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【REPORT】IBDの日常生活での困難や悩みを体感してみた 武田薬品のアプリ通じて患者疑似体験

公開日時 2025/03/19 04:52
炎症性腸疾患(IBD)と向き合いながら送る日常生活を疑似体験して理解を深めようと、武田薬品はアプリを使ったシミュレーションプログラムを行っている。何度もトイレに行かなければならなくて焦ったり、食べたいものが食べられずに困ったり―。プログラムでは日々の生活でIBD患者が直面する様々な困難や悩みの一端に触れることができる。2月に東洋大学の学生向けに開催されたプログラムに参加して、1日だけのIBD患者体験をしてみた。(梅澤 平)

患者さんをすべての活動の中心に―。こうしたコンセプトの下、24時間の体験シミュレーションプログラム「In Their Shoes」は疾患や症状への理解を深め、共感し、実際に患者中心の行動を広げていくために作られた。事前に登録された参加者それぞれがスマートフォンアプリを通じてIBD患者の日常生活の24時間を追体験。アプリ上の様々な指示に従いながら、生活する上での苦労や社会的な制約に直面してく。患者や医療の専門家の意見も反映され、出される指示の中には、身体に現れる症状を再現するアイテムを使ったものや、通話によるロールプレイなど事前に配られる体験キットを使ったものもある。もともと武田薬品が社員向けに英国企業のA Life In A Dayと共同開発し、2020年からは患者の家族や学生、メディアに向けた疾患啓発イベントにも活用されている。

IBDは腸を中心とする消化管粘膜に炎症が生じる自己免疫疾患で、主に指定難病の潰瘍性大腸炎やクローン病がある。共通する主な症状として、腸の炎症に伴う慢性的な下痢や腹痛、血便などがある。完全な治癒は難しく、多くは症状が落ち着く「寛解」と再び悪化する「再燃」を繰り返すとされる。

◎患者体験当日 ミーティング中に「すぐにトイレへ」 仕事に集中できない!

疾患に関する基礎知識を学ぶ事前講座を経て、「世界希少・難治性疾患の日」にあたる2月28日、いよいよ体験当日を迎えた。この日は午前中から社内のオンラインミーティング。始まって30分、だいぶ場が温まってきたところでスマホが震えた。「すぐにトイレに行く必要があります。タイマーが切れる前に最寄りのトイレに行き、トイレットペーパーホルダーの写真を送ってください」。アプリからの指示だが今は打ち合わせ中。ちょっとお腹の調子が、とも言いづらいし、黙って席を立つのも難しい。そうこうするうちにもアプリで表示されるタイマーは減り、気になって同僚の話す内容にも集中できない。本当のIBD患者であれば腹痛もあり、切迫感は比べものにならないだろう。結局、同僚にIBD体験のことを打ち明け、トイレへ駆け込んだ。

◎昼食やカフェでも困った 食事制限に急なトイレの指令 押し寄せる惨めな気持ち

出先での昼食にも困った。パンやファストフード、脂肪分の多い食べ物、ブラックコーヒーはIBD患者であれば体調に悪影響を及ぼしかねないため、体験中は食べられない。普段なら気の向くままラーメンやカレーを選びがちだが仕方がない。店選びにさんざん悩んで歩き回った挙句、シンプルなかけうどんに落ち着いた。

取材の合間に入ったカフェチェーン店でもまた困った。混雑した店内で仕事をしていたところで、アプリが鳴った。「前触れもなく、おならが出てしまいました」。両隣にも別の客がいただけに、周りの目が気になる。指示の通り、体験キットにある消臭スプレーを体に吹きかけた。もし本当に漏らしていたらどうなっていただろう。

午後は製薬企業のメディアセミナーに参加した。とはいえ、プログラムは継続中で不安は的中。「すぐに最寄りのトイレに行ってください」。さすがに取材の真っ最中に指示をこなすことはできなかった。「時間通りにトイレに行けませんでした。患者さんにとって、これはひどい経験かもしれません。ウェットティッシュで体をきれいにできるようにしてください」。取材終了後、トイレに駆け込みながら惨めな気持ちが押し寄せた。

◎電話でロールプレイ 「みんなにもIBD患者って伝えようか?」 心遣いも残るモヤモヤ感


プログラムには電話でIBD患者を演じるロールプレイングもある。移動中にかかってきた電話に出ると「今度あるパーティー、インド料理店でやろうと思うんだけど、食べられないものはある?」。電話の主は「友人と開くパーティーの主催者」という設定だ。IBD患者としては、辛い物やアルコールは避けなければならない。そう伝えると、「トイレに近い席がいい?」「周りのみんなにもIBD患者だって伝えておこうか?」と矢継ぎ早に質問される。電話の相手は設定上、そこまで親しい間柄でもない。好意としてありがたく受け取りつつも、プライベートな話題だけに、そこまでグイグイ突っ込まれるのも…となんだかモヤモヤ感が残った。

帰りの電車も試練は続く。トイレの指示が多く、ここまですでに3回間に合わなかった。いつもなら自宅最寄り駅まで30分程度の特急に乗るが、もしまたトイレの指示が来たら―。不安が勝って1時間かかるが、各駅停車に乗ることにした。すると程なくして「緊急でトイレに行く必要があります」との指示。タイマーをにらみながら、次の駅が遠く感じる。途中下車するも、普段下りない駅だけに右往左往してトイレを探し回る羽目になった。「外出や旅行の道のりを考えてみてください。予定しているルートでトイレはどこにありますか? 最悪の事態が発生した場合、どう対処しますか?」とアプリから呼びかけ。当たり前の日常も気が抜けない。

◎すぐ隣にIBD患者がいるかも 体験振り返り「In Their Shoes」の実践を

プログラムで体験したのはたったの24時間。それでもトイレ探しに焦る切迫感や周りの目が気になる恥ずかしさを感じ、IBD患者の日常を垣間見た気がした。もしかすると、電車の中で、カフェで、友達の中に…気が付いていないだけで、すぐ隣にIBD患者さんはいるのかもしれない。また、IBD以外の疾患でも、同じような症状に悩まされている人たちはいるだろう。この1日で体感した“ピンチ”にもし誰かが出くわしていたら、ちょっとした気遣いや心配りができるようになりたい。プログラムの名前にもある通り、「In Their Shoes」(あなたの立場になって)を実践していきたい。
 
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