日本マイクロソフトは、患者ごとに最適化した治療支援や、医療従事者の生産性向上をＤＸで支援する取り組みに注力している。2020年から提供を開始したMicrosoft Cloud for Healthcareにより、患者とのエンゲージメントを向上させたほか、医療従事者とのコラボレーションを強化し、暗黙知の見える化やデータ分析による最適化された医療サービスの提供など、医療現場のデジタル化をバックアップしている。同社は、電子カルテやオンライン診療などでパートナー企業のソリューションと連携するなど、ヘルスケア領域のクラウド化で医療分野のDX化をリードする考えだ。

日本マイクロソフトは、医療分野のＤＸ化の推進を目的としたプレス説明会を9月30日に開催し、ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション（DX）の最新事例や戦略を紹介した。プレス説明会では医療・製薬営業統括本部長（業務執行役員）の大山訓弘氏が講演したほか、ゲストとして登壇した国立国際医療研究センター医療情報基盤センター長の美代賢吾氏がヘルスケア分野におけるデジタル化の本質を通じた新たな医療への期待などを述べた。

◎電子カルテやオンライン診療とTeamsとの連携事例を提示

ヘルスケア分野の現状について同社の大山医療・製薬営業統括本部長は、構造化されていないデータがまだ９割あるほか、生産性向上の余地も７割ほど残されているなどの具体的な数値を挙げて説明し、「医療分野におけるこうした課題は、診療情報や健康情報のデータ活用でイノベーションを起こすことにより解決の可能性が見えてくるのはないか」と指摘した。

同社が描く構想は、社会と医療をつなぐヘルスケアプラットフォームを構築して、デバイスやIoTなどでPHRを収集する。加えて健診データや診療情報などのEHRと一元管理し、医療機関のみならず、保険会社、リテール企業、健康産業とのヘルスケアビジネスを促進するというものだ。

企業とのタイアップ事例としては、同社のオンライン会議システムTeamsと富士通の電子カルテシステム、インテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療システムとの連携を紹介した。中でも電子カルテシステムとの連携は、電子カルテ情報を共有しながらリモートワーキングやWebミーティングなどを行えるというもの。医療従事者の働き方改革を実現することも視野に入れてシステムを組んだ。将来的には施設間での診療情報の共有も進める方針だ。

◎国際医療研究センター美代氏「医療の本質は情報処理とコミュニケーション」

国立国際医療研究センターの美代医療情報基盤センター長は、医療とは情報処理であり、コミュニケーションであるという２つ観点からデジタル化の必要性を説いた。情報処理については「医師は約6000種の医学検査から必要な検査を選択し、2万5000ほどの病名から適切な診断を下して患者に最適な処方を３万種ある医薬品から組み立てる」として、体温計を含めたあらゆる医療機器が病院情報ネットワークに組み込まれている現状を紹介した。

そのうえで「医療分野はデジタル化が遅れているような印象を持たれているが、現実には多様な情報処理を行うためにかなり進んでいる。ただし、今後は電子カルテなどを起点に、蓄積されたデータをさらに活用していくことが求められている」との課題を指摘。例えば、Medical Excellence JAPAN（MEJ）の四次元医療改革研究会で示された電子カルテの活用例を挙げ、「日常診療の中で自然と研究データが溜まる」、「個人単位での一元管理」、「医療機関の運営・見える化」などの視点が必要だとしている。

一方、医療はコミュニケーションであるという観点から「コロナ禍がもたらしたのは、ある意味、コミュニケーションクライシスであり、コミュニケーションの改革は、平時は医療の力を向上させ、緊急時は医療の力の維持につながる」と美代氏は述べ、国立国際医療研究センターでの取り組みを紹介した。2015年にOffice365を導入して全職員にアカウントを付与して共有情報の集約化などを進め、コロナ禍でさらにデジタル化に弾みがつき、中でも申請書の電子化やリモートワーク、オンライン会議が急速に浸透したという。

最後に美代氏は、JH（国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部）が2020年４月に発足し、６つのナショナルセンターを超高速ネットワークで接続し、共同研究や人材育成などに取り組んでいくことに言及した。当面はリモートワークを中心に活動を進めるとしている。