厚労省 新薬9製品を承認 NSCLCに対するKRAS G12C阻害薬ルマケラスは無償提供開始
公開日時 2022/01/21 04:50
厚生労働省は1月20日、新有効成分含有医薬品9製品を承認した。国内初のがん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬・ルマケラス錠(一般名:ソトラシブ)がある。同剤を製造販売するアムジェンはこの日、KRAS G12C変異を有するNSCLC患者の緊急の要望に応えるため、薬価収載されるまでの間、厚労省の定める「保険外併用療養費制度」のもと、同剤を無償提供する倫理的無償供給プログラムを開始すると発表した。薬価収載手続きが順調にいけば、4月に収載される見通し。
◎再生医療等製品2製品を承認 初の多発性骨髄腫に用いるCAR-T細胞製品も
また、この日は再生医療等製品として2製品が承認された。ひとつはブリストル マイヤーズ スクイブの再発・難治性の多発性骨髄腫に用いるCAR-T細胞製品・アベクマ点滴静注(イデカブタゲン ビクルユーセル)。CAR-T細胞製品としては4つ目だが、多発性骨髄腫を適応とするのは今回が初めて。もうひとつはひろさきLI社の角膜上皮幹細胞疲弊症における眼表面の癒着軽減を目的とした再生医療等製品サクラシー(ヒト羊膜基質使用ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート)となる。
承認された製品は次の通り(カッコ内は一般名、製造販売元)。薬効分類別に記載。
▽レイボー錠50mg、同錠100mg(ラスミジタンコハク酸塩、日本イーライリリー):「片頭痛」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:119。
初の5-HT1F受容体選択的作動薬。中枢及び抹消の三叉神経系神経細胞に発現する5-HT1F受容体に結合することで、血管を収縮させずに、三叉神経からの神経伝達物質(CGRP)の放出を抑制することで片頭痛の症状を軽減する。片頭痛の病態には三叉神経系の過活動が関係しており、5-HT1F受容体が三叉神経系の神経細胞に発現していることから、5-HT1F受容体の片頭痛病態への関連性が指摘されてきた。
同剤の流通・販売は第一三共が担い、情報提供・収集活動は両社で実施する。両社は片頭痛治療薬エムガルティ皮下注でも販売提携しており、レイボーも同様のスキームで展開する予定。
▽ラピフォートワイプ2.5%(グリコピロニウムトシル酸塩水和物、マルホ):「原発性腋窩多汗症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:125
同剤はグリコピロニウム臭化物の塩違いで、ムスカリン受容体に親和性を示し、抗コリン作用を有する。用法・用量は、「1日1回、1包に封入されている不織布1枚を用いて薬液を両腋窩に塗布する」。ワイプ剤は初めて。原発性腋窩多汗症治療薬にはエクロックゲルがあるが、こちらはゲル剤となる。重度の原発性腋窩多汗症に対してはボトックス筋注がある。
▽ピヴラッツ点滴静注液150mg(クラゾセンタンナトリウム、イドルシアファーマシューティカルズジャパン):「脳動脈瘤によるくも膜下出血術後の脳血管攣縮、及びこれに伴う脳梗塞及び脳虚血症状の発症抑制」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:219。
エンドセリン受容体拮抗薬で、今回の効能・効果を持つ世界初の治療薬。エンドセリンA受容体を阻害することで、くも膜下出血により増加したエンドセリン-1との関連が示唆される脳血管収縮を抑制し、脳血管攣縮の発症を抑制すると考えられている。同剤は、くも膜下出血術後早期に投与を開始し、くも膜下出血発症15日目まで投与して用いる。
▽リフヌア錠45mg(ゲーファピキサントクエン酸塩、MSD):「難治性の慢性咳嗽」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:229
世界初の慢性咳嗽に対する選択的P2X3受容体拮抗薬。P2X3受容体は気道の迷走神経のC線維上に発現しているアデノシン三リン酸(ATP)受容体で、ATPは気道の炎症条件下で気道粘膜細胞から放出される。細胞外ATPが気道のC線維上のP2X3受容体と結合することで、損傷の可能性を示すシグナルとして感知され、咳嗽が惹起されることがある。細胞外ATPとP2X3受容体の結合を阻害することで、C線維の活性化を抑え、咳嗽が抑制されると考えられている。
同剤は通常、成人には1回45mgを1日2回経口投与で用いる。杏林製薬が独占販売する。
▽エヌジェンラ皮下注24mgペン、同皮下注60mgペン(ソムアトロゴン(遺伝子組換え)、ファイザー):「骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:241。
ヒト成長ホルモンにヒト絨毛性ゴナドトロピンに由来するアミノ酸配列を付加することにより、生体内半減期を延長した新規の長時間作用型ヒト成長ホルモン製剤。1週間に1回の皮下投与で用いる。これまで成長ホルモンの治療は連日投与する必要があった。
▽メプセヴィ点滴静注液10mg(ベストロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)、アミカス・セラピューティクス):「ムコ多糖症VII型」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は10年。希少疾病用医薬品。未承認薬・適応外薬検討会議開発要請品目。薬効分類:395。
遺伝子組換えのヒトβ-グルクロニダーゼの酵素製剤。点滴静脈注射で投与することにより、全身に過剰に蓄積されたムコ多糖の分解が促進される。ムコ多糖症VII型の推定有病率は100万人当たり1人とされ、日本では現時点で5例確認されている。ムコ多糖症VII型に対する国内初の治療薬。
