【第4回有識者検討会・10月21日 議論その1 「今後の検討に当たっての論点案」①、②をめぐる意見】
公開日時 2022/10/24 04:52
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(座長:遠藤久夫・学習院大経済学部教授)の第4回会合が10月21日開かれた。この日は、今後の検討に当たっての論点案①、論点案②が事務局から示され、構成員間でディスカッションが行われた。「議論その1」では、論点案①、②についての議論を中心に、各構成員の発言要旨を公開する。
遠藤座長:今日の一つの目的は、「今後の検討に当たっての論点案」の①と②をできれば確定していきたい。これ非常に重要なものだ。我々自身が論点を整理するのと同時に、この内容を(中医協など)対外的に示す。事務局のスケジュールでは中医協にいくつかの資料と一緒に提出することになる。そのときに、この有識者検討会がどういうことをやっているかが明らかになるので、できるだけ完成度の高いものにして欲しいと思っている。とりあえずこれ(論点案)について、この形でいいのか。内容の問題もある。表記の仕方もある。様々な視点から議論ができると思う。皆さんからのご意見を聞きたい。
その前に私から皮切りさせていただく。論点案①の5ページの最初の「〇」のところを見ると、良質な医療云々とあって、2行目に「今後の薬価制度の在り方についてどう考えるか」、同時に「マクロ的な視点から総薬剤費の在り方についてどう考えるか」ということで、一番上にポンと薬価制度というのが出てきている。その下に革新的な医薬品の導入の話と、安定供給の話、薬価差の問題が出てくる。
流通とかは別途あるのか? それともこの中に含まれているという理解でよいのか? つまり元々この有識者検討会の開催要項では、医療用医薬品の流通、薬価に関する現状の課題と産業構造の検証とある。(論点案は)全面的に薬価制度が大前提だと読めるが、そのスタンスでいいのか? 制度依存的な業界だから、薬価制度にいろんなものが依存しているのはその通りで、全て薬価制度だって言ってしまえばそれに近いが、それでいいのか。その辺のところを聞きたい。これが1つ目だ。
2つ目は、これはちょっと言葉の問題かもしれないが、「産業構造を起因とする課題」と書かれている。安定供給でも、革新的新薬の導入についても書かれているが、事務局の考える産業構造とはどういうことを意味しているのか。テクニカルな話になるが、産業構造というのは寡占であるとか、非常に競争が激しいとか、大企業があるとか、小企業が乱立しているとか、外資と内資が乱立し共存しているとか、そういう産業の構造の話だと思う。この中身を読むと産業構造というよりも企業行動とか、ビジネスモデルとかいったようなものがある。企業絡みの話は全部産業構造という言葉で入れているような感じがする。
たぶん産業構造の問題というと、ジェネリックの企業が非常に小さくて乱立しているとか、先発メーカーでもアメリカなんかに比べると非常に規模が小さいとか、そういう議論のことではないかと思う。産業構造の話として言葉でくくっていいのか気になるところ。経済学者の先生方もいるので、コメントいただきたいと思う。
安藤課長:ありがとうございます。まず2つ目の方から先に申し上げる。ご指摘のように産業構造という言葉の問題が確かにあると思った。我々の問題意識は、ジェネリックメーカーで言う小さい企業が乱立しているというような、これまでの意見でもあったように、そういったところもある。さらにその背景的な要素であるビジネスモデルも、この中で議論頂きたいと考えていた。そういう意味で申し上げると、ます産業構造という言葉でなく、何か別の言葉で適切なものがあれば、むしろ本日議論いただき、何らかの形で修正をさせて頂ければと思う。
1点目の部分については非常に難しい問題だが、こちらは主として文脈上は医療保険制度の持続可能性は確保されつつ、まさに今回の目的である迅速導入や安定供給という問題について大きな視点からどう考えていくかという文脈だ。ご指摘の通り、まさに薬価制度の問題だけでなく、流通や産業構造の問題も含めて考えるべきというところについてはご指摘の通りだ。
前回の議論で小黒構成員から指摘されたミクロ的視点だけではなくマクロ的な視点からも入れるべきという意見を踏まえると、ちょっと薬価制度の方に偏った形で書かせて頂いたという状況だ。
遠藤座長:薬価制度になっているので、そこは修文されるのかという話しだ。
城審議官:はい、そうです。ご指摘いただいたように例えば流通とかも含めて全体を考えるということが基本にある。薬価制度のあり方に関する課題というタイトルそのものが、少しカバーしている範囲が狭いというか、今回視野においてもちょっと違うかなという気がした。ただ薬価の話もあるので、多少ちょっと言い方を考えて、全体をカバーできる話と、その中で薬価の話というのが出てくるだろうと考えている。
流通については薬価差のところの前提が流通の話にたぶんなっている。整理の問題ですね。もう少し工夫が要るかなと思ったので、そこは考えさせて頂く。
