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社内政治こそが、課長の最重要な仕事

公開日時 2015/02/19 05:00

情熱的読書人間
榎戸 誠

 

【課長の教科書】

組織に属していると、綺麗事では済まないケースに遭遇することが多い。特に、課長ともなると、その頻度が急増する。この意味で、『社内政治の教科書――「課長」から始める』(高城幸司著、ダイヤモンド社)は、大変勉強になる。リクルート時代の著者自身の経験を踏まえて書かれているので、強い説得力がある。課長だけでなく、課長予備軍、課長を目指している人たちにとっても参考になるだろう。

 

 

【最重要な仕事】

部下を動かし、上司を動かし、組織を動かすためには、「社内政治」という非合理なゲームに勝たなければならないと、覚悟する必要がある。長年、組織で働いてきた私の経験に照らしても、全く同感である。営業担当者として、6年連続でトップ・セールスを記録した著者だが、「間もなくカベにぶつかりました。マネジャー(課長職)に昇進してからのことです。それまでは、スキルを磨きながら、がむしゃらに仕事をすれば結果はついてきました。ところが、マネジャーになったとたんに、それだけでは仕事がうまく回らなくなったのです」。

 

「周囲を見回すと、できるマネジャーは、部下を掌握し、上司や上層部の信頼を獲得し、社内横断的なキーパーソンのネットワークをつくっている。そして、社内の利害関係を巧みに調整しながら、『自分が正しいと思うこと』を実現しているのです。社内には常に対立する利害があります。経営陣は利益最大化をめざしますが、一般社員は働き甲斐を求めます。開発部門は潤沢な予算を使ってクオリティを追求しますが、経理部門は経費削減を求めます。限られた予算・人員などのリソースや有力なプロジェクトを、自分の部門に引っ張ろうと競い合います。そのような、複雑な利害関係を巧みに調整しながら、自分の部署の実績を上げ、プレゼンスを獲得していく。この『政治力』こそが、マネジャーにとって最も重要な能力だと気づいたのです」。

 

著者は、組織の現実を受け容れ、準備を怠らず、対策を練り、実行することを勧めている。課長にとっては、社内政治こそが最重要な仕事と思い定めることが出発点になる。

 

 

【影響力のゲーム】

「政治力というと、権謀術数や裏取引などのネガティブ・イメージをもつ人も多いと思いますが、そうではありません。注力すべきなのは、あらゆる機会をとらえてあなたの影響力を生み出し、それを増幅していく好循環をつくり上げることです」。社内政治とは、「影響力のゲーム」なのだ。

 

 

【社内で味方を増やす】

「私は、あらゆる人に『あなたは、私にとって重要な存在です』というメッセージを伝えることを意識しています。それが、『味方』を増やす最良の方法であり、政治力の根源になると考えるからです」。具体的には、きちんと挨拶する、名前で呼びかける、個別の具体的な話題を投げかける、相手の話を真剣に聴く、相談したり意見を求める、上司に頼み事をする、部下を褒めるときは具体的に褒める――などが挙げられているが、日頃から、周囲の一人ひとりに関心を持ち、本気で観察することが最も大切だというのである。この方法は、社内だけでなく、得意先を初めとする社外でも、そして家庭でも実に有効であることを、私も体験済みだ。

 

「あなたができるだけ多くの人に『何らかの価値あるもの』を提供する必要があります」。これも、社内にとどまらず、社外でも家庭でも通用する要点である。

 

しかし、政治力に期待し過ぎることを、著者は戒める。「長野県上田市の前山寺に、石に刻まれた有名な言葉があります。――かけた情けは水に流せ。受けた恩は石に刻め」。

 

 

【嫌いな上司を味方に変える】

「直属の上司を味方につける――。これは、社内政治においてきわめて重要なポイントです」。嫌いな上司を味方に変えるには、どうしたらいいのか。「仕事をするうえでは『好き嫌い』という感情を捨てることです。決して難しいことではありません。上司をクライアントだと捉えればいいのです。誰でも、顧客に対しては『好き嫌い』を超えて、きちんと対応しているはずです。それが、プロフェショナルというもの。上司に対しても、同じマインドで接すればいいのです」。これが効果的な方法であることは、私の長い企業人生活からも断言できる。

 

 

【私心を大義に磨き上げる】

「生半可に(私心を)捨てたふりをしたところで、それは周りの人にもわかります。むしろ、『私心』は生きる原動力ですから、強くもっていたほうがいい。社内政治は闘争でもあります。強い『私心』なくして、土壇場を生き抜くことなどできないでしょう。ただし、常に『大義』を掲げなければなりません。『会社全体のために』『部門全体のために』という『大義』を考え尽くす。そして、その『大義』に本気で思いを込める。そして、『私心』を『大義』に昇華できたとき、強い影響力が手に入るのです」。これは、組織の修羅場を生き抜いてきた者だからこそ言えることで、机上で理屈をこね回すだけの評論家なら綺麗事に終始するだろう。数ある類書の中で本書を際立たせているのは、まさに、この現実を直視し、実態を飾らず率直に語る姿勢である。

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