▽ビンゼレックス皮下注160mgシリンジ、同160mgオートインジェクター(ビメキズマブ(遺伝子組換え、ユーシービージャパン):「既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。再審査期間は8年。薬効分類:399。
炎症性サイトカインのIL-17AとIL-17Fを選択的に阻害するヒト化モノクローナルIgG1抗体。IL-17FはIL-17Aとは独立して炎症を促進する。同剤はIL-17AのみならずIL-17Fも選択的に阻害することが特長で、IL-17Aのみの阻害よりさらに大きな炎症抑制が期待されている。
同剤は通常、成人には1回320mgを初回から16週までは4週間隔で皮下注射し、以降は8週間隔で皮下注射する。ただし、患者の状態に応じて16週以降も4週間隔で皮下注射できる。
▽ルマケラス錠120mg(ソトラシブ、アムジェン):「がん化学療法後に増悪したKRAS G12C変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類:4291。
KRAS G12C阻害薬。非小細胞肺がん(NSCLC)で認められるドライバー変異のひとつにKRAS G12C変異がある。これまでにKRAS G12C変異を有するNSCLCに対する治療薬は日本で承認されておらず、既存の二次治療における転帰も不良なため、高いアンメット・メディカル・ニーズとなっている。国内のKRAS G12C変異陽性のNSCLCの患者数を約6700人とされる。
同剤は通常、成人には1回960mgを1日1回経口投与で用いるが、患者の状態で適宜減量する。
アムジェンは1月20日、KRAS G12C変異を有するNSCLC患者の緊急の要望に応えるため、厚労省の定める「保険外併用療養費制度」のもと、同剤を無償提供する「倫理的無償供給プログラムを開始すると発表した。同プログラムは適正使用の観点から、同剤の日本での開発治験参加医療機関に限定して実施する。同プログラムの実施期間は薬価収載前日まで。
▽ウィフガート点滴静注400mg(エフガルチギモド アルファ(遺伝子組換え)、アルジェニクスジャパン):「全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る)」を効能・効果とする新有効成分含有医薬品。希少疾病用医薬品。再審査期間は10年。薬効分類:639。
抗FcRn抗体フラグメント製剤。疾患を引き起こす原因である免疫グロブリンG(IgG)抗体を減らし、IgGのリサイクルを阻害するよう設計されたもの。IgG抗体の分解を妨げる上で中心的な役割を担っている胎児性Fc受容体(FcRn)に結合し、FcRnを遮断することで、IgG抗体値が減少する。このため、疾患を引き起こす IgG抗体によって生じるいくつかの自己免疫疾患に対する論理的な治療法となる可能性がある。
重症筋無力症は、IgG抗体が神経・筋肉間の情報伝達を妨害し、生命を脅かす可能性のある消耗性の筋力低下を引き起こす希少慢性自己免疫疾患。患者の85%以上が18か月以内に全身型重症筋無力症に進行し、症状が全身の筋肉に及んで極度の疲労をきたし、話したり、飲み込んだり、動いたりすることが困難となる。呼吸を司る筋肉に影響を及ぼすこともある。
同剤は、1回10mg/kgを1週間間隔で4回1時間かけて点滴静注し、これを1サイクルとして投与を繰り返す。
▽アベクマ点滴静注(イデカブタゲン ビクルユーセル、ブリストル・マイヤーズスクイブ):「再発又は難治性の多発性骨髄腫。ただし、▽BCMA抗原を標的としたキメラ抗原受容体発現T細胞輸注療法の治療歴がない▽免疫調節薬、プロテアソーム阻害剤及び抗CD38モノクローナル抗体製剤を含む3つ以上の前治療歴を有し、かつ、直近の前治療歴に対して病勢進行が認められた又は治療後に再発した――のいずれも満たす場合に限る」を効能・効果又は性能とする再生医療等製品。希少疾病用再生医療等製品。再審査期間は10年。
CAR-T細胞製品。同製品としては4剤目だが、多発性骨髄腫を適応とするのは今回が初めて。患者抹消由来のT細胞に、遺伝子組換えレンチウイルスベクターを用いてヒトB細胞成熟抗原(BCMA)を認識するCARを導入し培養・増殖させたもの。医薬品と同様に薬理的作用による治療効果を期待して、静脈内投与で用いる。3つ以上の前治療歴などの後に用いるラストライン的な治療選択肢となる。
同製品が多発性骨髄腫細胞の表面にあるBCMAを認識し結合すると、CAR-T細胞が増殖しサイトカインが放出され、結果として、BCMA発現細胞が融解・殺傷される。
▽サクラシー(ヒト羊膜基質使用ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート、ひろさきLI):「角膜上皮幹細胞疲弊症における眼表面の癒着軽減」を効能・効果又は性能とする再生医療等製品。希少疾病用再生医療等製品。再審査期間は10年。
角膜上皮幹細胞疲弊症は、黒目を覆っている角膜上皮の幹細胞が障害を受けたために新たな角膜上皮が供給されず、角膜が結膜上皮と結合組織で覆われてしまい、視力が著しく低下する疾患。特に重度のものを難治性眼表面疾患といい、スティーブンス・ジョンソン症候群、眼類天疱瘡、重症熱・化学外傷などに起因する。
サクラシーは、口腔の粘膜上皮細胞を羊膜上で培養し作製する培養自家口腔粘膜上皮シートのこと。このシートを患部に移植することで異常な角結膜を再建し、眼表面の異常を修復することを目的として使用される。承認条件として医師要件、施設要件のほか、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知、講習の実施、全例調査がついている。