT（すべての患者さんのために）、PEPOLE（ともに働く仲間のために）、PLANET（いのち育む地球のために）、そして「データとデジタルでイノベーションを起こす」を追加した。

岩﨑氏は、「全ての患者さんのために良い医薬品を作り、届ける。一緒に仕事をしている人間が成功しない限り会社は成功しない。そして命を育む地球のために何をするか、これを企業理念として明確にした」と明かし、「この３つの約束をデータとデジタルによって加速する」と強調した。特にフォーカスエリアについては、これまで業績を支えた代謝性・循環器疾患領域について、「いま存在する薬を10年以内に超えるトランスフォーミングな医薬品を開発できないという判断のもと、この領域は私達の戦略領域から外した」と説明。2015年段階で63％を占めた低分子の臨床候補物質が22年段階で37％となり、逆に生物学的製剤や細胞・遺伝子治療の候補物質の比率が高まるなど、「従業員も大きな考え方の変化を求められたし、会社としての組織の変化も必要だった」と振り返った。さらに、遺伝子治療や細胞治療に注力することで、「同時に患者のニーズや要求も変わってくる」と述べ、幹細胞加工製品のサプライチェーンを例示しながら、「医薬品の届け方」などビジネス変革に対応することの意義も強調した。

◎「いまはブーカの時代。いままでの延長では考えられない」

「いまはブーカ（VUCA）の時代。変動、不確実、複雑、曖昧緩慢な時代。こういう世の中に対応しなきゃいけない。今までの延長では考えられない」と岩﨑氏は指摘する。2011年の東日本大震災をはじめ集中豪雨など自然災害が毎年のように起こるなかで、「平時になる確率は10年に1度。もはやこっちの方が特殊だ。そんなときに何が対応できるかと言えば、人材育成が本当に大切だってことになる」と強調した。さらに、「医薬品だって今までと同じような値段でいつまでも同じように売れる時代ではない。どこまで保険でカバーするか。これも変わってくると思う」との認識を示し、「1人1人が自立する」ことの重要性を訴えた。

◎組織に依存しないリーダー、大胆な変革マインド、コミュニケーションスキル

岩﨑氏は求められる人材について、「１つ目は会社とか組織に依存しないリーダー。そういったアスピレーションビジョンを持つ人たちが必要だなって本当に思う」と強調。「２つ目は自らリスクを取って大胆に変革を起こそうという気持ち。そのためのスキル。３つ目グローバルで多様性に富む環境下でのコミュニケーションスキル。それは英語ではない。変化をとにかく恐れないで、どんどん新しいインサイトとしてのスキルだとか人材になって欲しい。それを次の世代に伝えて欲しいと思う」と述べた。

コロナ禍を経た社会環境の変化や構造的課題などの観点からは、「この次の世代が本当に納得できるかを我々は自分自身に問いかけていかなきゃいけない。そういう時代だ。だからこそ幅広いステークホルダーの視点で考えることが大切になる。その点でＡＩは（インサイト人財として）パートナーとなり得る」と強調した。講演の最後に岩﨑氏は、「勉強を教えてもらう側に座るのでなく、自分から働きかける場にして欲しいと思う。それから外の場面でもパーパス経営を語って欲しいと思う。パーパスを語って、その結果として自分なりの答えを持っている。それが私は必要なんじゃないかと思う」と聴衆に対しメッセージを送った。