欧州の医療費抑制策 製薬業界に変化もたらす
公開日時 2011/12/21 04:00
欧州各国の薬価引き下げやユーロの通貨危機による財政緊縮策は、2011年の欧州医薬品業界に暗い影を投げかけ、2012年にほとんど期待を持たせていない。医療費抑制策が一層厳しくなったとはいえ、それ自体目新しいことではないが、医薬品業界は、新興国市場への進出、ライセンシングによる製品ポートフォリオの強化あるいは製品の絞り込み、保険償還対応のための医療経済評価部門の強化などでこの危機を乗り切ろうとしている。各国の製薬企業の政府による医療費抑制策の現状を垣間見てみる。
グラクソスミスクライン(GSK)のAndrew Witty CEO(欧州製薬団体連合会会長)は、各国政府の薬価・保険償還政策は短期的に予算管理と現在および将来の患者アクセスの均衡を取ろうとして失敗していると批判している。
現段階では、欧州の政府で2012年にさらに抑制策を追加する動きはほとんどないが、多くの国々で政府債務の危機による政府指導者が突然の交代に懸念が示されている。突然の交代でさらに薬価引き下げが行われる恐れがある。
仏中堅医薬品企業イプセンのMarc de Garidel CEOは、「政府は間違いなく医療費削減を続ける」と断言している。同社は薬価引き下げにより、2011年上半期の売上で2-3%の影響を受けた。
スペインのAlmirallは、母国スペインを含めた欧州での売上が90%以上を占め、2011年は9億ユーロ(12億ドル)をマークしているが、2012年の売上は薬価引き下げの影響を受け、2011年並みを見込んでいる。Citi Investment ResearchのAndrew Baum氏は、欧州の業界は今後2年間は売上で5%の影響を受けると観測している。
ドイツでは、欧州で初めてとなる、AMNOGと呼ばれる新薬の便益が既存薬よりも優れていることを評価する新たな医療経済学的システムを導入する予定だが、その動向に注目が集まっている。AMNOGはドイツ以外にも影響を与えそうだ。
AMONGの償還に対する厳しさが示されるなか、すでにベネフィットのプロファイルに付加価値を十分に示すことが難しいと思われる、イーライリリー/ベーリンガーインゲルハイムのDPP-4阻害剤Trajenta(linagliptin)やノバルティスの高血圧症治療薬Rasilamio (aliskiren+amlodipine)の償還での撤退を促した。
一方、同システム最初の申請品目のなかには、アストラゼネカ(AZ)の抗血小板薬Brilliqueがある。AZは、すでに保険支払者との関係を見直し、その重要性を反映させて、社内に支払者へエビデンスを訴える医療経済学的機能を持つことを決めた。
欧州各国政府の経費削減策はその動きを直接的には促していないが、その妥当性を強調はしている。なお、AZは、2011年第3四半期売上(累計)は欧州では10%減となったが、新興国市場での売上は10%増だった。独メルクも欧州売上はフラットだったが、新興国市場の売上は第3四半期までで12%増となった。いずれも新興国での売上が欧州での不振をカバーした格好だ。
(The Pink Sheet 12月5日号より) FDAと米国製薬企業の情報満載 “The Pink Sheet”はこちらから