日本で広く処方されているCa拮抗薬。日本人には冠攣縮性狭心症が多いことが処方の根拠ともされ、わが国における臨床試験JBCMIでβ遮断薬と同等の心血管イベント抑制効果が得られた背景にも、対象に相当数の冠攣縮性狭心症患者が含まれていた可能性が否めない。しかし今回、冠攣縮性狭心症患者を除外したSPRCISL-NMS試験において、Ca拮抗薬がβ遮断薬と同等の心血管イベント抑制効果を示した。7日午後のLate Braking Clinical Trialsで、日本医科大学多摩永山病院の中込明裕氏が報告した。
SPECIAL-NMSは冠動脈狭窄を有する虚血性心疾患患者を、β遮断薬(アテノロール25~50mg/日投与)群またはCa拮抗薬(ベニジピン4~8mmg/日)群にランダム化し、心血管イベントを比較した前向きランダム化オープン結果遮蔽試験(PROBE)。胸痛を有するものの有意狭窄はなく、冠攣縮所見が認められた冠攣縮性狭心症患者に対しては、全例Ca拮抗薬を投与し、別個のコホート研究として前向きに追跡した。これによって、β遮断薬とCa拮抗薬の比較においては冠攣縮性狭心症患者が除外されている。
複合1次エンドポイントは、
1) 致死性MIを含む心血管死、脳梗塞、脳出血
2) 狭心症の新規発症、PCIを要するsilent MI
3) 標的病変の再狭窄
二次エンドポイントは
1) 心不全による入院、心血管イベント
2) 全死亡
3) 透析を要する腎不全
である。
2002年7月から2006年3月までの間に4つの日本医科大学病院において、冠動脈疾患を有する205例(男性152例、女性53例、平均年齢60±9歳)が登録され、60例がβ遮断薬群に、60例がCa拮抗薬群にランダム化された。有意な狭窄病変がないが冠攣縮所見を認めた85例には、Ca拮抗薬が投与された。
3年後まで追跡できた解析対象者数はβ遮断薬群 56例、Ca拮抗薬群59例。ベースラインにおける年齢、性別、BMI、血圧、心拍数、疾患を有する冠動脈壁数、あるいは喫煙、糖尿病、脂質異常などの冠動脈リスク因子の頻度に違いは認められなかった。降圧薬、抗血小板薬、脂質改善薬、抗糖尿病薬の使用や、冠動脈狭窄の病変部位にも違いはなかった。
1次エンドポイント発生率はβ遮断薬群14例25%、Ca拮抗薬群10例16.9%で、統計学的有意差はなかった。二次エンドポイントもβ遮断薬群で15例26.8%、Ca拮抗薬群で13例22.0%と差を認めなかった。糖尿病の有無によるサブ解析では、糖尿病なしの場合、Ca拮抗薬群の方が有意に予後良好(HR=0.371, p=0.039)、糖尿病ありの場合は、β遮断薬群の方が予後良好な傾向(HR=2.709, p=0.232)を認めた。
有害事象は、重篤なものも含めて非常に少なく、β遮断薬群で9例1%、Ca拮抗薬群で4例2%と、統計学的有意差はなかった。別個に解析した冠攣縮性狭心症については、1次エンドポイントが8例に発生。7例は狭心症、1例は脳出血であった。重篤な有害事象はなかったが、3例に低血圧を認めた。
中込氏はこれらの結果から、「Ca拮抗薬はβ遮断薬と同様に忍容性良好で安全性が高く、心血管イベント抑制効果も遜色ないことが明らかになった」と結論した。質疑で指摘された、有意狭窄が残っていても、責任病変以外の部位で冠攣縮を起こしている症例が含まれている可能性については、否定しなかった。また日本人では血管トーヌスが亢進している症例が多いと説明し、それが有意狭窄の有無にかかわらず、冠攣縮を起こしやすい原因であることを示唆した。またコメンテータでJBCMI試験を実施した熊本大学の小川久雄氏は、「冠攣縮性狭心症患者を注意深く排除し、β遮断薬、Ca拮抗薬をそれぞれ1剤に特定したことなど、よくコントロールされた試験によって、わが国での有意狭窄病変を有する虚血性心疾患患者の治療に非常に有用な成績が得られた」と評価した。