バイエル薬品のフリオ・トリアナ社長は４月14日、就任後初の記者会見に臨み、「日本は引き続きバイエルにとって重要な市場であり続ける」と表明した。日本の新薬市場の規模は米国に次ぐ世界２位だとしたほか、高齢者人口が過去最高を更新し続けるなかで国策として健康寿命の延伸を掲げていることを理由にあげた。トリアナ社長は、「いち早く日本の患者に革新的な医薬品を届けることで、人々の健康や暮らしに貢献する」と述べた。また、「デジタルトランスフォーメーション（ＤＸ）は引き続き非常に重視している」と強調し、現行のビジネスプロセスの改善に意欲をみせた。

◎21年売上0.6％減　アイリーア、イグザレルト、ヤーズフレックスは「力強く成長」

同社の2021年売上高（薬価ベース）は、前年比0.6％減の2975億円だった。21年度薬価改定に加え、後発品が参入している高脂血症治療薬・ゼチーアや高リン血症治療薬・ホスレノールの大幅減収が影響した。一方で、加齢黄斑変性治療薬・アイリーア、抗凝固薬・イグザレルト、子宮内膜症に伴う疼痛/月経困難症治療薬・ヤーズフレックスの売上上位３製品が「力強く成長」（トリアナ社長）し、前年からほぼ横ばいで着地。国内医療用医薬品市場における売上トップ10企業の地位を維持した。

◎アイリーアとイグザレルトは売上800億円超に

アイリーアは売上852億円、前年比10.2％増と２ケタ成長した。参天製薬との共同販促が功を奏し、「より個別化した形で眼科医にアプローチできている」と評価した。イグザレルトは売上815億円で2.9％増だった。21年に小児の静脈血栓塞栓症の適応を追加し、OD錠やドライシロップも投入。今後も「幅広い年齢層に貢献する。アクティブシニアの患者の生命と暮らしを守る」と述べた。

ヤーズフレックスは売上152億円で41.8％の大幅増収だった。最長120日間連続服用できる用法が好調の一因という。不妊治療に係る効能追加と22年４月からの保険適用も追い風に、「今後も引き続き成長する」と見通した。このほか、21年９月発売の新規機序の慢性心不全薬・ベリキューボに触れ、「予想以上に速いペースで成長している。力強い売上になっている」と今後への期待を示した。

なお、ゼチーアは売上63億円（前年比67.2％減）、ホスレノールは同108億円（26.8％減）、血友病A治療薬・コバールトリイは同67億円（15.7％減）――だった。

22年も重点領域のがん、循環器・腎疾患、ウィメンズヘルスに注力する方針。売上上位の主力３製品に加え、がん領域では前立腺がん治療薬・ニュベクオやNTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がん治療薬・ヴァイトラックビ――、循環器・腎疾患領域ではベリキューボ、2型糖尿病合併CKD治療薬・ケレンディア、５月に長期投与が解禁される経口腎性貧血治療薬・マスーレッド――を挙げて、リアルとデジタルを組み合わせた情報提供活動を展開する構えをみせた。

◎前立腺がん治療薬ニュベクオ　全世界ピーク売上30億ユーロ超に引上げ

バイエルはグローバルで、「2030年までにトップ10のオンコロジーメーカーになる」ことを目標に掲げる。トリアナ社長は、ニュベクオが「オンコロジー領域の成長の礎になる」と期待を寄せ、同剤の全世界のピーク時売上を30億ユーロ超に引き上げたことを明らかにした。同剤は日本で「遠隔転移を有しない去勢抵抗性前立腺がん」の適応で20年５月に発売。22年３月には遠隔転移を有する前立腺がんに係る一変申請を行っている。

◎バリューチェーンを総合的に見直し　「ＤＸを加速させる」

このほか、バリューチェーンを総合的に見直し、研究開発、製品供給、医療関係者への情報提供やファーマコビジランス、マルチチャネルのビジネスモデルなどで「ＤＸを加速させる」ことも表明した。

同社はＤＸを通じて、▽現行のビジネスプロセスの改善▽“Beyond the pill” 医薬品の提供を超えた新しいビジネスモデルの開発――の２点を行うことが目的。このうちビジネスプロセスの改善では、具体的な例として、人工知能（ＡＩ）を用いて、有害事象などのデータを取得して文章レビューを行うことを挙げ、「（有害事象の収集を）より効果的、効率的に実施することが可能になる」と述べた。「AIで我々の暮らし、仕事の仕方、学習の仕方が大きく変わる。ＡＩが能力増強のカギ」とも強調した。

トリアナ氏は、ドイツ本社で医療用医薬品部門経営委員会委員トランスフォーメーション責任者などの要職を歴任後、2021年９月にバイエル薬品社長及び日本・アジアパシフィック代表に就任した。22年１月からは日本バイエル代表にも就いた。