遠藤座長:本当に制度依存的な産業なので、ほとんどの問題が薬価基準制度に関係しているところがある。この書き方でもそこまで割り切ってしまえば理解できるが、ただ、有識者検討会の開催要項では、薬価制度と流通が併存して書いているので、ここまで言い切って良いのかということ。しかもこの中でそういう方向性の議論の共有化されたと思われないところもあるので一応確認させていただいた。
それでは先生方からどうぞ。では坂巻構成員どうぞ。
坂巻構成員:いまの遠藤座長のビジネスモデルところに関連するが、そもそも産業をどういうふうに見ているのかというところも記載する必要があると感じている。具体的に言うと日本の製薬企業で遺伝子組み換え型のバイオ医薬品については、やや立ち遅れている。あるいは再生医療等製品というカテゴリー中でもいくつかあるが、いわゆる細胞系の再生医療等製品に関してはそれほど日本が立ち遅れているわけではないが、どちらかというと遺伝子操作系の再生医療等製品については数が少ない。そういったところについて少し考慮して欲しいと感じている。
遠藤座長:ありがとうございます。香取構成員どうぞ。
香取構成員:この話は結論から言うと、薬価制度というのは、いま坂巻構成員が話したように、今の産業構造、企業行動、流通、その全てを規定しているものだと感じている。最終的な販売価格を公定で決めているのだから、その前提で、様々な企業行動や流通が起こっている。もちろん個々の企業の“お手前”があり、それはそれで問題だと思う面もあるが、やはり全体を見れば、薬価制度がいわばベースにあるということはその通りだ。
逆に言うと、そういう視点から薬価制度のことを(これまで)議論してこなかった。これが、この会議を行っている意味ではないかと思う。そういう意味でいうと、確かに何でも薬価のせいだと言っているように読めるので、それは流通固有の問題もあるでしょうというのはその通りだと思う。この会議がこの時期に立ち上がって、中医協の側からどんな論点があるのかを問われている。やはり薬価の今のあり方、薬価の決め方、あるいはそのあり方そのものが企業行動や産業政策、産業構造や流通に影響を大きく与えているということをまず大前提に考えるのであれば、薬価と流通、あるいは薬価と産業政策、薬価と新薬、薬価と後発品というふうに、どうしても議論の組み立ては必要になるのではないか。基本的な議論の枠組みというのはこうではないかと思う。
それからもう一つ。論点案の冒頭に示した「今後の薬価制度の在り方に関する全体的課題」だが、確かに全体的課題の表題に薬価のあり方に関する、というものを入れるかどうかというのは確かにちょっとある。それはその通りだと思うが、薬価は医療保険制度の中のものだから、基本的には医療保険の中で個々の医薬品について、値決めをする。さらに、診療報酬と一緒で公定価格を決めているということなので、基本的には医療政策の中で考えられるべきだ。まさにそのことが、医薬品の流通、産業政策、あるいは研究開発、技術革新というものに大きな影響を与えているわけだ。そうすると、産業政策や技術開発、研究開発政策の視点から見たときに、薬価の中でどのくらいそういうことを配慮するべきなのか、あるいは配慮して欲しいと我々が言うべきなのか、どこまでやれば医療保険制度の外側の別の政策を担っている部分からものを言っていくのか、ということだと思う。
後で議論になるかもしれないが、例えば薬価差が経営原資になっているという話がある。元々の議論は、診療報酬が十分でないから潜在的技術料としてある。必要悪というか、存在するものは合理的だということで、それによって薬価差が合理化されてきたわけで、正当化されてきた。逆に考えると、診療報酬が足りないとか言うのは、薬価とは何の関係もないものだ。言ってみれば他事綱領で薬価が決められ、他事綱領で薬価制度が作られているという意味で言えば、言葉は悪いが、“諸帳尻合わせ”をさせられていることになる。その意味で言えば政策が歪んでいる。それがさっき言った産業政策や流通に影響を与えている訳なので、そういうことも医療政策の中ではそれで話が収まっているかもしれないが、そういう問題があることを提起すべきではないか。それも含めて最終的には中医協が医療保険の問題なので決めることになると思うが、そういう立ち位置できちん見える形で議論を提起していくのがこの会議の重要な意味ではないかと思う。
遠藤座長:ありがとうございます。実際に政策としてのインパクトの殆どが薬価制度だということは私自身も研究の対象なのでよくわかっている。一方で、流通の方(構成員)に話を聞きたいと思う。薬価だけで誘導できる話でないものなのか。あるいは産業構造という点でベンチャーが少ない、ベンチャーを育成しなければならないというときに薬価政策の議論で収束する話なのかどうなのか、ということもお聞きしなければいけない。まずは流通の専門家から考えを聞きたい。
