久光製薬 企業使命を「『手当て』の文化を、世界へ」に再定義 貼布剤に留まらず社会に貢献
公開日時 2021/09/21 04:51
久光製薬は9月17日、2025年度(26年2月期)を最終年度とする5カ年の第7期中期経営方針を発表した。社内外で“久光製薬=貼布剤”とのイメージが強すぎて、アライアンス活動などで機会損失に至ることもあったとして、企業使命を「『手当て』の文化を、世界へ」に再定義した。長年培った貼布剤の研究技術や生産技術といった強みをいかしつつ、貼布剤にとどまらない様々な商品やサービスを他社とのパートナーリングも視野に開発・提供し、社会に貢献していく方針だ。国内医療用医薬品事業はNSAIDsのジクトルテープと、22年度に申請予定の原発性手掌多汗症治療薬HP‐5070に注力する。
同社は1847年に薬業を始めて以来、経皮鎮痛消炎剤を中心とした医薬品の提供を通じてQOLの向上を目指してきた。17年度からの前中期経営方針では、企業使命として「貼布剤による治療文化を世界へ」を掲げた。
◎「貼布剤にこだわりすぎるということで、難点も見えてきた」
同社の中冨一榮社長はこの日のウェブ会見で、多様化する社会のニーズやスピード感に対し、「貼布剤にこだわりすぎるということで、難点も見えてきた」と述べた。例えば、多くの提携案件の中に貼布剤以外の案件もあり、企業価値の拡大や社会貢献につながる案件と思われても、最終的に具現化までしなかったという。また、外用剤の開発は化合物を導入した上で製剤設計することが多く、構造的に原価が高くなる。毎年薬価改定で事業環境がより厳しくなる中で、培った技術を貼布剤以外の分野でも最大化させる必要があるとも判断したようだ。
中冨社長は、「(当社は)サロンパスを中心とした貼布剤のイメージが、すごく良くも悪くも強い」とし、「これを壊すわけではなく、活かしながら、世の中のスピードや要求に応えることを考え、実行していこうとの思いを(新たな企業使命に)込めた」と強調した。今後、ロコモティブシンドロームに係る健康食品やアプリ、超高齢社会や女性にフォーカスした商品・サービスの開発に取り組みたい意向を示した。
◎社内の意識を変える
今年に入ってから社内ベンチャー制度を導入し、若手社員を中心に様々なアイディアが出ているという。今回の企業使命の再定義には、社内の意識やモチベーションを変え、社会のためになるアイディア出しにつなげたいとの思いも込められていると言い、「企業使命の変更は急務だった」とも語った。
新たな企業使命の「手当て」は、「思いやり、大切な人に手を添え、心を込めて癒やす、当社が創業以来大切にしてきた、いたわりの治療文化」だと説明。新使命は、これまでの「貼布剤による治療文化を世界へ」との活動も含まれる、より広い考え方だとした。
◎25年度に売上1450億円以上 営業利益200億円程度
新中期経営方針の最終25年度の数値目標は、▽売上高の年平均成長率5.0%以上(20年度実績を基準)▽ROE(自己資本純利益率)8.0%以上▽海外売上高比率50%以上――と設定した。アライアンスやM&A、海外展開の強化、工場の老朽化対策・拡充などの成長投資として5年間に1500億円以上投じるとした。
同社の前川宜弘・企業戦略室長は会見で、設定した年平均成長率を達成すると、25年度の売上は1450億円以上になると説明。ROE目標は「トップライン(売上)を上げて利益を増やす」ことで達成したいとし、設定した数値を達成するためには営業利益200億円程度は必要との認識を示した。20年度は売上1145億円、営業利益106億円だった。
◎ジクトルテープ 腰痛症などの効能追加 22年度中の承認目指す
売上や利益の拡大に向けて、主力の医薬品事業では、国内はNSAIDsの持続性がん疼痛治療薬ジクトルテープ(一般名:ジクロフェナクナトリウム)の最大化や、原発性手掌多汗症治療薬HP-5070(オキシブチニン塩酸塩)に注力する。
ジクトルテープは1日1回貼付の全身投与型経皮吸収製剤。がん疼痛に対する効能・効果を有するNSAIDsなどの非オピオイド鎮痛剤として、初の貼付剤となる。現在、がん診療連携拠点病院や在宅クリニックなどへの情報提供を実施し、「軽度~高度の痛みへの飲まないがん疼痛治療」を訴求している。申請準備中の「腰痛症・肩関節周囲炎・頸肩腕症候群・腱鞘炎」の効能追加を22年度中に取得し、強みを持つ整形外科領域で同剤を展開して最大化させる考え。
HP-5070は原発性手掌多汗症に対する塗布剤で、22年度中の申請を計画している。投与部位の皮膚刺激性が低いことが特徴のひとつという。国内初の同症に対する保険適用薬かつ第一選択薬を目指す。
海外事業は、OTCのサロンパスブランドの拡大や、医療用のADHD治療薬ATS(開発コード)の米国での21年度中の承認取得・販促、ジクトルテープの海外展開などに取り組む。このうちATSは、承認されれば米国ADHD市場で唯一のアンフェタミン貼布剤となり、アドヒアランスの改善などを訴求ポイントに最大化に取り組む。
◎マイクロニードル技術 実用化へアライアンス活動推進 化粧品への展開も
このほか同社は、「マイクロニードル」という微細な突起物により角質層の下に直接薬剤を送達させる新技術の開発も積極的に行っている。ただ、実用化には至っていない。そこで今後5年間に、ワクチンなど注射剤として投与されている高分子薬物での応用や、化粧品など治療に留まらない用途開発を模索し、アライアンス活動を積極的に進める方針だ。中冨社長は、「これら基盤技術により、従来の貼布剤では実現できない“未来”の経皮吸収製剤を創造する」との考えを示した。