武田薬品は５月19日に東京本社でスイスのNycomed社（以下、ナイコメッド）買収に関する記者会見を開き、これまで武田薬品のプレゼンスが弱かった欧州市場と新興国市場の事業基盤を強化・獲得することが主目的と説明した。これまで28か国だった進出国は買収によって約70か国に拡大する。また、ナイコメッドの画期的新薬のCOPD治療薬ダクサス（一般名：ロフルミラスト）について武田薬品広報部は日本市場にも投入する計画を明らかにしたが、重点４領域（代謝性疾患、がん、中枢神経疾患、免疫・炎症性疾患）との見合いから、そのスキームは検討課題とした。

ナイコメッドは新薬、ブランドジェネリック（自社の特許切れ製品）、OTCなど豊富なラインアップで進出国のニーズに合った製品を提供している。10年の売上高は28億3800万ユーロ（約3200億円）で、地域別売上構成比は欧州が約50％、新興国が約40％。新興国では特にロシアや中南米に強い。

◎医療用薬の世界売上高ランキング　16位から12位に浮上

武田薬品の長谷川閑史社長は説明会で、武田薬品は日米においては高いプレゼンスを発揮しているとした上で、「両社のオーバーラップが少なく、互いの強みを存分に生かし、相乗効果が発揮できる。このようなユニークな組合せの多国籍企業の合併はほとんど存在しないと言って間違いない」と語った。さらに今回の買収によって同社の医療用医薬品売上高の構成比が10年の▽日本40％▽北米42％▽欧州15％▽アジア・新興国３％が、15年には▽日本35％▽北米23％▽欧州21％▽アジア・新興国21％――になる。長谷川社長は「激しく市場がシフトしている中で、どういうことが起きてもバランスの取れた形でのプレゼンスやパイプラインを持つことで、リスクを最小にしてベネフィットを最大にする。極めて大事と思っている」と強調し、より安定的な事業展開が可能になったことも指摘した。

武田薬品は今回の買収で医療用医薬品の世界売上高ランキングが16位から12位に浮上。BRICsでのランキングは14位、欧州ランキングは29位から18位に上昇するとしている。

武田薬品は今回、ナイコメッドの米国子会社を除いた全てを96億ユーロ（約１兆1100億円）で完全子会社化する。武田薬品は手元資金8700億円のうち運転資金を除く約5700億円と、金融機関からの借り入れ6000億円強を買収費用に充てる。買収は９月末までに実施する予定。なお、ナイコメッド米国子会社では皮膚科事業を展開しているが、武田薬品は米国で糖尿病治療薬を中心にプレゼンスを発揮しており、米国での相乗効果などを総合的に検討した結果、ナイコメッドの米国子会社以外を買収することになった。

◎長谷川社長　COPD治療薬ダクサスは「有望なファーストインクラスの新薬」

一方、今回の買収は欧州、新興国の販路を持つという地理的な強化が主目的だが、日本市場でのシナジーについては、「検討中ではあるが、少なくともマイナスの影響はない」（武田薬品広報部）という。例えば、ナイコメッドでは約750品目を手掛けるが、日本市場で相乗効果が見込める製品がある可能性もあり、今後、十分検討していく考え。

また、ナイコメッド最主力品のCOPD治療薬ダクサスについて、長谷川社長は説明会で、「COPDの炎症を悪化させる原因となるメカニズムを阻害し、炎症を抑制する経口薬で、他社品との明確な差別化が可能な薬剤」と説明し、「有望なファーストインクラスの新薬」と紹介した。武田薬品は、ダクサス獲得によって更なる成長が期待できるとし、日本を含む全世界で上市する計画があるとしている。なお、米欧では販売許可を取得済で、11年には多くの新興国での承認取得を見込んでいる。

そのほか、長谷川社長は日本市場での後発品ビジネスに関し、「日本で我々が後発品に入っていく考えはないが、モノは考えようだが、長期収載品をブランドジェネリックと考えても良いわけだ。少なくとも自社品（＝自社の長期収載品）は今後もしっかり売っていく」と話した。