英紙報道 米ファイザーがアストラゼネカに600億ポンドで買収を打診
公開日時 2014/04/22 03:52
英紙サンデータイムズは4月20日、米ファイザーがアストラゼネカに対し600億ポンド(約1010億ドル、約10兆3586億円)での買収を打診していると報じた。同紙では関係者談として、ファイザーからのアストラゼネカに対する打診は過去数週間以内に行われ、アストラゼネカ側は打診を拒否し、現在水面下での交渉は行われていないとしている。ただ、同紙ではファイザーのキャッシュフローからは新たな好条件での打診も可能だろうと指摘している。両社ともこの件に関する同紙の問い合わせに対してはコメントをしていない。
両社とも現在のメガファーマの中では厳しい状況下におかれている。度重なる買収を繰り返し、世界最大の製薬会社にまで上り詰めたファイザーだが、最盛期売上高100億ドル超を誇った脂質異常症治療薬・リピトールの特許切れを境に業績は下降を続けている。既に2012年段階でグループ全体の売上高ではジョンソン&ジョンソンに追い抜かれ、2013年通期にはさらにグループ全体でノバルティスの後塵も拝する結果になり、医療用医薬品のみの売上高だけでみてもノバルティスに肉薄されている。
当初から予想されていたリピトール・ショックによる業績不安への最大の回答だった09年の680億ドルでのワイス買収も、短期的業績だけ見れば、成長路線への軌道を描くのに成功したとは言い難い状況にある。
一方のアストラゼネカの状況はより深刻だ。抗精神病薬・セロクエル、高血圧症治療薬・アタカンド、抗がん剤・アリミデックスなどの特許失効により2012年通期業績ではメガファーマ最大ともいえる17%の減収を記録。2013年通期でも前年比8%減収となり、過去2年間で売上の4分の1近くを喪失している。今年中には同社2番手の売上高を誇るPPIのネキシウムのアメリカでの特許失効も控えており、反転攻勢のファクターはあまりないのが実状である。
同社では2012年に元ロシュの幹部でジェネンテックの最高経営責任者(CEO)を務めたこともあるパスカル・ソリオ(Pascal Soriot)氏を引き抜いてCEOに据え、大規模なリストラやがん領域を中心にバイオベンチャーの買収・提携を進めてきた。さらには研究開発の再編にも着手し、2016年までにイギリスのケンブリッジに5億ドルを投資して新たな低分子、バイオ医薬品の研究開発拠点を設置し、ロンドンから同社のグローバルヘッドクォーターも移転させて一大拠点にすることを決定。このケンブリッジと07年に同社が買収したバイオ医薬品企業・MedImmuneの拠点であるアメリカのメリーランド州ゲイザースバーグを低分子医薬品とバイオ医薬品、スウェーデンのモルンダルを低分子医薬品の拠点にすえ、三大研究開発拠点とする大胆な改革も打ち出した。こうした政策により2017年から成長軌道に乗せるとの方針だ。
しかし、こうした改革もここ2年の売り上げ減と今後の特許失効で予想される売上減をカバーしきれないとの見方がアナリストの中では主流となっている。
ただ、一連の改革に着手したばかりのアストラゼネカの経営陣がファイザーからの打診を受諾する可能性は低いと見られる。とはいえ、ファイザーの過去の買収では、買収先の経営陣の打診拒否後、株価に大幅なプレミアを上乗せする形で株主を揺さぶり、最終的に経営陣が株主を意識して屈服したケースも何度かある。今回の600億ポンドは、先週金曜日のアストラゼネカの株価から算定した同社の時価総額477億ポンドに25%強のプレミアを上乗せした形で、これを株主がどう評価するかも今後の買収が現実化した時の大きな焦点となる。