財政審・建議 22年度診療報酬「マイナス改定なくして医療費適正化なし」 薬価改定は聖域なき厳格化・適正化を
公開日時 2021/12/06 04:52
財務省の財政制度等審議会(榊原定征会長)は12月3日、「令和4年度予算の編成等に関する建議」を鈴木俊一財務相に手渡した。2022年度診療報酬改定に向け、診療報酬本体が高齢化などの要因による伸びにさらに上積みする“プラス改定”を続けてきたことを指摘し、「診療報酬本体のマイナス改定を続けることなくして医療費の適正化は到底図れない」と強調した。高い自然増に基づく要求点が出発点になっているとして、「高止まりしているのであれば、躊躇なくマイナス改定をすべき」と主張した。薬価改定については医薬品市場が経済成長を大きく上回る成長を続けてきたことを問題視。「毎年薬価改定、市場拡大再算定・特例拡大再算定といった現行の薬価改定ルールの徹底を一段と強化することが必須」として、「調整幅の廃止をはじめ聖域なき薬価改定の厳格化・適正化に踏み込まなければならない」とした。
◎医療機関の経営は近年になく好調 医科・歯科・調剤の配分の見直しも
建議では、新型コロナの感染拡大という緊急事態のなかで、「戦後最大の例外」と位置付けた。正常化に向けて、「今後、再度の感染拡大に備えつつ、あるべき医療提供体制に向けて、診療報酬をはじめ諸制度の見直しを幅広く、そして力強く推し進めるべき」とした。
そのうえで、社会保障関係費は「高齢化による増加分」に相当する伸びにおさめる必要性を指摘した。足元の医療費の動向については、2020年度の概算医療費は42.2兆円と対前年度比マイナスだったが、「すでに新型コロナ感染拡大前の水準を回復しており、さらにそれを上回っている」と指摘。補助金が収入として加算されるため、「収入は47兆円程度と見込まれている。医療機関の経営実態は近年になく好調」と主張した。看護師の処遇改善も議論となるなかで、財源配分にも言及。「医科・歯科・調剤の各科について、それぞれの技術料部分に対して同程度の伸びとなるように改定率が横並びで設定されており、硬直的となっている」と指摘し、見直しを求めた。
薬価改定については、「過大な要求の積算の修正作業に過ぎない」との考えを表明。薬価改定をマイナス改定することで、診療報酬本体プラス改定率を上積みする論拠することについては、「薬剤費総額が伸長する中での過大な要求の積算の修正作業によって生じたものを「財源」などと考える余地は全くない。ましてそれを診療報酬(本体)の上積みの論拠とすることは、そもそも診療報酬本体の適正化を図る必要がある中で、フィクションにフィクションを重ねたものというよりほかはない」と主張した。
◎“なんちゃって急性期病床”急増を問題視 包括払いの本格導入検討も
22年度診療報酬改定については、改めて「医療提供体制改革なくして診療報酬改定なし」の姿勢を鮮明にした。看護配置7対1の入院基本料が導入された結果として医療資源の散在が加速し、低密度で対応できる医療しか行わない“なんちゃって急性期病床”が急増したと指摘。こうした現状がコロナ禍で浮き彫りとなった医療提供の課題と指摘し、地域医療構想について、「時計の針を戻すことなく、遅滞なく進めるべき」と主張した。診療報酬上の評価については、「短期滞在手術等基本料の対象拡大といった個別の報酬設定の問題にとどめることなく、1入院当たり包括報酬(DRG/PPS)の本格導入、包括払いの対象の急性期入院医療からの本格的拡大を視野に入れるべき」と提言した。
◎かかりつけ医の法制化と包括払い実現を 機能強化加算は「ゼロベースでの見直し必須」
コロナ禍で外来医療や在宅医療へのアクセスが限られていたことも指摘されるなかで、かかりつけ医については、制度化の必要性を指摘した。「かかりつけ医機能の要件を法制上明確化したうえで、これらの機能を備えた医療機関をかかりつけ医として認定するなどの制度を設けること、こうしたかかりつけ医に対して利用希望の者による事前登録・医療情報登録を促す仕組みを導入していくことを段階を踏んで検討していくべき」とした。制度の実現で、緩やかなゲートキーパー機能を発揮することに期待感を示した。
診療報酬上の評価については、「受診回数や医療行為の回数による出来高払いより包括払いがなじむ」と主張した。一方で、現行のかかりつけ医を評価する点数である機能強化加算については「ゼロベースでの見直しは必須」と迫った。また、オンライン診療については、「かかりつけ医の制度化とセットでそのあり方を考えていくべき」とした。
◎調剤報酬 リフィル処方導入を 服薬指導・管理評価を報酬上の充実・強化も
調剤報酬については、敷地内薬局を問題視。「調剤基本料の適正化を一段と強力に進めることは勿論、 規制的手法も用いてこうした薬局の在り方を正していくべき」とした。このほか、後発医薬品調剤体制加算については、費用対効果が見合っていないとして、「廃止を含めた見直しを行い、減算について対象を大幅に拡大するなど減算を中心とした制度にすべき」と主張した。あわせて、医療機関側の一般名処方加算や後発医薬品使用体制加算についても見直しを求めた。一方で、リフィル処方については「時機を逸することなく導入すべき」と主張。かかりつけ医と連携するかかりつけ薬剤師の「服薬指導・管理の評価を調剤報酬上充実・強化していくこともあわせて検討すべき」とした。
◎薬剤費 経済成長率を上回る成長を問題視 マクロ経済スライドの導入も明記
薬価改定については、薬剤費総額の伸びが経済成長率を上回ってきたことを問題視した。「毎年薬価改定の実現など近年の薬価制度の抜本改革の成果にとどまることなく、もう一段の強力な薬剤費適正化の取組が必要」と主張した。具体的には、「毎年薬価改定、市場拡大再算定・特例拡大再算定といった現行の薬価改定ルールの徹底を一段と強化することが必須」と明記した。「なお拡大する医薬品市場の成長の果実をいかにイノベーションの推進など必要な課題に振り向けていくかの分配の議論こそ、今なされる必要がある」ことも盛り込んだ。
新薬は薬事承認されたものはすべて収載されており、「事前の予算統制の埒外となり、財政の予見可能性が失われている」と指摘。高額薬剤の登場も想定されるなかで、新薬収載時は財政中立となる必要性を指摘。「薬剤給付費の伸び率を過去の実績を反映した堅実な経済成長率の見通し等のマクロ指標に連動させる薬剤費総額のマクロ経済スライドを導入し、PDCA サイクルを回すことも十分考慮に値する」と明記した。
◎調整幅 22年度改定で「廃止に向けたロードマップを示し、段階的縮小を実現すべき」
調整幅については、現行の2%が20年間維持されていることを問題視した。「水準の合理的な根拠の説明もないままに、薬価改定の効果を目減りさせ、保険料負担・患者負担・公費負担を嵩かさ上げしていることは、大きな問題と言わざるを得ない」と主張した。22年度薬価改定では、「調整幅の廃止に向けたロードマップを示しつつ、段階的縮小を実現すべき」とした。一定幅については、「令和3年度薬価改定限り」であることも明記した。
このほか、21年度から導入された毎年薬価改定については、対象品目が約7割にとどまることや、実勢価改定と連動しその影響を補正するもののみを適用していることなどから、「毎年薬価改定が完全実施されたとまでは言えない」と指摘。「完全実施を早期に実現すべき」と主張した。