製薬企業5社による「製薬×データサイエンス Meetup」と題するイベントが8月7日にオンラインで開催された。データサイエンティスト、データエンジニア向けのイベントで、各社のデータサイエンスに携わる担当者が登壇し、医療・ヘルスケア分野におけるデータ利活用の事例を報告した。同時に各社の募集ポジションや職場環境などが説明された。イベントには470人余りが参加。プレゼン後には、ZOOMのブレイクアウトルームを活用したキャリア相談会も行われた。

この日のイベントは、アステラス製薬、エーザイ、大日本住友製薬、田辺三菱製薬、中外製薬の各社から「なぜ今、製薬企業のデータサイエンスが面白いのか？」をテーマに、実際のデータ解析やＡＩ開発の現状、データソリューション、ＭＲ活動を最適化するためのデータ活用などについての事例が紹介された。

◎アステラス製薬　大規模データを扱って薬剤開発の上流から下流まで広く携われる

アステラス製薬アドバンストインフォマティックス＆アナリティクス室（AIA）の澤邊剛氏は、創薬におけるデータサイエンティストの役割を講演した。同氏は、「データの種類や量が増大する中で、これまで出来なかった解析が行われるようになり、これに伴いデータサイエンティストの役割は増し、その活躍が必須になっている」と指摘。「単に与えられたデータと課題についてデータ解析するだけでなく、どのような問題設定が解くべき意味があるかを考え、利用目的（着地点）を考えたデータサイエンティストが求められている」と強調した。その上で、アステラス製薬で働く利点として、大規模データを扱えることや、薬剤開発の上流から下流まで広く携われることなどを紹介した。

◎ＡＩの継続学習でデータが集まるエコシステム　「DON DON Cycle」が好循環

エーザイhhcデータクリエーションセンターの三浦雄治氏は、「ＡＩ開発を加速させるインフラ環境とエコシステム」をテーマに講演した。同氏は、これまでの「データによる仮説検証」から、これからは「データからの仮説生成」に変化すると強調。RWDを解析し、今まで知られていなかったエビデンスを得て、リサーチクエスチョンとして新たな試験を実施するなど、データドリブン型のイノベーションに期待感を表明した。また、ＡＩの継続学習によってデータが集まるようなエコシステム「DON DON Cycle」が好循環を生むとした。

◎大日本住友製薬　「デザイン思考」によって、各領域の生産性を向上させる

大日本住友製薬データデザイン室の落合崇氏は講演で、「データサイエンスと製薬の融合が注目されるわけ」について述べ、ヒトのデータ活用ということで「データサイエンスの面白い分野で飛躍が期待できる」と強調した。同社では、低分子化合物から、抗体、核酸、再生医療、遺伝子治療、そして個別化医療へと患者ごとに最適化することができると説明。データサイエンティストに求められる「デザイン思考」によって、各領域の生産性を向上させることが求められるなど、取り組むべき領域や課題は沢山あるとの認識を示した。

◎田辺三菱製薬　健康医療データの収集・解析で治療薬とソリューションの価値向上

田辺三菱製薬デジタルトランスフォーメーション部の木野ゆりか氏は、同社の「保健指導・生活習慣サポートアプリTOMOKO」について講演した。保健指導の支援サービスを主眼としたアプリで、「糖をモニタリングしてコントロールする」が名称の由来であると紹介。開発の原点は、健康寿命の延伸に向けたデジタルビジネスの取り組みだったことを強調した。これにより、診断・治療以外の健康、未病、予防なども重視することから「ターゲットドメインの拡大」にも寄与しているとした。また、同社の経営方針として健康医療データの収集・解析により、治療薬とソリューションの価値向上に取り組んでいることを説明した。

◎中外製薬　「統計モデリング」は意思決定や感度分析のため重要

中外製薬デジタル戦略推進部の松浦健太郎氏は、「MRに対する医師の評価を向上させるためのアンケートデータ分析」をテーマに講演した。同社のＭＲと競合社のＭＲの医師（600人）による評価を分析することで、どの評価項目を伸ばせば中外製薬のＭＲ評価が高まるかをデータ解析から検証するというもの。評価項目にあげた「対応」、「性格」、「知識」などの集計の差だけでは総合評価に与える影響はかならずしも強いとは限らないとし、「統計モデリング」を用いた解析を試みた。その結果、「どの項目が高評価になれば総合評価を逆転できるかを知りたい」という問いへの答えを導くことができたと指摘。統計モデリングのような多変量正規分布に従う階層モデルの構築は、意思決定のための感度分析に重要と強調した。