脳卒中ケアユニット(Stroke Care Unit)による集学的な治療に加え、看護師や言語療法士など医療チームによる熱や、血糖値、嚥下障害への介入が、死亡や寝たきりの割合を減らすなど、機能障害改善に寄与する可能性が示された。QASCクラスターランダム化比較試験(CRCT)の結果から分かった。5月24~27日まで独・ハンブルグで開催された第20回欧州脳卒中学会(ESCO)で27日に開かれた「Large clinical trials」でオーストラリア・Nursing Research InstituteのS.Middleton氏が報告した。(ハンブルグ発 望月英梨)
急性脳卒中を起こした患者の20~50%が、初日に37.5度以上に体温が上昇しているとされている。また高血糖を呈す人も、最多で68%と報告されているほか、嚥下障害が37%~78%に発現すると報告されている。これらのすべての結果が、有病率や死亡率を上昇させ、梗塞サイズを広げると指摘されている。そのため、ガイドラインでは高熱を下げ、高血糖や嚥下障害をマネジメントさせることの重要性が指摘されている。一方で、実臨床を変更することの難しさも指摘されているのが現状だ。
試験は、通常の脳卒中ケアユニットでの治療に加え、熱、高血糖、嚥下障害への積極的な介入を行うことで、死亡や介護度などの治療成績を向上することができるか検討することを目的に実施された。
対象は、発症から48時間以内で、18歳以上の脳卒中患者で、緩和ケアを行っていないなどの条件を満たした患者で、2005年8月~11年1月までに登録された2つの集団し、データを前向きに、コンピュータと電話インタビューを用いて集積した。
熱、高血糖、嚥下障害への積極介入群とコントロール群に施設ごとに分け、治療効果を比較した。積極治療群では、看護師により4時間ごとに熱を測定し、37.5°以上であればアセトアミノフェンを投与するほか、血糖値についてもモニタリングを行い、必要に応じてインスリンの投与とした。そのほか、言語療法士と看護師により、嚥下障害のスクリーニングなどを行った。主要評価項目は、90日後までの再入院、死亡や寝たきり(重症度を測るスコアmodified Rankin Scale(mRS)≧2)、機能依存度、慢性疾患を対象に患者のQOLを測るSF-36のスコアとした。
積極介入群は、10施設から707例が登録され、558例を90日後まで追跡した。一方、コントロール群は9施設から585例を登録し、451例を90日後まで追跡した。
患者は平均70歳で、男性が6割を占めた。ただ、入院し、抗血栓療法を入院して実施したのは全体の7%(77例)にとどまり、78%がコントロール群と同様の治療が行われていた。
◎90日後のmRSは積極介入群で有意に低下
その結果、90日後のmRSが2以上だったのは、コントロール群で58%(259例)だったのに対し、積極介入群は42%(236例)で、積極介入群で有意に低下する傾向がみられた。
なお、死亡は積極介入群で20例、コントロール群で24例だった。
機能依存度が95%未満だったのは、コントロール群で40%(169例)、積極介入群では31%(165例)で、有意差はないものの、コントロール群で多い傾向がみられた(P値=0.07)。
SF-36は、身体的健康度(SF-36 PCS)はコントロール群で平均42.5点なのに対し、積極介入群では45.6点で、積極介入群で有意に良好な結果となった(P値=0.002)。一方、精神的健康度(SF-36 MCS)は積極介入群で改善する傾向がみられたものの、有意差はみられなかった(P値=0.69)。
そのほか、平均体温や平均血糖値は、積極介入群で有意に低下し(それぞれ、P値=0.001、0.02)、嚥下障害のスクリーニング回数も積極介入群で有意に増加した(P値<0.001)。
これらの結果から、Middleton氏は「重症、軽症いずれの患者にも積極的介入による効果はみられた」と総括し、多面的治療の有効性を示す強いエビデンスが構築されたとして、同試験の意義を強調した。
ただし、集学的治療では、チームワークがよければ有意に良い臨床結果と治療プロセスが期待できると指摘した。その上で、「先を見越した看護は、重要なベネフィットを提供する」とし、看護の重要性を指摘した。