【FOCUS 過去5年間の平均成長率は1% ビジネス転換必須 国際競争力に懸念も】
公開日時 2019/07/24 03:53
国内医療用医薬品マーケットは大型製品の特許切れや政府主導による薬価制度抜本改革などにより大きな転換期を迎えている。IQVIAのデータによると、薬価改定のあった2016年度の成長率は前年度比-3.8%、18年度は-1.8%と、伸びが鈍化しており、製薬各社の業績に大きな影響を及ぼしている。こうしたマーケットトレンドの変化は従業員数の減少や事業効率化を目的とした再編や分社化、工場の譲渡・閉鎖、さらにはMRを含む営業リソースの見直しやコスト削減などに跳ね返っている。業績を海外市場に求める国内製薬企業も増えてはいるものの、一歩先ゆくグローバルファーマとの競争に晒されるなど、連結売上高を確保することも容易ではない。(望月英梨)
◎製薬業界から多少悲鳴も聞こえてくる
「正直申し上げて、製薬業界から多少悲鳴も聞こえてきている。イノベーションがきっちりできるような仕組みにしていくべきとの強い要求もある。その辺はもう一歩進んだ議論が必要だ」-。4月10日の経済財政諮問会議で民間議員の中西宏明氏(日立製作所取締役会長兼執行役)はこう発言した。18年度薬価制度抜本改革が実施された直後だけに、日頃は社会保障費の伸びの抑制で厳しい意見を発する立場にあるが、この時ばかりは、製薬業界の窮状に耳を傾け、その声を安倍首相や麻生財務相の出席する諮問会議の席上で訴えた。
日米欧の製薬団体はきょう7月24日に開催する中医協薬価専門部会の業界ヒアリングで、薬価制度抜本改革が及ぼす国内マーケットの激変と、製薬産業の構造改革への取り組みについて訴える方針だ。
◎日本の開発優先順位の低下を危惧する声も 外資は投資先見直しも
日本における医療用医薬品市場の過去5年間の年平均成長率は1%に止まった。海外に目を向けると、中国(7.6%成長)や米国(7.2%成長)だけでなく、欧州主要5か国の4.7%をも下回る。製薬大手8社(アステラス、エーザイ、小野、塩野義、第一三共、大日本住友、武田、田辺三菱)の2018年度業績を見ても、海外市場で日本市場の落ち込みをカバーしている状況にある。こうしたマーケットの変化を踏まえて、国内の従業員数も大きな減少を続けている。
日本製薬団体連合会(日薬連)によると、国内の医療用医薬品市場の伸びは15年度の8.8%を境に16年度は-3.8%、17年度に0.8%、18年度に-1.8%となっている。薬価改定のある偶数年は、市場も大きな影響を受ける。“-1.8%”という数字そのものはむしろ想定より小さかったように見えるが、注目したいのは改定のないいわゆる中間年の伸びが小さいなかで、市場そのものが横ばいから縮小傾向に確実に向かっているという点だ。
◎コスト削減にも限界が 産業構造転換は「待ったなし」
ミクス本誌が製薬各社83社(回答:54社)を対象に行った調査結果からも、2013年をピークにトップラインの売上はマイナス成長に転じ、18年度は3兆6000万円まで落ち込んでいることがわかる。特に、影響を受けるのが、固定費でもある従業員数だ。日薬連は、製薬会社単体(8社)の従業員総数が15年度の3万6444人から16年度には3万5164人、17年度には3万3613人、18年度には3万3038人に減少している。本誌調査でも、2500人超のMRが1年間で製薬業界を去ったことがわかっている。
これまで製薬企業にとってドル箱だった生活習慣病などの大型製品の特許切れなどに伴うポートフォリオの変化が最も大きいことが想定されるが、新薬創出等加算など薬価制度抜本改革の影響も色濃い。日薬連は、新薬創出等加算の対象品目が16年度の823品目から18年度に560品目まで約3割減少。企業数も90社から83社に、加算額も1060億円から810億円と約2割減少している。
「我が国の製薬産業について、長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造に転換する」-。政府は2016年末に4大臣合意した薬価制度抜本改革に向けた基本方針で盛り込んだ方針がまさに製薬産業にとって現実のものになりつつある。20年度改定に向けた議論で、製薬団体が新薬創出等加算に反発。特に、米国研究製薬工業協会(PhRMA)と欧州製薬団体連合会(EFPIA)が日本市場に投資する意義に疑問を投げかけたことは記憶に新しい。国内の従業員の雇用にも言及したが、まさに身に迫る事態となっている。20年度薬価制度抜本改革に向けた議論の火ぶたが切られる。