中医協薬価専門部会が９月11日開かれ、再生医療等製品の価格算定についての議論がスタートした。3000万円超の薬価となったキムリア点滴静注を皮切りに、高額な再生医療等製品の相次ぐ上市が今後想定される。現状で４製品が上市された実績しかないものの、製薬業界側は独自の算定ルールの策定を求めている。この日の議論で診療側の松本吉郎委員（日本医師会常任理事）は、「まだ知見の集積が足りない」と指摘した。一方、支払側の吉森俊和委員（全国健康保険協会理事）は、独自の算定ルール策定の意義を認めた。そのうえで、費用対効果評価の議論を引き合いに、「製薬業界団体のヒアリングも含めて、貯蔵・流通方法を含めて現場実態を含めて議論を進める必要がある」との見解を示した。

現在、上市されている再生医療等製品は、①キムリア点滴静注（3349万3407円）、②ステミラック注（1495万7755円）、③テムセルHS注（86万8680円）、④コラテジェン筋注用（60万360円）―の４製品。いずれも原価計算方式で算出されている。上積みされるコストの一つである「流通経費」は、税抜き価格に一律に医薬品卸の平均的な流通経費（2019年度は7.5％）を乗じて算出される。再生医療等製品では、低温での輸送など、特殊な搬送容器や専用の管理が必要となり、流通経費が他の医薬品に比べて高まることが想定される。ただ、自家細胞由来のキムリア点滴静注では、米国まで輸送するなど本来コストがかかるものの、ノバルティスファーマの自己申告により2.4％に抑えられているなど、開きがある。

◎診療側・松本委員「流通コストを精査」　今村委員「正当性、妥当性を詰めるべき」

診療側の松本委員は、「個々の製品の特性を踏まえた上で、製品あたりに実際にかかった流通コストを精査する」必要性を指摘。実際に、平均的な流通経費の計数を下回った場合には、「その額を用いるべき」とした。診療側の今村聡委員（日本医師会副会長）は、特定の患者に使用される自家細胞由来の製品では、製薬企業側が事前に流通コストを見通せる可能性について指摘し、「正確性、妥当性をもう少し詰めていただきたい」と述べた。支払側の吉森委員も、「流通コスト、構造分析を進めないといけない」と同調した。

◎補正加算も議論の俎上に

さらに、補正加算も議論の俎上にのぼった。有用性加算などの補正加算は、加算前の価格に比例するため、キムリアなどでは補正加算額も高額となっている。過去には、有用性加算の補正加算率に傾斜配分があったが、2008年度改定で廃止された経緯がある。この日の中医協薬価専門部会では、開示度に意見が集まった。

診療側の松本委員は、「通常の医薬品と異なり、一回の投与で済むものもある。補正加算前の価格の多寡については慎重な検討が必要だ」としたうえで、「原価計算で開示度が50％未満のものなど品目を限定したうえで、補正加算前の価格が著しく高い品目については、加算額について何らかの対応を検討してもよいと考える」と述べた。

支払側の幸野庄司委員（健康保険組合連合会理事）は、「高額なものについては、開示度のインセンティブという観点からも検討すべき。市場規模や開示度に関係なく一定以上に単価の高い製品については傾斜配分を行うべきと強く思う」と述べた。

◎「条件・期限付き承認時価格」という呼称を提案－平野専門委員

このほか、再生医療をめぐっては、医薬品医療機器等法（薬機法）で定められた条件・期限付き承認を受けて早期に承認を受けているケースもある。実際、４製品のうち２製品が条件付き・早期承認の対象となっており、有用性系加算の対象となっていない。承認後に医療上の有用性が客観的に示された場合の評価については肯定的な意見が出た。一方で、条件・期限付き承認で暫定的な承認を受けた場合の薬価については明確に保険薬価と切り分ける必要性も指摘された。

専門委員の平野秀之委員（第一三共執行役員渉外部長）は、改めて独自ルール策定の必要性に言及し、「今後事例の集積をしつつ、検討を進めていただきたい」と要望した。また、条件・期限付き承認を受けた再生医療等製品の暫定的な薬価について、「条件・期限付き承認時価格」という呼称を提案した。