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武田薬品と京都大 iPS由来の再生医療等製品の事業化で新会社「オリヅルセラピューティクス」設立

公開日時 2021/08/17 04:51
武田薬品と京都大らは8月10日、iPS細胞由来の再生医療の事業化に特化した「オリヅルセラピューティクス株式会社」を設立したと発表した。武田薬品と京都大iPS 細胞研究所の共同研究プログラム「T-CiRA」で、臨床応用が期待できる心筋細胞と膵島細胞の2プロジェクトを同社に移管する。新会社は、“死の谷”とも呼ばれる、研究から実用化をつなぐ前臨床開発や探索的臨床開発にフォーカスする。思い切った投資が実用化成功のカギを握るなかで、ベンチャーキャピタルや医薬品卸ら出資者となる新たなスキームを活用することで、ビジネス展開を早め、早期の実用化につなげることを目指す。新会社の野中健史代表取締役社長兼最高経営責任者は、「一日でも早く、開発品を我々の製品として患者様に届ける」と意気込んだ。

◎武田薬品T-CiRA ディスカバリーの梶井靖ヘッド「戦略を拡充すべきタイミング」


「T-CiRAプログラムの5年目に至り、事業展開戦略を拡充すべきタイミングにきた」―。武田薬品T-CiRA ディスカバリーの梶井靖ヘッドはこう話した。武田薬品と京都大iPS 細胞研究所は2015年に共同研究契約を締結。武田薬品が10年間で200億円を投じるビッグプロジェクトだ。T-CiRAプログラムでは、ALS治療薬候補化合物の選定や、iPS細胞から作成したT細胞によるがん免疫療法(iCAR-T)などの基礎技術を武田薬品の研究開発に移管しており、順調に進捗しているという。ただ、研究成果は武田薬品が重点領域に据える、がんやニューロサイエンス、消化器、遺伝性希少疾患以外の領域でも臨床応用が期待される研究も出始めた。迅速に実用化するためにどうすべきか―。選んだのが、新会社の設立だった。

T-CiRAプログラムはいわば、アカデミアのアイデアから創薬シーズを見つけ出し、臨床応用可能な姿にまで育てることがそのミッションだ。一方で、実用化にはグローバルな事業展開のできる製薬企業の存在が欠かせない。シーズの導出を選ばずに新会社設立に至った経緯について、武田薬品の梶井ヘッドは、「現在のiPS技術は未解明な点が多く、現状で導出したとして受け取って確実に患者さんにお届けする組織は存在していないと判断している」との考えを表明。「研究成果を良い形で患者さんに届けるために、湘南アイパークのエコシステムのなかで、我々T-CiRA、山中先生と密に協力し合いながら進めていくことが重要だと考えた」と説明した。さらに、「同時に、未完成の技術なのであるところでリスクを取った判断をすることが必要だ」として、新会社設立に至ったと強調した。

◎新会社はiPS細胞の技術者・研究者20人含む、エキスパート60人の集団

オリヅルセラピューティクスは、iPS細胞の技術者・研究者20人を含む、エキスパート60人を抱える集団となる。また、山中伸弥iPS細胞研究所所長が議長を務める、科学技術諮問委員会(SAB)を社内に設け、高い科学的レベルを維持する仕組みも整えた。実用化に向け、細胞の製造委託は京都大iPS細胞研究財団、臨床研究は京都大医学部附属病院と検討を進めているという。

◎重症心不全患者に対する心筋細胞と、1型糖尿病への膵島細胞の2プロジェクトを移管

同社には、T-CiRAプログラムにおいて、非臨床試験での有効性が検証された、重症心不全患者に対する心筋細胞と、1型糖尿病への膵島細胞の2プロジェクトが移管される。いずれも、武田薬品の重点領域以外の製品となる。特徴と言えるのが、細胞精製レベルの高さに加え、バイオリアクターによる培養・増殖を可能にすることで、品質を保ったままコストダウンを図ることが可能な点だ。いずれも、移植治療が必要な重度な患者を対象にしているという。2026年までに臨床試験を終えるとともに、上市を目指す。

生命予後が重篤な疾患が対象で患者数も少ないことから、条件付き早期承認制度の適用を含め、自社申請を視野に入れる。武田薬品との関係について問われた野中社長は、「具体的な話をしていない」と断ったうえで、「当然武田薬品の経験とノウハウが我々の事業の目標と一致すれば、お手伝いいただけるか協働していただけるかという機会はあると思う。iPSを実用化させたいという想いは一緒だと思う。これからも色々な形で協業させていただければ」と話す。

◎メディパルHDやベンチャーキャピタルなど多彩な出資者

同社のもう一つの大きな特徴といえるのが、出資者に多彩な顔触れが揃うことだ。京都大学イノベーションキャピタルを中心に設立された同社だが、武田薬品のほか、SMBCベンチャーキャピタル、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、メディパルホールディングスなどが総額60億円規模の第三者割当増資を行っている。野中社長は、「トランスレーショナルリサーチフェーズが研究開発の弱点だと言ったが、優先順位を考えたときにリスクの高いものに腹をくくって投資するのは難しい」と指摘。メガファーマであっても思い切った投資の難しさを強調した。そのうえで、「投資いただいた皆様が、会社経営がリスクを取ってしっかりやっていくということを理解いただいているというのが大きい」との考えを示した。

◎メディパルHD・依田専務取締役「将来の再生医療等製品の拡充を目指す」


出資者のメディパルホールディングスの依田俊英専務取締役は、「再生医療は、厳格な温度管理など高度なトレーサビリティと最適なバリューチェーンの構築が必須となる」との考えを表明。すでに超低温輸送システムを稼働させ、再生医療等製品3品目、治験10品目以上の搬送実績があると説明した。そのうえで、「これまでの豊富な実績とノウハウ、実績を通じて育成してきた専門人財をもって、日本発のiPS細胞による革新的な治療法開発とオリヅルセラピューティクスの事業化を支援し、患者に安定供給を実現するとともに、将来の再生医療等製品の拡充を目指す」と述べた。

このほか、同社ではiPS細胞関連技術を利活用した、創薬研究支援や再生医療研究基盤整備など、外部企業へのサービスを提供する考え。同社は湘南イノベーションパークに拠点を置き、6月1日から事業を開始している。

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