三村構成員:私は遠藤座長が最初に指摘したことが大変重要だと思っている。何故、(供給不安で)危機が起こったかというと、当然薬価制度のあり方と現実のずれが起こったということが大きいと思う。同時に日本の製薬メーカーや医薬品卸を含めて非常に体力が低下してしまった。これがまさに危機の本質的な要素だと思う。
遠藤座長が振り向けていただいた質問に私なりの意見を述べる。薬価制度だけでは解決できない問題が起こっている。薬価制度をこれから修正していかないといけないが、薬価制度を基本に修正しても、実はもっと大きな問題が起きやしないかと感じた。象徴的には先ほどの安定確保医薬品をめぐる問題や後発薬をめぐる問題だ。薬価があまりにも低くなり過ぎたために、結果として原薬の調達が海外に全部流れてしまった。この問題をもう一度引き戻すためには、むしろその薬価を少し修正するという形だけで良いのだろうか。薬価制度をベースにして作り上げた国民皆保険制度とか社会保障制度を維持するためには、薬価制度だけでは実は支えきれないものがある。それをどのように補強していくかが重要だ。
以前の業界ヒアリングで再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の方が発言されたことに大変納得した。自分たちは“補強的な政策”が必要だと発言された。ですから薬価制度をこれからある意味で合理的なものに修正していくのと同時に、例えば経済安全保障に合うような形で非常に強い新たな政策を作る。それをベースにしながら重要な医薬品については同じような仕組みを入れていく必要があるのではないか。
すなわち薬価制度を修正しながら、もう一つの別の施策を同時並行で進めていくような、そんな政策が必要であろうかと思う。今回の論点案は、それが混在している。それを少し整理して、中医協にお願いするところと、逆に有識者検討会として、きちんと厚労省の医薬品行政に対応していくところの柱を立てるべきだ。
製薬産業からは、何よりも予見性を高くして欲しいという要望があった。であるならば基本的に厚労省の医薬品政策、医薬品行政がこういう方向性があるということを前提としながら、“薬価制度はこうなります”、“医薬品政策はこうなります”ということを同時に入れていくと非常に大きな変化になると思う。
流通も薬価制度だけで縛られているのではない。一つだけ申し上げたい。先ほどのサプライチェーンの迅速化、標準化、強靭化は薬価制度の中だけで解決できるものではない。私はサプライチェーンの強靱化のための方策が見えている。そのためにどうしていくかという議論については、また別の場所でやって頂かなければいけないのだと思う。
遠藤座長:ありとうございます。それでは三浦構成員お願いします。
三浦構成員:いま三村構成員が発言したように流通問題も薬価制度に関わるところと変わらないところがあると思う。また香取構成員がまとめていただいたように、薬価制度の出来によって製薬企業が研究開発に投資しないという話もある。そういった意味では薬価制度にかかるところでは流通にも影響があると考えている。
今回の論点案に再販商品という記述(薬価差に関する意見より)があった。再販商品は最終小売価格が確定されている。成川先生と厚労科研で医薬品流通の業界比較の研究を行った。その中で再販商品である書籍の流通を見たことがある。書籍の場合、最終小売価格は一定という意味で薬価と変わらないが、決定的な違いは、薬価は国が決めているところにある。
本の価格は出版社が決めている。出版社の場合は自分たちの判断で価格を上下できる。したがって出版社としてはどういう最終小売価格にするかを考え、卸マージンや小売りマージンをどのくらいにするかを勘案しながら、もっと高くしようとか安くしようとかしている。よって、医薬品とは異なり、大手書店チェーンが高利マージンを沢山とるといった問題は基本的に報告されていない。一方、薬価制度の場合は最終小売価格が決めているというところが決定的で、その結果、いろいろ流通への問題を生じさせていると感じている。
そういった意味で有識者検討会としては薬価制度に絞るのも一つの考え方だし、二つ分けて薬価制度に関わるところと三村構成員が指摘するように産業構造のサプライチェーンの強靭化とかバイオベンチャーの育成など医薬品の産業論や政策論のところと分けるという考え方もある。ただ、私の考え方は、薬価制度はかなり大きな問題ではないかと思っている。
三村構成員:ちょっと誤解があってはいけないと思うので発言する。恐らくそれは公定マージン制をどうこうという議論ではないということだ。基本的な市場競争原理をベースとした競争になっているということだと思う。
それからもう一つ。先ほど「分けて」と申し上げたわけではない。2つの軸の接続の仕方かなと思っている。だから薬価制度を新しい体制で少しずつ修正していく過程と、それを補強するためのいわゆる政策手段が組み合わさっていく、その組み合わせの仕方がこれから大事な議論になるのという主旨だ。「分けて」という意味ではないということを追加したい。
遠藤座長:はい、了解いたしました。そのように理解いたしました。それではベンチャーやベンチャーキャピタルの話でいかがでしょうか?
