大塚製薬とジョリーグッド社は10月10日、ＶＲ（バーチャル・リアリティ）を活用して統合失調症患者の社会復帰を支援するプログラム「FACEDUO」のサービス提供を開始すると発表した。17日から申し込みを開始する。同プログラムは、ＶＲを使った仮想現実によって、当事者が困りやすいシチュエーションを体験することで、課題解決に向けた具体的な提案や工夫を学べるというもの。販売は、大塚製薬のCNS領域のMRが病院や診療所に情報提供するほか、10月1日に新設されたCNSデジタルソリューション室が、医療機関にとどまらず、訪問介護ステーションなどにもアプローチする。大塚製薬ポートフォリオマネージメント室の大西弘二CNSデジタルソリューション推進プロジェクトリーダーは、「福祉施設に対しては、オンラインで講習会を開くなどして情報提供していきたい」と述べた。

◎地域生活準備編、日常生活編、仕事編の３つを設定　23年中に50コンテンツを用意

FACEDUOは、バーチャル・リアリティーによって、社会生活のさまざまな場面を教材化したプログラム。統合失調症の当事者が日常生活の中で人と関わりながら生きていくために必要なソーシャルスキルの獲得・向上を目的に開発された。治療段階に合わせて、①精神科病院で入院中の患者を対象とした地域生活準備編、②精神科デイケアに通う患者を対象とした日常生活編、③就労準備中の患者を対象とした仕事編―の3つのカテゴリーを設定。それぞれの段階に応じたコンテンツを提供する。すでに約20本のコンテンツが用意されており、23年中に50本まで拡大する予定だという。（映像提供：大塚製薬・ジョリーグッド）

◎参加者がＶＲゴーグル装着で利用者の日常を追体験　「目線の動きがとてもリアル」

世界メンタルヘルスデーの同日、都内で開催したシンポジウムでは、参加者がＶＲゴーグルを装着して、同プログラムのデモンストレーションを行った。参加者は、精神科デイケアを利用する20代女性の日常を追体験。2人の利用者が会話をしているなか、混ざりたいと思い声をかけるも、なかなか気づいてもらえず諦めるという状況をＶＲで体験したあと、生活で実際に遭遇した体験について発表した。参加者の男性は、「会社で後輩に挨拶したが無視され、ショックを受けたことがある」と打ち明けた。そのうえで、名前を呼ぶ、会話に加わりたいという思いを伝えるなど、会話に混ざるための工夫を学び、実際にVRで目の前に映し出された2人の利用者の名前を呼ぶ練習を行った。参加者の1人は、「目線の動きなどがとてもリアルで、2人が気づいてくれない様子にドキドキした」と語った。

統合失調症をめぐっては、薬剤を継続的に服用しても再発率が3割を超えており、ソーシャルスキルトレーニング（SST）などの心理社会的療法が必要不可欠とされる。しかし、SSTを実施できるトレーニングを受けた専門スタッフは不足気味で、実施率は16.2％にとどまっている。コンテンツの制作監修を行った一般社団法人SST普及協会会長の丹羽真一医師は、「当事者の困り事について気づきを促したり、 回答のバリエーションを学ぶなどのスキルには、ある程度、標準化されたツールのようなものが必要だと思っていた」と指摘した。

同プログラムは、VRゴーグルやコンテンツに加え、進め方やポイントなどが記載された支援者向けのマニュアルや参加者用シートがパッケージ化されているため、SSTに関する専門知識や訓練をしていないスタッフであっても実施が可能だという。ジョリーグッドの蟹江絢子上級医療統括顧問は、「看護師や作業療法士、心理士などが利用することを想定した」と話す。料金は、初期費用として、アカウント開設費が5万5000円、VRゴーグルの機材費とセットアップ費が1台につき7万8100円となっているほか、月額費用が6万6000円となる。

◎ジョリーグッド・蟹江氏「製薬企業の力を借りて、より多くの人に届けたい」　うつ病にも拡大へ

ジョリーグッドは、高度なＶＲ映像技術をもっており、発達障害領域でのSST VRにおいて国内の病院、診療所、福祉支援施設等での導入実績がある。蟹江氏は、「非医療機器を含むデジタル治療の領域に入っていきたいと考えるなかで、製薬企業の力を借りて、より多くの人に届けていきたいと考えた」と意義を語った。両社は、今後はうつ病などにもSST VRコンテンツを拡げることを視野に入れている。