後藤茂之厚労相は8月3日、中医協の小塩隆士会長に、オンライン資格確認の原則義務化と診療報酬上の取り扱いについて諮問した。骨太方針に23年4月からのオンライン資格確認原則義務化が明示されたことを踏まえたもの。22年度診療報酬改定では、「電子的保健医療情報活用加算」を新設し、導入医療機関へのインセンティブを設けたが、普及が十分進んでいない状況にある。支払側は、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)が、「オンライン資格確認システムを活用した診療のメリットを患者に十分に理解していただき、そして納得できる加算にする必要がある」と述べるなど、点数設計を問題視。一方、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「点数を単に廃止することは、診療報酬の基本的な考え方に照らし合わせればあり得ない」と強調した。
◎23年4月に迫る原則義務化も運用開始施設は25.8%
この日の諮問は、今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)で、「保険医療機関・薬局に、2023 年4月から導入を原則として義務付けるとともに、導入が進み、患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう、関連する支援等の措置を見直す」ことが盛り込まれたことを踏まえたもの。22年度診療報酬改定で新設された「電子的保健医療情報活用加算」については中医協で検討とされている。一方で、オンライン資格確認に必要な顔認証付きカードリーダーの認証申込数は61.0%、準備完了施設は30.5%、運用開始施設数は25.8%で、医科・歯科診療所が特に低率となっている(22年7月24日時点)。厚労省は顔認証付きカードリーダーが受注生産性であることなどから、今年9月までの申し込みを呼びかけており、刻一刻とタイムリミットが迫っている。
22年度改定では、オンライン資格確認を通じて取得した患者情報を活用して診療を実施することを評価した「電子的保健医療情報活用加算」を新設した。点数は、2024年3月31日まで初診に限り、診療情報の困難な場合も算定できる特例が設けられており、導入に至るまでの議論でも、支払側は患者の負担増加の観点から強く反発していた
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◎診療側・長島委員 医療の質向上への取り組みへの対価求める「単なる廃止はあり得ない」
この日の中医協に厚労省はオンライン資格確認を導入した医療機関・薬局の意見を紹介。事務負担の軽減や、重複投薬や相互作用の確認などを行うことで医療の質向上につながっているとした。
診療側の長島委員は、「診療報酬の基本的な考え方の一つとして、医療の質を向上させる取り組みに対しては対価が支払われる。これまでもそうした考えに基づき、様々な項目が評価されてきた。オンライン資格確認の活用は、患者さんの情報を活用することで医療の質を向上させ、さらには医療の効率化や医療費削減にも貢献する可能性もあるということで、まさにその考え方に合致する取り組みと言える」と説明。「この点数を単に廃止するなどということは、診療報酬の基本的な考え方に照らし合わせればあり得ないことであり、オンライン資格確認システムを導入し、マイナ保険証を活用した場合は、しっかり評価していただく必要がある」と強調した。また、「オンライン資格確認を導入した医療機関は質の高い医療提供するための体制を整えた医療機関と言える。これまでの診療報酬上の評価を踏まえれば、マイナ保険証の活用の有無にかかわらず、そうした体制を整えたことに対する評価も当然必要であると考えている」と述べた。
◎支払側・安藤委員「患者が対価を支払うにふさわしいメリットが大前提」
一方、支払側の安藤委員は、オンライン資格確認の導入推進の方向性に同意したうえで、「加算を設けるのであれば、オンライン資格確認システムを活用した診療を受けた患者が対価を支払うにふさわしいメリットを感じることができることが大前提であると思っている。現在のマイナンバーカードを持参しない場合や、マイナンバーカードを持参したものの情報取得に同意しなかった場合でも加算がなされる仕組みは患者にとって納得できるものではなく、見直しに当たってはオンライン資格確認システムを活用した診療のメリットを十分に理解していただき、そして納得できる加算にする必要がある」と指摘した。
支払側からは、「自己負担が発生することについての患者の理解、納得が得られるよう、メリットの説明に主軸を置き、これまで以上にしっかり取り組むべき」(佐保昌一委員・日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、「負担をするにあたってメリット、特に医療の質向上をいかに体感できるか、納得できるか。言葉だけ言われても、一般の国民や患者は、理解できないものだ。具体的な説明をお願いしたい」(松本真人委員・健康保険組合連合会理事)など、患者視点からの課題を指摘する声が相次いだ。
骨太方針には「関連する支援等の措置」が明記されており、支払側の松本委員は「財政措置の全容が見えていないなかで、中医協では診療報酬の議論だけするのでは無理がある」と指摘した。厚労省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長は、「いま財政当局と調整しているところだ。実際現場で動いていただく意味においても、こうしたものを早くお示ししていくことが重要だと考えている。財政当局と調整がつき次第、速やかに公表させていただきたい」と述べた。
◎紙レセプト請求の医療機関は原則義務化の例外へ 診療側は“やむを得ない事情”への対応求める
厚労省はこの日の中医協に、オンライン資格確認を原則義務化する“例外”として、「現在紙レセプトでの請求が認められている医療機関・薬局」を提案した。
診療側の長島委員は、「今後、医療機関をはじめとする関係者が義務化に向けて努力したとしても、例えば離島・へき地や、都心でも建物の構造によっては光回線が普及していないこともある。医療機関がベンダーと契約したにもかかわらず、結果的にベンダーの対応が遅れてしまった場合など、医療機関の責任とは言えない、やむを得ない事情により来年4月に間に合わない事態が生じてしまう懸念がどうしても払しょくできない」と指摘。「今後の導入状況を把握し、その結果によっては必要な対応を講ずることがあり得ると中医協で共有しておくことが医療機関にしっかり取り組みを促す観点からも必要だ。二号側として、中医協の議論を空洞化させないためにもこの点は譲れないので、この点は必ずご対応いただくようお願いする」と求めた。
これに対し、水谷医療介護連携政策課長は、「厚労省として周知徹底、環境整備は最大限努力していく。導入に向けて課題となっていることへの対応を行って関係者それぞれが努力することが大前提となるが、それでもなお、来年4月からの導入が困難な状況、仮に生ずる事態があれば年末ごろに、そうした状況について地域医療に混乱を来さないか、観点も含めて点検をおこなって必要な対応について検討することは考えられるのではないか」と述べた。
◎規制改革実施計画では電子媒体請求推進明記 対象範囲の段階的縮小も
支払側からは、「ある一定程度の期限は切ったほうがよろしいのでは」(支払側・安藤委員)など、段階的に例外の範囲縮小を求める声もあがった。これに対し、水谷医療介護連携政策課長は、今年6月に閣議決定された規制改革実施計画に、「紙レセプトはもとより、電子媒体による請求が行われている場合も含め、オンライン請求への移行を進める必要があることから、オンライン請求を行っていない医療機関等の実態調査を行うとともに、その結果も踏まえ、将来的にオンライン請求の割合を 100 %に近づけていくための具体的なロードマップを作成する」と盛り込まれたことを引き合いに、「こうした方針に沿って議論を進めて参りたい」と述べた。