武田薬品・長谷川相談役 AIやビッグデータ時代「いまがグローバルトップに躍り出るタイミング」
公開日時 2019/05/16 03:52
武田薬品の長谷川閑史相談役は5月15日に開かれた湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク、神奈川県藤沢市)1周年記念フォーラムで講演し、第4次産業革命が引き起こす人工知能(AI)やビッグデータを利活用する今後の製薬ビジネスについて、「未病を含めたすべてのヘルスケア産業が相互に連携する時代になった」と強調した。また、最新テクノロジーが様々な産業に破壊的イノベーションを引き起こす中で、「こういう変革は脅威だが、チャンスでもある」と指摘。「いまこそ日本の製薬企業がグローバルのトップに躍り出る気概を持つタイミングになった」と熱く語った。
湘南アイパークは武田薬品湘南研究所を開放して創設した。設立は、長谷川相談役が社長就任時に構想したもの。低分子全盛時代の1990年代には世界TOP20の製薬企業だった武田薬品も、バイオ医薬品が開花する2010年代には20位圏内から落ちた。創薬のシーズもこれまで製薬企業内部にあるアセットを活用していたが、バイオテック企業由来のシーズが増加した。
◎長谷川相談役 2003年の社長就任前に「グローバルに競争力ある会社に変革」を構想
製薬産業を取り巻く環境変化に危機感を感じた長谷川相談役が目指したのが、“グローバル経営”だ。2003年の社長就任前に、10年に起きる主力製品の特許切れを克服し、成長を維持するためには、「事業のあらゆる面でグローバルに競争力のある会社に変革することが課せられた使命と考えた」と語った。
長谷川相談役は講演で、社長就任以降は人種や性差、国籍を問わず多様性のあふれる武田社内の組織構築に着手したことを明かした。加えて、クリストフ・ウェバーCEOを任命するなど、人財改革にも切り込んだことを振り返った。長谷川相談役は、「そういうことを続けていって会社のトランスフォーメーションを短期間で実現する」と決意に至った経緯を説明。「会社を去った人もいる。痛みは決してイージーではなかったが今のようなグローバルにコンペティティブな状況に近づいた」と、武田薬品のグローバル展開を戦略目標に掲げ、大きく舵を大きく切った当時の想いを振り返った。
◎長谷川相談役「世界のイノベーション取り込むためには再編も」
グローバル市場で打ち勝つR&D戦略に触れ、「世界のイノベーションを取り込むためには再編しないといけない」と決断。湘南アイパークを設立した神奈川県はヘルスケア産業を旗印に改革を進めてきたことなどをあげた。
湘南アイパークは現在42社が入居(2019年5月15日時点)している。さらに、保険会社やスポーツジムなどと協働してイノベーションを創出する「湘南会議」を立ち上げるなど、多彩なプレイヤーとエコシステムを構築する場になりつつある。国際競争力を得るためにも、アジアを皮切りに世界中から有能な人財が集まる、米・ボストンなどのエコシステムを創出する場となることに期待を寄せた。
◎ヘルスイノベーション最先端拠点について湘南鎌倉総合病院など5社で覚書締結
この日の講演前には、湘南アイパークのある神奈川県の村岡・深沢地区(藤沢市と鎌倉市が接する地域)におけるヘルスイノベーション最先端拠点の形成について神奈川県、藤沢市、鎌倉市、湘南鎌倉総合病院と武田薬品の5者で覚書を締結した。長谷川相談役は、「どう考えても民間企業だけで、イノベーションを創り出せないが、自治体や国に頼んですがっただけでもできない。協力体制を作り、果たすべき」との考えを表明。「国や県には大いにサポートしていただきたい。武田は黒子としてサポートするが、それプラス切磋琢磨して協力して世界に例の見ない形でのエコシステムを創っていただきたい」と語った。
湘南アイパークの目指すホットスポットは国内には存在しないものの、欧米を中心としたホットスポットを通じて革新的新薬が生み出されているのが現状。時には“周回遅れ”と揶揄されることもある。同日講演した黒岩祐治神奈川県知事は、「周回遅れであることはネガティブではなくチャンス。あっという間にトップになるのがイノベーションだ」との考えを表明。県として疾患と健康の間にある“未病”の改善に取り組む姿勢を示したうえで、日本は従来から食事や運動、生活習慣など“トータル”で健康に取り組む文化があると指摘。「ビッグデータ、AIといった科学的アプローチは世界でどこもやっていない。周回遅れがいきなりトップになるチャンスだ」と述べた。
◎注目は湘南鎌倉総合病院のビッグデータ 全国72病院共有のプラットフォームを活用
破壊的イノベーション創出に向けた起爆剤と期待されるのが、地域に眠る実診療データだ。この日5者連携・協定に向けた覚書を結んだ湘南鎌倉総合病院の属す徳洲会グループは、全国72病院共通のプラットフォームの電子カルテを活用しており、大規模ビッグデータを有する。
沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院の小林修三院長代行は、「臨床の一人の命を救うことを考えながらそれを基礎に戻して施設の基盤整備を長い期間やってきた」と説明。一般急性期病院でありながら、先進医療に取り組んでいる実績も紹介した。小林院長代行は、病院を核として教育を含めたメディカルタウン構想を披露。「世界に類を見ない大きな街づくりができれば」と意気込んだ。