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中等症以上のアトピー性皮膚炎治療でJAK阻害薬が選択肢の1つに 日本リリーセミナー

公開日時 2021/02/02 04:50
日本イーライリリーは1月22日、アトピー性皮膚炎の治療や患者の抱えるアンメットニーズをテーマにオンラインプレスセミナーを開催した。昨年12月に経口ヤスキナーゼ(JAK)阻害剤「オルミエント錠」(一般名:バリシチニブ)が既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に対して適応追加の承認を取得したのを受けたもので、同疾患においては、特に中等症以上の患者QOLが問題となっている。広島大学大学院医系科学研究科の皮膚科学教授、秀道広氏らが講演し、同疾患の治療の現状やオルミエントを中心とした新たな治療アプローチについて解説した。

◎治療負担など総合的に評価して投与を

アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す慢性の炎症性皮膚疾患で、激しいかゆみ、かゆみによる睡眠障害および皮膚疼痛、およびこれらの症状によって引き起こされるQOLの低下を伴う。かつて小児に多い疾患だったが、近年の問題として30歳代以降の成人に増加し、全世代に及び皮膚疾患となりつつある。

特に中等症から重症の患者は日常生活への影響が大きく、講演を行った秀氏は「各種データからも労働生産性の低下や活動障害などがみられるほか、重症だと外見が問題となり、精神的にうつ状態に陥る患者も少なくない」と説明。そのうえでアトピー性皮膚炎について、「非常にかゆみの強い病気で、角層の組織的脆弱性等によるバリア障害があり、アレルギーも起こしやすい。これらのかゆみ、バリア障害、アレルギーが病態を構成する3要素」と特徴づけた。

同疾患の治療は、①ステロイド外用剤などによる炎症抑制のための薬物療法、②バリア機能の低下を是正するスキンケア、③食物や化学刺激物質、ダニなどの原因・悪化因子の特定と除去─の3つが基本。特に外用剤の使い分けでは最初に強力なステロイドで鎮静化を図り、病態に応じて弱いステロイドや保湿剤でコントロールして治療からの離脱を目指すプロアクティブ療法が推奨されている。

同治療のポイントについて秀氏は、「長く良い状態をつくる時間軸の視点が大切だ。寛解維持をいかに維持していくか、患者への説明や指導など継続な支援が必要になる」という。一方、ステロイドの効果は強力であり、サイトカインが引き起こすかゆみやバリア低下といった反応を抑え込むことができるものの、必要のない細胞の機能を抑えてしまうため、副作用も少なくなく、サイトカインを放出するリンパ球により選択的に働くタクロリムスも副作用の問題から、長期の使用は推奨されていない。多くの患者は良い状態と悪い状態を繰り返しながら寛解に向かうが、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者は、よりQOLへの影響が大きいにもかかわらず、治療選択肢が限られていた。

そこで登場してきたのが、サイトカインを各個撃破していく作用機序の抗体医薬だ。2017年に関節リウマチで適応を取得し、昨年12月にアトピー性皮膚炎の適応が追加されたオリミエントは、アトピー性皮膚炎の発症にかかわる多数のサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、IL-22、IL-31など)を標的としたJAK1およびJAK2の阻害剤で、サイトカインと結合して活性化するJAKというたんぱく質をブロックする。

「これまでの治療ではなかなかコントロールできなかった患者により良い社会生活を送ってもらうことが可能だ。しかし高い効果を得られる半面、副作用対策を十分気を付ける必要がある。また高額であるため。すべての患者に使えるわけではない。少なくとも中等症以上の難治例に対して使用すべき薬剤」と秀氏は述べ、使用にあたって位置づけが求められる薬剤であることを強調。また同剤を使う論点として、▽外用剤治療の負担を含めたQOL▽副作用▽費用負担▽治療の過程における人生の意義(治療ゴールへの到達が早いなど)──を挙げ、「1人ひとりの患者の現状や必要性、心身や経済的な負担を総合的に勘案して使用していくことが肝要だ」と指摘した。

◎投与前には血液検査等が必要


続いて日本イーライリリーの臨床開発医師である板倉仁枝氏が、ステロイド外用剤併用下でのオリミエント16週投与における安全性と有効性を調べたBREEZE-AD7試験における有効性や安全性について解説した。

同試験は外用治療で効果不十分である中等症から重度の患者329例(日本人63人)を対象。さまざまな条件付きではあるものの、実臨床に近い結果を得るためにステロイド外用剤を併用して評価した。その結果、主要評価項目である皮疹の改善を示すIGAスコア≦1達成率は、プラセボ群に対してオリミエント4㎎群で優越性が検証され、「本試験の組み入れ基準が中等症以上であるIGAスコア3以上だったことを踏まえると、30%の患者ではっきりと認められていた紅斑、丘疹、苔癬化の症状がオリミエントの投与により、ほとんど改善された」と板倉氏は説明。また、もう一つの主要評価項目であるEASI-75達成率についても、同剤4mg群で約半数の患者の改善が認められている。

さらに、かゆみの改善に加え、睡眠や皮膚頭痛への影響においても有意に低下していることを紹介。主な有害事象(いずれかの群で2%以上に発生)は、上咽頭炎、毛包炎、口腔ヘルペスなどがあり、重篤な症状はなかったという。

なお、オリミエントの投与にあたっては結核スクリーニング検査や血液検査が必要となる。最後に板倉氏は、「オリミエントはサイトカインのシグナル伝達を阻害する薬だが、免疫反応に関するJAKを阻害する薬であることから、感染症に対する宿主免疫自体に影響を及ぼす可能性がある。そのため、問診や必要となる検査を実施し、患者の状態を確認したうえで処方していただきたい」と要望した。

同剤の処方においては厚生労働省から適正使用推進ガイドラインに基づき、施設要件や患者要件が定められている。加えて日本皮膚科学会からもガイダンスが出ており、乾癬における生物学的製剤使用承認施設での投与が推奨されているが、同施設に所属していない皮膚科専門医には、生物学的製剤安全対策講習会および追加講習「バリシチニブ使用上の注意」の受講がオンラインで用意されている。
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