芦田構成員:薬価制度のあり方が変わるだけで、革新的医薬品の研究開発や、ベンチャーの課題が解決されることはないと思う。やはり革新的医薬品をどうやって迅速に開発、導入するかということについては前回も発言したが、アカデミアの研究開発の拡充であるとか、創薬バイオベンチャーの育成および支援であるとか、それから特に新しいモダリティのバイオ医薬品については、製造施設を含めた事業基盤の整備というものが必要になってくる。
ただ一方で薬価制度も重要な課題であるという認識だ。なぜならばこれまでの有識者検討会でも議論してきたが、日本市場の魅力度が国際的に低下しているという現実はあると思う。市場の成長率が欧米や中国に比べて低い。先ほども発言があったが、予見性の問題であるとかは薬価制度に起因していると思う。
市場の魅力度が下がると国内の製薬企業や海外の企業と同じように、日本での開発より海外での開発を優先することが、国内の創薬ベンチャーでも今後出てくるだろうと予測している。実際に創薬ベンチャーの中には、海外で臨床試験をするというような事例も出ている。こういったことが加速するという意味では、薬価制度の改革ということについても創薬ベンチャーや多くの製薬企業が注視しているという現実があるものと考えている。
遠藤座長:ありがとうございます。それでは成川構成員お願いします。
成川構成員:ベンチャーの促進について意見したい。芦田構成員の発言に私も同感だ。市場の魅力や予見される価格については、海外のベンチャー企業が日本への投資判断する際の意思決定に影響すると思う。それだけではない。日本市場への参入障壁というか、開発をして承認を取るためのハードルはもちろん、日本で承認を取得し、それを売り続けるという市販後対策のレギュレーションも関係する。あとは臨床試験を実施する際の患者の集約度の違いや医療体制そのものも影響する。さらに産学共同とか税制も影響するので、薬価制度そのものが影響しないという意味ではないが、色々な側面があるのでその辺を踏まえて議論しないといけないと思う。
もう一点付け加えると、内資系企業も近年海外売上比率がどんどん上がっている。結局海外に行って儲けざるを得ない状況になっている。ベンチャー企業のみならず日本で事業を行っている内資系企業の行動も見ていかないといけない。以上です。
遠藤座長:はい、ありがとうございました。それでは小黒構成員が手を挙げておられるようですので、どうぞ。
小黒構成員:今までの議論の内容について特段異論はない。ただ、この医薬品マーケットの特殊性を踏まえたときに、一つ抜けている視点がある。(論点案は)どちらかというと供給サイドの話を中心に書いているように感じた。他方で例えば希少がんとかを含めて、こういう薬が欲しいというような、いわゆる“需要者側からの声”みたいなものが反映されていない。その辺を取り込むような仕組みも考えていく必要があるのではないか。
提案だが、論点案にある革新的な医薬品もそうだし、安定供給の方の2枚目の論点案の記述もそうだが、例えば “患者との対話も含め” みたいなワーディングが少し増えるといいのかなと思う。アメリカであれば、治験とかで、“こういう薬が新しく出てくるので協力します”みたいな枠組みがある。こうした枠組みを日本でも考え、サポートできる仕組みを構築する余地もあって良いのではないか。
遠藤座長:ありがとうございます。重要なご指摘だ。実はいまの制度にも類似の機能は既にある。十分ワークしているか疑問だが、患者さんから言って治験ができる仕組みも導入されている。また、希少疾病用医薬品については非常に高い価格をつけることを認めている。ただ、絶対量が少ないので薬剤費に与える影響はそれほど多くない。前回説明した新薬創出等加算は、国からこの医薬品を開発してくれと要請したときに、それに適切に対応しない企業は価格の維持の対象から外れるので、非常に大きなディスインセンティブを与えている。そういう意味で日本でも必要な医薬品を開発してもらうインセンティブの構造は存在する。ただ、それが本当にうまく機能しているかどうか、もう一度見て、さらにそこを強化するための議論が必要というのはありうる話かもしれない。患者視点、ユーザー視点というのは大変重要な指摘だと思った。
