エーザイの内藤晴夫CEOは5月13日、ウェブで開いた2020年3月期(19年度)の決算説明会で、「COVID-19のもたらす新秩序の大きなキーワードはデジタルトランスフォーメーションだと思う」と述べ、情報提供・収集活動や医薬品の安定供給体制、医療提供の現場など様々な分野でデジタル活用が進むとの認識を示した。4月に薬価収載された新規の不眠症治療薬デエビゴ錠(一般名:レンボレキサント)を「7月初めに発売予定」であることを明らかにするとともに、「デジタルを中核とする新発売の情報伝達を準備中」と述べた。
新型コロナの影響に加え、会社としてデジタルトランスフォーメーションを推進する方針を掲げていることから、新製品をデジタル中心で展開してみることを示した格好だ。
デエビゴのデジタルを中核とする情報活動では、
インターネットライブセミナーやウェブ上でのMRと医師との面会、デジタル会議を活用する考え。なお、同社MRの医療機関への訪問自粛は現時点では5月末まで継続する予定。
同社はこの日の決算資料の中で、新型コロナを背景とする今後のMR活動について、「フィジカルな医療機関に対する営業体制から、デジタルによる双方向情報提供体制へ転換」すると記載した。この解釈について同社広報部は本誌取材に、「常に対面での情報提供・収集活動を目指していたところから、デジタルをより活用していくということ」と説明した。
このほか内藤CEOは、デジタルトランスフォーメーションの取り組みとして、パンデミックや気候変動、自然災害など様々な要因による需要変化を人工知能(AI)が予測し、原料調達から生産、出荷までの最適な生産計画を策定・実行する仕組みを「焦眉の急で実現しないといけない」と語ったほか、データを核とした認知症プラットフォーム「easiit」
(記事はこちら)による患者・家族との双方向の情報提供体制の構築に改めて意欲を示した。
■11年に開発中止したエリトラン 重症新型コロナで国際共同治験開始
同社はこの日、新型コロナの治療薬・ワクチン創出の取り組みのひとつとして、11年に開発を中止したエリトラン(一般名、開発コード:E5564)の国際共同治験(ランダム化比較試験)を6月から開始する予定であることを明らかにした。感染が確認され、入院中かつ症状が進行している患者400例を組み入れる計画で、試験開始に向けた治療薬を準備中とした。内藤CEOは「順調にいくと年内には結果が判明する」と述べた。国内の治験施設の確保で調整中であることも明かした。
同剤はサイトカインストームの原因となる多種サイトカイン産生シグナリングの最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する自社創製のアンタゴニスト。IL-6、TNFα、IL-1βなど複数のサイトカイン産生を単剤で一度に抑制することで肺炎の重症化を防ぐ可能性があるという。もともと重症敗血症の治療薬として開発していた。
■19年度は過去最高益 抗がん剤レンビマが大幅伸長、ブロックバスターに
19年度の連結業績は、売上6956億円(前年同期比8.2%増)、営業利益1255億円(45.7%増)となるなど増収、各利益段階で2ケタ増益となった。営業利益は過去最高となった。日本の医療用医薬品売上は2471億円(10.7%減)の減収だった。
日本で後発品事業を展開するエルメッドエーザイを19年4月に日医工に譲渡したことが国内事業の主な減収理由となる。ただ、グローバルで抗がん剤レンビマが売上1119億円(78.9%増)とブロックバスターに成長し、レンビマに関連する米メルクとの戦略的提携に伴う一時金及びマイルストンペイメントとして761億円(前期から106億円増)の計上もあったため、国内事業のマイナスを吸収した。
内藤CEOによると、レンビマはその有用性や世界での適応拡大に加え、新型コロナで様々な学会から内服抗がん剤を推奨する各種ガイダンスが発出されたことも追い風になったという。「レンビマが持つ内服抗がん剤としてのメリットが、このような感染リスクの中で高まっていると考えている」と述べた。
■20年度計画 レンビマ関連で約2200億円
20年度計画は、売上7190億円(3.4%増)、営業利益880億円(29.9%減)の増収減益を見込む。レンビマが引き続きグローバルで大きく成長して売上1580億円(41.2%増)を目指す。加えてメルクからの同剤に係るマイルストンペイメントもある。内藤CEOは、「(20年度に)レンビマは約2200億円の大きな売上収益をあげる事業に成長する」と期待を寄せた。
20年度はレンビマ以外にも、
抗がん剤ハラヴェンや
抗てんかん薬フィコンパなども成長させる。一方で、20年度は中期経営計画「EWAY2025」(16年度~25年度)の後半の成長に向けた「先行投資の年」と位置付けているとして、▽次世代認知症治療薬▽アンメットニーズの高いがん腫を標的としたレンビマとキイトルーダ併用療法――の開発に「積極的な資源投入を行う」としたほか、デジタルトランスフォーメーション実現に向けた投資なども行う計画。このため各利益段階で2ケタ減益の予想を立てた。
バイオジェンと共同開発している早期アルツハイマー病治療薬アデュカヌマブについて、内藤CEOは「全体として申請プロセスは良好かつ順調に進捗している」と説明。米国では20年度第2四半期の申請完了が「明確に視野に入った」としたほか、日欧でも規制当局との協議を継続進行しているとした。
【19年度の連結業績 (前年同期比) 20年度予想(前年同期比)】
売上高 6956億2100万円(8.2%増) 7190億円(3.4%増)
営業利益 1255億200万円(45.7%増) 880億円(29.9%減)
親会社帰属の純利益 1217億6700万円(92.1%増) 670億円(45.0%減)
【19年度のグローバル製品全世界売上高 (前年同期実績) 20年度予想、億円】
レンビマ 1119(626)1580
ハラヴェン 402(413)420
フィコンパ/Fycompa 253(193)340
アリセプト 349(402)350
パリエット/アシフェックス 241(277)240
【19年度の国内主要製品売上高 (前年同期実績) 20年度予想、億円】
ヒュミラ 519(469)520
リリカ 286(283)-
メチコバール 139(150)120
アリセプト 133(179)100
レンビマ 131(100)150
ルネスタ 126(112)135
パリエット 106(129)75 ※
ハラヴェン 92(94)95
トレアキシン 77(72)-
ケアラム 64(44)85
エレンタール 64(64)- ※
フィコンパ 39(30)100
グーフィス 36(-)65 ※
ジェネリック医薬品 -(252)-
※EAファーマ取り扱い製品
注) リリカは共同販促収入
【おことわり】下線部に誤りがありました。(5月14日12時20分修正済)