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【緊急寄稿 米ミシガン発現地レポート Part5】感染者数横ばい ソーシャルディスタンスの効果現れる

公開日時 2020/04/24 04:51
米国在住 ヘルスケアビジネスコンサルタント
MRG Associates, Inc. 代表取締役社長
森永 知美


◎ミシガンを皮切りに抗議活動広がる


未だCOVID-19感染による死者数が高い状態にあるなか、ミシガンでは4月15日、外出禁止令(Stay-at-home order)の延長と拡大を不服とする市民が車で隊列を成して州都に集結、抗議運動を起こした。3~4千人が集まったと推定される。大多数が車内に留まったままクラクションを鳴らしたり旗を振ったりしながら経済再開や人権侵害を叫んでいたが、一部は車を降り州議事堂前の広場で気勢をあげた。マスクを付けていない人もかなりおり、ホワイトハウスが要請するソーシャルディスタンスのガイドラインも気がつけばなし崩しとなっていた。

同州の外出禁止令の解除は当初4月中旬とされたが、新規の感染者数の増加と死亡者数が高いことから州議会は4月30日まで延長する決議を下した。それに伴い、営業する店舗の客足を更に減らしたり、州内の別荘への移動を制限したりと、ウイルス拡散の抑制を強化する措置が追加された。これに反発する2つの保守系団体が抗議運動の参加をフェイスブックで招集する。トランプ大統領の選挙キャンペーンの旗や「知事を隔離しろ」などと書いたプラカードを掲げる人々も多く見られ、民主党のWhitmer州知事に対する政治的な不満も帯びていた。

米国の失業保険申請件数は3月中旬から4週間で約2200万件に上っている。そのうちミシガン州は約100万件で、州労働人口の約4分の1に相当する。パンデミック収束への道筋が見えない状況では、今後も申請件数は増加し続けると見込まれ、仕事を失い将来に不安を抱く人々の鬱憤はますます大きくなっていくだろう。

◎過半数が州知事の新型コロナウイルス対策を支持

抗議活動はミシガンを皮切りにバージニア州やケンタッキー州、ミネソタ州でも発生したが、一刻も早い経済再開を目指すトランプ大統領はツイートで、「ミシガンを解放しろ」「バージニアを解放しろ」「ミネソタを解放しろ」と、あたかも抗議活動を扇動するかの発言をする。その後オハイオ州、メリーランド州、ワシントン州、コロラド州など10以上の州でも繰り広げられ、全米各地に拡大している。

4月20日の記者会見でWhitmer知事は抗議運動について、「根治的治療法もワクチンもない、感染力の非常に強いウイルスが世界的猛威を振い、医療システムが危機的な状況のなか、米疾病対策センター(CDC)が推奨するマスクもせず、人との距離を6フィート(約2m)保つというソーシャルディスタンスを無視して密集するということは、人々を感染リスクにさらすことであり、最もしてはいけないことである。問題も長期化させる。人々が意見を唱える抗議運動の権利は尊重するし、政府への批判も構わないが、人を危険にさらす無責任な方法で行うべきではない」とコメントした。

同日発表の州市民600人を対象にしたアンケート調査では、回答者の57%が知事のコロナウイルス対応策を支持していた。不支持は37%で、同州の厳しい措置に対して過半数が賛成していることを示す結果だった。一方、トランプ大統領の対応を支持する割合は44%で、50%が不支持であった。

◎新規感染者は横ばいの傾向

同州の感染者は3万2967人、死者は2700人(4月21日時点)。検査件数を増やす努力を続けており、試薬や綿棒などの不足により最大可能件数(1万1300件)に達することは出来ないものの、今のところ1日当たり最大約6千件の検査をしている。ミシガン州保健社会福祉局(MDHHS)Chief Medical ExecutiveのKhaldun氏は会見で、1日当たりの新規感染者数は横ばいの傾向を示し、入院患者数もピーク時から減少していると報告した。また17日の時点で3237例が回復しており、これらはソーシャルディスタンスの措置が機能していることを示す良い兆候だとコメントした。だが一方で、医療体制が十分ではない地域を含めて一部の地方で増加傾向が見られるため、注意深く動向を観察しながら感染者の急増に備えていくとしている。
死者数はニューヨーク州とニュージャージー州に次いで3番目に多く、州人口に対して不釣り合いな状況が続いている。その40%をアフリカ系アメリカ人が占めており、同人種の州人口全体に占める割合が14%であることを踏まえると、明らかに人種格差がある。そこで知事は特別委員会を結成し、原因究明と対応策の提言を進めていくと発表した。

◎高齢者介護施設での感染拡大に大きな懸念

州内では少なくとも243カ所の介護施設で感染が確認されており、緊急の対応策を必要としている。例えばデトロイト市では、ポイントオブケアで感染の検査結果が即座に判明する検査機器を活用し、市内にある高齢者介護施設(Nursing home)26カ所全ての入居者と介護スタッフを調べている。今のところ約1300人の検査が終了し、感染率が約26%で死者は124例に上ることが分かっている。数日以内に全施設の検査が完了する予定で、来週には各施設の感染データの詳細を報告できるだろうとDuggan市長は述べている。
州政府は、各高齢者介護施設にCOVID-19の感染状況報告を義務付けるとともに、PPEを始め感染防止策が自力では確保出来ない施設に対して支援を行っていくとしている。

◎経済再開には検査件数の拡大が必須

全米の専門家チームがまとめた「Roadmap to pandemic resilience(パンデミックから立ち直るロードマップ」と題する米ハーバード大学の報告書では、安全に社会を再開させるには、1日当たりの全米の検査体制を6月上旬までに500万件、理想的には7月下旬までに2000万件にまで拡大する必要があると述べている。ミシガン州政府も経済再開には検査件数の拡大が必要不可欠であるとし、ドライブスルー検査の拡大を急いできた。ドラッグストアチェーンと協働で、店舗の敷地にドライブスルー検査場を8カ所追加し、1日1000人検査していくと発表している。また検査対象の基準も緩めることにした。これまでは症状を呈する人が対象であったが、ファーストレスポンダーや医療従事者、また交通機関やスーパー、食品産業など、生活に必要不可欠な産業で働く人たちは、症状がなくても検査を受けられるようになった。

トランプ政権は3段階の経済活動再開案を発表し、早くも今週末から部分的な再開を表明する州もあるが、Whitmer知事は再開による第二波の発生を絶対避けなければならないとし、州民に一層の順守を求めるとともに、データに基づいた柔軟で慎重な対策を取っていくとしている。外出禁止令の延長期限である4月30日から先の対応については、残りの10日間の状況をみながら協議していくとし、感染予防措置の緩和や仕事の復帰を望むのであれば、この10日間は家にいることだと訴えた。


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