小黒構成員:よろしくお願いします。そういった資料が出てきていないと思うので。
遠藤座長:そうですね。関連資料があれば出してください。井上先生から手があがっていました。よろしくお願いいたします。
井上構成員:産業構造の話が出ましたので一つ発言させて頂く。産業構造を変えていくという話は、かなり中長期の話であって、いまの為替問題や安定供給の問題のように短期的に対応するというのは非常に難しい。サプライチェーン等の問題については情報インフラみたいなものに投資するだけの余力が十分にない。また横の連携がうまくいってない等の状況があるのではないか。その辺は前回も意見した通り、国のサポート等があるべきだ。安定供給の問題は、川上から川下までの情報の伝達の問題だと思う。透明性を高めるかが重要だ。ここはまず一つ短期的な対応としてあるだろう。
一方、企業数が多く、卸も分散化して、結果的に余力のない企業が多い。従って何らかの(供給不安などの)ショックがあるとそこで体力がないためにサポートできなくなる。これはもう少し中長期の課題だと思っている。なぜこういう状況になってきているのかを考える必要がある。こういう状況であれば自主的に体力をつけるために規模の経済を求めることがある。また、範囲の経済性を求めるだろう。情報投資が必要であればそれを得るために統合運動が起きるというのが一般的だ。
何らかの規制緩和があった後にその産業でM&A等が集中して起きることがある。M&Aの産業クラスターという。製薬業界でも一時、2000年代前半に起きたが、その後、それが止まっている。企業側はそれをするだけのインセンティブがないと、要は大きくなって体力を早い時期に蓄えないといけないというインセンティブが十分でないため起こらないのではないか。
それは何故か? 最初の論点に戻るが、薬価制度があって(産業側は)苦しくなるとゴールが動くというか、薬価制度そのものでサポートされるみたいなところを若干感じた。慌てて統合するより、むしろ薬価問題で助けてもらえるのではないかというような期待感が生産者側、卸側にある。産業構造の変革とか、自主的に生き残るための規模の経済性を得るとか、そういうものが働いていないのかなと感じる。
中長期的に安定供給が阻害されない体制を作るには、それなりの規模感は必要だ。薬価で短期的なサポートはあり得ても、中長期的に企業残すために薬価を統制していくという政策目標は問題がある。直面している問題をそのまま次の世代に残していくことにもなりかねない。そこは慎重に議論する必要があるのではないか。
ベンチャーの問題も同じような根がある。いわゆる経済活動はトランザクションコストが動いてくる時期に起きるので、そういうときにベンチャーにとって入りやすい環境が出てくる。そうしたものがない中で、産業内で細かくパイを得分け合って、小さい利益率で何とか生きていますというのでは、ベンチャーにとっても参入のインセンティブが働かない。今の産業構造そのものがベンチャーの参入を阻害し、意欲をかきたてないマーケットになっているのだとすれば、これは問題だ。全体としては市場を活性化するための“ご祝儀的な薬価”に関する議論をすると、かえって産業構造の変革を阻害するのではないか。
遠藤座長:ありがとうございます。薬価基準制度は口うるさくて厳しい制度だ。だけど保護されている世界なわけなので、口うるさい両親がいる中での子供の発言のようなところがあるわけだ。それをどう考えていくのかということだと思う。他にどなたかいらっしゃいますか。堀構成員どうぞ。
堀構成員:論点案だが、今後の薬価制度の意味するものによってたぶん先生方のイメージも変わってくると思う。基本的に日本の医薬品市場は準市場で、供給側と需要側のマッチングは公定価格でやっている。でも公定価格の範囲がどこまでなのかという議論によっては、今後の薬価制度のあり方は全然意味が違ってくるのだと思う。
