武田薬品 CASE-J用いた情報提供活動でプロモーションコード違反
公開日時 2014/03/04 03:52
武田薬品の長谷川閑史社長は3月3日に開いた記者会見で、ARBブロプレス(一般名:カンデサルタン)をめぐり実施された大規模臨床試験「CASE-J」のデータを用いた情報提供活動で、日本製薬工業協会が定める医療用医薬品プロモーションコード違反があったことを認めた。医療用医薬品のプロモーションに用いるデータは、論文に基づくことが求められているが、学会発表時のデータを転用し、現在までMRを通じたプロモーション活動に継続して使用されていた。会見で長谷川社長は、「CASE-Jは、弊社によるデータ改ざんといった弊社の関与はなく、公正に行われた臨床研究」とした上で、「その研究成果を使用するにあたり、プロモーション活動の一部に不適切な点があったことについて深く反省し、お詫びする」と謝罪した。今後は、外部委員を交えた第三者委員会を設置し、原因究明と再発防止に努める。
会見の冒頭で長谷川社長は、「臨床試験に対する一連の報道によって不安を抱いている患者、医薬関係者に早急に現時点で把握している情報を開示させていただくことが、何にもまして必要かつ誠実な対応だ」と記者会見を開催した理由について述べた。
同社は2013年11月と、現在も米国の社内専門家チームにより進行中の2回の社内調査を実施。その中で、不適切なプロモーションがあったことが判明したと説明した。
学会発表の内容は論文化されたものと内容が完全に一致しない可能性が残るため、学会情報の情報提供のみ用いることが可能だ。しかし、同社は、医学紙Medical Tribuneに掲載した国際高血圧学会速報の内容をプロモーション資材に転用。08年2月に医学誌Hypertensionに論文が掲載された以降も学会発表時のグラフを使用したプロモーションを継続実施していた。
試験のメイン図表である心血管イベント発生抑制効果を示したカプランマイヤー曲線は、追跡期間が学会発表時の48か月に対し、論文では42か月とされており、追跡期間の食い違いが指摘されている。ただ、学会発表と論文データでは、ハザード比や信頼区間が、一致している。そのため、「武田薬品は、データの収集、解析、統計学的なことについて一切関知していないので、その内容については論文から得られる以上のものは持ち合わせていない」(医薬開発本部日本開発センター中村浩己部長)としながらも、「同一の追跡期間のデータを用いて解析されたものと推察される」と説明。カプランマイヤー曲線だけみると異なる図に見えるが、同一のデータとの見方を示した。
また、資材の中で、追跡期間42か月以降、ブロプレスがCa拮抗薬・アムロジピンに比べ、良好な心血管イベント抑制効果を示しているように見えることを強調。“クロス”という言葉を用い、長期投与による同剤の有効性を訴求してきた。この点について同社の医薬営業本部長の岩崎真人氏は、「統計学的に有意差はないものを交差するという言葉を使ったが、これは誤解を与える可能性のあった内容であったと反省している」と謝罪した。
一方で、薬事法の誇大広告については、効能外の効果を訴求したのではなく、効能内の副次的効果であるとの理由から、「(誇大広告に)当たらないと考えているが、第三者委員会の評価を待ちたい」(岩崎部長)との見解も示した。
◎データ改ざんや利益相反は否定
データ改ざんについては、データベースへのアクセス権がないことから、データの統計解析等に関与していないと説明。社内調査でも、データベースへのアクセスは確認されなかったとした。その上で、「本研究のデータ改ざん、または、ねつ造を行ったという事実はない」(長谷川社長)と述べた。
一方、利益相反については、京都大学EBM共同研究センターに奨学寄付金を拠出したことは認めたものの、審査を経ているため、問題はないとの認識を示した。なお、奨学寄附金は京都大学EBM共同研究センターへのCASE-J研究助成金25億5000万円など合計37億5000万円。
労務提供についても、MRも含めて事実はないと説明。市販後調査部に所属していた社員については、「試験の進捗情報の入手やWeb登録システムへのアドバイスを行っていたが、臨床試験の内容やデータ解析には関与していない」としている。
CASE-Jは、ハイリスク高血圧患者4703例を対象に、複合心血管イベントについてARB・カンデサルタンとCa拮抗薬・アムロジピンの有効性・安全性を比較した医師主導の大規模臨床試験。主要評価項目の複合心血管イベント発生率は、両群間に有意差が認められていなかった。
なお、同社は同日、社内調査の調査結果を踏まえた事実関係を報告し、厚労省が進める調査についても全面的に協力する姿勢も示した。