神戸大・古和教授 早期AD薬・ケサンラ「早期投与完了で患者負担軽減も」 アミロイドβ完全除去の可能性
公開日時 2024/10/30 04:51
神戸大大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域の古和久朋教授は10月29日、日本イーライリリー主催のメディアセミナーで講演し、早期アルツハイマー病治療薬・ケサンラ(一般名:ドナネマブ)について、早期に投与を完了できる可能性があるとして、「患者さんの負担軽減につながる、あるいは患者さんと医療関係者の間で共通した目標を持つことができる」とメリットを強調した。なお、同剤の臨床第3相試験では、12か月間で7割近くの患者でアミロイドβを完全除去できる可能性が示唆されている。一方で、重大な副作用としてアミロイド関連画像異常(ARIA)関連事象が報告されているが、定期的なMRI撮影など日本全国で医療体制の整備が進んでいるとして、「現在の日本の医療体制であれば、十分にこの薬の効果と安全性を考慮しながら投与できる」とも述べた。
◎「アミロイドβを取り除くことが唯一かつ最大の作用機序」 共生社会の実現にも寄与
ケサンラは今年9月24日、「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」を効能・効果に承認を取得した。古和教授は同剤について、「アミロイドβを取り除くことが唯一かつ最大の作用機序。早期に投与完了できる可能性がある」と述べた。臨床試験で「認知機能低下及びADL(日常生活動作)低下」について1年半の試験期間で、5か月以上進行が抑制されたことにも触れ、「患者さんが住み慣れた地域で、現在の生活を少しでも長く続け、人々が個性と能力を発揮し、自分らしく過ごすことができる。そして、また周囲の社会が支えあうことにもつながる」と強調。「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の理念にも通ずるとの見方を示した。
◎早期AD薬「最適使用推進ガイドライン踏まえ、患者・家族が選択」
古和教授は同剤の投与を考慮する患者像として、MMSEの点数など「治験デザイン通りになる」と見通した。早期アルツハイマー病治療薬をめぐっては、レケンビ(一般名:レカネマブ)がすでに上市されている。ただ、同剤は最適使用推進ガイドライン策定対象の薬剤だが、まだ公表されていないことから、「厳密なことをいうのは難しい」としながらも、レケンビがMMSE22点以上でないと投与できないが、「この薬はMMSEが20点以上と少し点数が低い方でも使用できるのでは」との見方を表明。「実際に私の診察室でもMMSEが20点か21点か22点か問題になることが起きている」とも述べた。また、投与回数についても4週に1回であるため、「通院される患者さん、それに同行される家族の負担も少し違うのではないか」などと述べた。
そのうえで、「最終的に両者の最適使用推進ガイドラインが揃ったときに、しっかりと説明を差し上げたうえで患者さん、ご家族に選択いただくことになろうかと思う。ケサンラは老人班を取るということが唯一かつ最大の目的なので、ゴールが見えやすい。それも踏まえてどちらが良いか、患者さん、ご家族と一緒に考えていくということになろうかと思う」と述べた。
一方で、同剤の投与に際して留意すべき点としてはARIAやinfusion reaction(注射部位反応)など重大な副作用をあげた。古和教授は、「しっかりと医療提供体制を整え、見逃しのないよう、最適使用推進ガイドラインで定められた検査を行い、安全に投与するということが大前提。患者さん、ご家族にもメリットを享受いただくようやっていくことが重要かと思う」と述べた。
◎第3相臨床試験「AACI試験」 76週投与で進行抑制率は28.9%
同剤の承認の根拠となった国際共同第3相臨床試験「AACI試験(TRAILBLAZER-ALZ 2試験)」では、60~85歳のPET検査により脳内にアミロイドβプラーク沈着及びタウ蓄積が認められた早期アルツハイマー病患者1736例を対象に、有効性・安全性を検証した。患者背景は平均年齢73歳、ApoEキャリアが約7割、症状改善薬の併用は約6割、アルツハイマー病の症状発現からの期間は約4年、MMSEが23点(平均値)、認知症の重症度スケールである「CDR-GS」は0.5点(軽度認知障害)が約60%、1点(軽度認知症)が36%だった。主要評価項目には、認知機能+iADLのスコア(iADRS)のベースラインから76週時までの変化量を据えた。なお、iADRSは、神経心理学的検査として、認知機能とADL、日常生活動作を複合的に評価できる尺度(0~144点)。主要評価項目は、ケサンラ群(775例)で-10.19、プラセボ群(824例)で-13.11で、進行抑制率は28.9%だった。病理の進行の程度の軽い軽度/ 中等度タウ蓄積集団の進行抑制率は、36.0%だった。
◎小森医学部長「12ヶ月で7割近くがアミロイドβ完全除去の可能性」 探索的評価項目踏まえ
副次評価項目に据えた脳内アミロイドβプラーク沈着のベースラインから76週時までの変化量では、プラセボ群0.18に対し、ケサンラ投与群では-87.03、軽度/ 中等度タウ蓄積集団ではプラセボ群-0.67に対し、ケサンラ投与群では-88.03だった。さらに探索的評価項目として、アミロイドPET検査で陰性と判断される24.1センチロイド未満を達成した患者の割合は、全体集団では52週時点で66.1%、76週時点で76.4%、軽度/ 中等度タウ蓄積集団では56週時点で71.3%、76週時点で80.1%だった。
日本イーライリリー研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部ニューロサイエンス領域本部の小森美華医学部長は、「ケサンラが実際に臨床で使われるようになった際に、およそ12か月で7割近くの方がアミロイドβを完全除去できる可能性があるということが示唆された」と説明した。さらに、ケサンラ投与完了後にプラセボに切り替えたサブグループ解析の結果も提示。プラセボ群は患者背景を調整していないため解釈に留意が必要としながらも、「いずれの時期にケサンラからプラセボに切り替えた場合でも、その後76週までプラセボ群に比べ、進行の抑制が認められており、ケサンラ完了後も疾患の進行抑制効果が認められている」と有用性を強調した。
◎ARIAの発生率はケサンラ群で4割 頭痛や嘔吐、錯乱など報告 MRI定期撮影で早期発見を
有害事象の発現率は、ケサンラ群89.0%(759/853例)、プラセボ群82.2%(718/874例)だった。重大な副作用である、ARIA関連事象はケサンラ群36.8%(314例)、プラセボ群14.9%(130例)だった。このうち、ARIA-E関連事象はケサンラ群24.0%(205例)、プラセボ群2.1%(18例)。このうち重篤な有害事象はプラセボ群では認められなかったが、ケサンラ群では1.5%(13例)認められた。ARIA-H関連事象はケサンラ群31.4%(268例)、プラセボ群13.6%(119例)、脳出血はケサンラ群0.4%(3例)、プラセボ群0.2%(2例)だった。ARIAの症状としては頭痛、悪心、錯乱が多く報告されているという。
小森医学部長は、「ARIA関連事象というのが、一過性で、無症候であるということが多いとされている。MRIの定期的な撮影や、疑わしい症状が出たときには早めにMRIを撮影するということで、ARIAの重篤化のリスクを減らす対応が必要と考えている」と説明した。ARIAは特に投与開始早期に多く報告されていることから、投与4回目(12週)までは撮影前にMRIの撮影し、その後も6か月に1度、定期的なMRI撮影が必要とした。