医療サービスもそうだが、情報の非対称性があって、一部公共財的みたいなものもあればそうでないものもある。それでも価値財として社会保障の持続可能性のために維持している。しかし、医薬品はOTCなど市販で売られているものもあれば、医療用薬品もある。医療用医薬品にも、後発品、革新的医薬品、安定確保医薬品という安全保障上なくてはならない医薬品もある。それらを全て同じ薬価制度で論ずる中で、いまと同じ前提とするのか、しないのかで意味するものが変わってくる。その意味では、未来の医薬品のあり方と薬価のあり方についてとか包括的なタイトルに修正をするのかどうかも考えるべきではないか。私自身は基本的に全ての医薬品を同じ薬価制度の下でというのは、どうかと思う。先ほど産業構造の強化のところで議論になったが、本当に全ての医薬品産業を一律に同じように規制し、サプライチェーンについてもやっていけるのかというと、なかなか難しいのではないか。
それから患者の視点を入れると先ほど小黒構成員が言ったことは私も賛成だ。しかし、論点案の最初の「今後の薬価制度のあり方について」は、患者だけでなく「国民」ではないかと思っている。どこまで本当に負担できるのか。当然全ての革新的な医薬品が迅速に入って、全ての医薬品が安定供給されることが、財源と資源が無限大であれば望ましいと正直思う。でも、それがこれからの人口動態であるとか、社会保障の持続可能性を見たときに、どこまでできて、できないのか、どこまで負担できるのかについて合意が無い限り、あるべき未来の医薬品産業のあり方として、いまの薬価制度とそうでないものでは随分違うのではないかと思う。
論点案だが、基本的にここにあげられた論点は良いと思う。ただ、「産業構造を起因とする課題」と「薬価制度を起因とする課題」で、それぞれで議論をするものもあるし、産業構造や薬価の両方をきちんとするものと、産業構造だけ、薬価制度だけ議論するというものがあるのではないかと思う。例えば産業構造だけきちんとするものならば産業構造を検討するところがあるかもしれないし、薬価制度だけならば中医協とかでもできる。産業構造と薬価制度の両方に重なるところを検討するところは、恐らく総合的な対策っていうところで有識者検討会なのかなと思う。4月まで時間も限られていると思うので、何を優先なのかというところはあった方がいいのではないかと思った。以上です。
遠藤座長:いろいろとご意見が出ましたので、少し整理をさせていただきたい。論点案はある程度まとめなければいけない。意見の中で薬価基準制度、あるいはもう少し幅広めで医療保険制度という視点から幅広に議論していきたいとの意見があった、特に薬価基準制度がもたらす様々な視点を追う議論をしていくというもの。確かに中医協では集中的な議論はするが、幅広めの議論はなかなかやれないので、そういう意味で問題意識を明確にするという意味で有識者検討会において議論していくことが一つある。ただし、それだけではなくて、それではカバーでき得ないものがあるので、それについてはきちんとまた議論をするという、それがあの一つの流れだというように考える。
それから堀構成員が発言されたように、ここの論点案の中には医療保険制度の持続可能性を確保した上で、というのがついている。そういう意味では財源制約というものは当然考慮する議論になる。
また論点案に戻る。細かい文章も直していただく必要があると思うが、例えばもっと大きなところは、「産業構造を起因とする課題」というのが1番目に記載していること自体がそもそもおかしい話であり、これは少なくとも「薬価制度を起因とする課題」が最初に記載されるべき。産業構造については当初の開催要綱を見ても「産業構造の検証」という一番最後に出てくるレベルの話でもあり、少なくとも薬価基準制度より前に記載する話ではないだろう。しかも内容を読んでみると、先ほど堀構成員が発言されたように「産業構造を起因する課題」という中身は、実は“薬価基準制度のために企業がこのような行動をとっている”という話が入っているだけだ。分類はなかなか難しいが、ともかくそういう意味では薬価基準制度の話が割と大きなウエートを占めているので、記載順としては薬価基準制度が頭にくるべきだと私は思う。事務局の方でご検討いただければと思う。
全体の構成、個々に書かれている内容について、何も言わないとこのまま中医協に流れてしまいますので、確認してください。(後半に続く)