厚生労働省は11月22日、中医協薬価専門部会に2020年度薬価制度抜本改革の論点案を提示した。新薬創出等加算の企業要件では、企業指標に「革新的新薬の収載実績(過去5年)」の有無を加えた。業界の要望してきた企業規模によらない革新的新薬創出を後押しする姿勢を示した。一方で、一部の長期収載品については、さらに薬価引下げのスピードが速まることが想定される。このほか、この日は後発品の価格帯をめぐっては、厚労省は3価格帯のうち最も価格の低い価格帯は加重平均とすることを提案したが、診療・支払各側から異論が出た。20年度薬価制度抜本改革は、2016年に4大臣合意した「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」から一貫して進められる革新的新薬創出モデルへの転換を製薬業界に改めて迫っていると言えそうだ。
◎新薬創出等加算 企業要件で企業規模に配慮も 緩和は限定的
新薬創出等加算の企業要件では、①革新的新薬創出の実績・取組、②ドラッグ・ラグ解消の実績・取組、③世界に先駆けた新薬の開発―の3項目を企業指標としてスコア化し、3段階に区分する企業指標を用いている。実績として国内試験の実施数や、新薬収載実績数など“数”が評価されてきた。製薬企業はそのため、企業規模が大きく影響し公平性に欠けると主張し、企業要件の見直しを強く求めてきた。しかし、中医協の議論では診療・支払各側から、「原則維持」を求める声があがっていた。相対評価による予見可能性の低さを訴えた製薬業界に対しては、「(実績数に基づいた)絶対評価にすべきだ」など、さらなる厳格化を求める声が支払側からあがるなど、診療・支払各側から理解は得られず、厳しい議論をたどってきた。
現行制度でも、中小企業の企業要件は「区分2」(加算係数:0.9)。ただ、薬価が維持されるのは、区分1(上位25%)のみで、残りの企業は新薬創出等加算品目であっても薬価が引き下がることになる。こうしたなかで、同省は、「革新的新薬の収載実績(過去5年)」実績の有無、「薬剤耐性菌(AMR)の治療薬の収載実績」の有無を追加することを提案した。AMRをめぐっては世界的に新薬が少ない実状がある。企業指標に追加することで、開発インセンティブを高める狙いがある。
品目要件については、“3年、3番手以内”のルールを堅持したうえで、「先駆け審査指定制度対象品目」、「薬剤耐性菌の治療薬」を追加する方針。また、効能追加のうち新規作用機序で高い革新性・有用性が示された品目については、新薬創出等加算の品目要件を満たすこととすることも提案された。
◎効能効果再算定で特例も
新薬創出等加算の対象範囲については若干緩和される見通しだが、ブロックバスターなどの薬価を引き下げる「再算定」の範囲拡大や、一部の長期収載品の薬価引下げ期間を前倒しすることも提案。高齢化に伴う薬剤費抑制が命題となるなかで、改革が進められることになる。
再算定については、主たる効能効果が変更された際の「効能効果再算定」については、薬理作用類似薬がない場合であっても同様に再算定を行う「特例」を設けることを提案した。具体的には、▽1日薬価が参照薬の1日薬価と比べて著しく高い(例:10倍以上)、▽参照薬の市場規模が一定以上(例:150億円以上)、▽主たる効能効果の変更に伴い、対象患者数が源に使用されている患者数から著しく拡大(10倍以上)し、一定数を上回る患者(5万人以上)に使用される―の要件を満たす品目で、対象は極めて限定的とみられる。また、複数回の再算定を受ける品目については、市場規模などで設定される下止めを、計算上下回る品目について下止めを行わなかったと仮定して年間販売額を算定することを提案。対象となる年間販売額が引き下がることで、対象が拡大されることになる。
◎長期収載品 後発品置き換え率80%以上で引下げ前倒しへ
長期収載品については、後発品上市後10年を経過する前であっても、後発品への置換え率が80%以上となった場合は、その2年後の薬価改定時に再度置換え率が80%以上となっていることを確認した上で、G1ルールを適用する。G1品目は市場撤退が可能であることから、当該メーカーへの影響や後発品の増産体制確保などのため、時間的猶予を持たす形で導入する考え。さらに、「Z2]と「C」(置換え率が低く、G1、G2による引下げを受けない品目等の補完的引下げ)については、置き換え比率を引き上げることを提案した。このほか、再生医療等製品については、流通経費を精査し、計数よりも低い場合はその額を用いて算定することなどが提案された。
◎後発品 低価格帯の集約で応酬 診療・支払各側「薬価引きあがり」を問題視
後発品については、初収載は現行制度の0.5掛けを維持する方針が示された。一方で、この日議論になったのが、価格帯だ。中医協の議論でも、価格帯の集約により薬価が大幅に引き上がる品目が存在することが問題視されてきた。厚労省は、このため過渡期の措置として、複数の価格帯を容認する姿勢を示した。ただ、すべてを加重平均するのではなく、「改定前薬価が加重平均値より低い品目のみで加重平均」すると提案したのは、「最高価格の30~50%」に該当する中間の価格帯のみ。「最高価格の30%を下回る算定額となる後発品(統一名収載)」については、すべてを加重平均することを提案した。厚労省側は、この価格帯では薬価の上昇が“大幅”となる品目がないことや、統一名収載となっていると説明して理解を求めた。
これに対し、診療・支払各側が反発。診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「加重平均をやめ、それぞれの価格帯の最低薬価に合わせるべき」と主張。支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は薬価制度本来の趣旨から、加重平均の原則を支持した。支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「過渡期に置いて薬価が引きあがることは避けるべき。財政中立だからいいというわけではなく、安売りしている薬価が引きあがるのは良くない。価格帯が増えてもやむを得ない」として、最も低い価格帯についても、同様の措置を求めた。
後発品のビジネスでは、薬価差益を武器にシェア拡大を図る企業や、採算割れで市場撤退する企業などがある。現行制度ではこうした企業の薬価が結果として引きあがることが問題視されてきた。今回の制度改革ではこうした薬価差ビジネスの根を断つことも視野に入る。
◎バイオAG収載で先発品はG1・G2品目に 初収載は0.7掛けを提案
このほか、腎性貧血治療薬・ネスプのバイオセイムが登場したことも話題となったが、バイオAGの収載時の薬価は従来通り0.7掛けとする方針を示した。一方、先発品はバイオAGが収載となったタイミングで“G1・G2”品目の対象とすることを提案した。
同省は、12月上旬に予定される製薬業界のヒアリングを踏まえて、薬価制度抜本改革の内容を固める方針。