抗血小板療法の有用性 長期予後改善への寄与が大きい
公開日時 2011/09/09 04:00
帝京大学医学部内科学教室・内科(循環器)教授
一色 高明 氏に聞く
ステント留置後の患者に対する抗血小板療法の有用性は、今年改訂された米国心臓病学会財団(ACCF)/米国心臓協会(AHA)の「不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞の管理ガイドライン(GL)」でも、ClassⅠで推奨されており、すべての患者で投与がされなければならない基幹薬だと思います。一度冠動脈疾患、アテローム血栓症を発症した患者では継続しなければならないと思います。
XienceやNoboriなどの第二世代の薬剤溶出性ステント(DES)が登場し、さらには生体吸収型のDESの臨床試験もスタートするなど、DESが進歩をする中で、ステント血栓症の発生率は減少する傾向にあります。
その中にあって、抗血小板薬を投与する意義は“長期予後”がキーワードになってきています。ステント血栓症は、一度発生すると死に至るケースも少なくなく、臨床医としては“絶対に起こしたくない”と思ってしまうものです。
ただ、実際のデータをみると、ステント血栓症の発生率に比べ、虚血性イベントの再発や脳血管障害の発生率の方が高頻度です。長期的にみれば、ステント血栓症のインパクトは決して大きいとは言えないのではないでしょうか。
特に脳血管障害の発生率は高く、アテローム血栓症患者を対象とした国際登録研究「REACH registry」では、日本人の冠動脈疾患患者2252例を対象とした1年間のイベント発生率は、非致死性脳卒中の発生率(1.15%)が非致死性心筋梗塞の発生率(0.84%)を上回っています。これは、J-CYPHERでも同様の結果となっています。
虚血性イベントと出血の危険因子が重複
リスク・ベネフィット考慮は難しく
抗血小板療法の投与期間も議論となっていますが、GLに示された“1年間”という期間は妥当ではないかと考えています。
長期投与を行う上で重要になるのが、虚血性イベントとステント血栓法の発症抑制効果などの“ベネフィット”と出血の発生などの“リスク”とのバランスを勘案することです。
ただ、この線引きは非常に難しい。というのも、出血イベントの危険因子として知られる慢性腎臓病(CKD)や糖尿病、高血圧、高齢者は、いずれも虚血性イベントの危険因子でもあります。動脈硬化が進行すると、虚血性イベントも出血イベントも起こしやすいのです。これらの患者ではステント留置後の長期成績も不良であることも知られています。ある意味、老化との戦いとも言えるのではないかと思います。
今回報告されたデータは、非常に貴重な日本のデータです。冠動脈疾患患者の長期予後は不良で、欧米に比べ脳血管障害の発生率が高いという特徴があります。日本人を対象に、データをきちんと構築し、危険因子を検討することが今後必要なのではないでしょうか。そうすることで、ハイリスク患者を抽出し、抗血小板療法をいかに行うべきか判断する基準もできます。
その中で、アスピリンとクロピドグレルの2剤併用も長期的にどうするか検討することができると思います。現在、国内外で臨床試験が進行しており、近く結果が公表される予定ですので、その結果を待ちたいと思います。