「腎細胞がん治療では、ファーストラインにおけるサイトカイン（インターフェロン-αやインターロイキン-2）の使用割合が15％以下まで減少し、スーテント（ファイザー）が約半分の市場シェアを占める主要な薬剤となった」。日本のオンコロジー市場の治療動向に関する最新の調査・分析結果「Treatment Architecture Japan 2011」の編集責任者ニーシャ・スヴァルナ氏が本誌の取材に応じ、2011年の調査結果から注目すべきがん種とその治療動向について分析した結果を明らかにした。

◎腎細胞がんで　スーテントが半数のシェア　

同調査は2011年11～12月に医薬品マーケティング企業サイニクス社と米国のヘルスケアコンサルタント企業Kantar Healthが実施したもの。24のがん種に関して、最新の治療動向について市場調査を実施し、分析・レポートした。国内の各がん種の専門医60～70人を対象に調査を実施し、まとめている。

腎細胞がんの治療では、Stage IV期の患者に対するファーストライン薬物療法でのスーテント（ファイザー）やネクサバール（バイエル薬品）の浸透によって、後期ラインでも分子標的薬剤の使用が見られるようになっており、セカンドラインではスーテントの使用割合が安定している一方で、ネクサバールの使用割合がアフィニトール（ノバルティス）の使用割合の急上昇に伴い、減少している。

その理由についてスヴァルナ氏は、「効果の面でスーテントの切れ味が良いことが影響している可能性が高い」と分析。一方、ネクサバールの今後の使用割合について、「ネクサバールとの比較試験で、同剤に対し優位な有効性（PFSを有意に延長）を示したアキシチニブ（ファイザー＝日本は未承認、米国は今年１月に承認取得）が国内で今後承認されると、ネクサバールの使用低下にさらなる影響を与えることが考えられる」とした。
一方、サードラインでは、スーテント、ネクサバール、アフィニトール、トーリセル（ファイザー）の使用率はほぼ同等だった。

◎胃がん　ハーセプチンの使用割合は12％

11年度にHER2陽性胃がんを適応として、ハーセプチン（中外製薬）が承認されたが、StageIV期の患者に対するファーストライン治療での使用割合は治療形態割合に関わらず12％程度。国内ではファーストライン薬物療法で最も用いられている薬剤は、シスプラチンとTS-1の併用レジメンで６割強(63.3%)と圧倒的な使用率で、年々使用割合は増加している。それに続くのがTS-1（大鵬薬品）単剤だが、使用割合は年々減少しており２割前後(17.1%)だった。

◎大腸がん　ファーストラインでのEGFR抗体の使用率がアバスチンを上回る

ベクティビックスとアービタックスのEGFR抗体が使用可能になった大腸がん治療。KRAS遺伝子に変異のない（野生型）患者に効果が高いことが臨床試験で明らかになり、KRAS遺伝子変異検査が保険適用となったことで、EGFR抗体を投与する際に臨床現場で使われ始めている。

日本ではKRAS野生型の患者に対するファーストラインでの使用率がアバスチン（中外製薬）を上回った。アバスチンを用いたレジメンの使用割合は４割を下回る（35.9％）が、これに対し、アービタックス（メルクセローノ）が３割弱（28.7％）、ベクティビックス（武田薬品）が１割強（15.4％）で、EGFR抗体の使用率は全体で４割(44.1%)。
一方、KRAS変異型の大腸がん患者では、使用割合が圧倒的に多いのはアバスチンで半分近く（47.4％）を占め、それに化学療法のみの治療が続いた。

日本では米国に比べ、ベクティビックスの使用割合が高かったが、この理由について「米国ではベクティビックスの適応が後期ラインのみであるのに対し、日本では治療ラインにかかわらず、KRAS野生型の患者に対して使用可能なことが背景にある」と分析している。同剤は米国では主にサードラインでの選択薬として使用されているのに対し、日本では主にセカンドラインの治療薬として使用されているという。