英グラクソスミスクライン(GSK)社が、パキシル(パロキセチン)、Wellbutrin(ブプロピオン)の適応外使用についての違法販売促進やアバンディア(ロシグリタゾン)の適正な情報活動を怠ったことなどで、合計30億ドルの和解金(罰金含む)の支払いに合意した問題で、同社のAndrew Witty CEOは、同社の責任を認め、陳謝および再発防止策を講じたことを発表した。
GSKは30億ドルを支払うとともに、保健福祉省(HHS)監察総監室(OIG)と同社がコンプライアンスを順守、社内体制を改善することを約束した「企業完全性についての協定」(corporate integrity agreement)を締結した。Witty CEOは、同違法販促はすでに過去のことでGSKはすでに変わったとしながらも、それは無視できるものでも、されるものでもないと真摯に対応してきたとの姿勢を示し、適応外使用販促問題、アバンディアの問題についての有罪を認め、改めて謝罪した。
同CEOは、患者第一・透明性のある活動・内外組織の人々への尊敬・あらゆることでの誠実さを示すこと-を優先する文化を醸成してきたと同社変革に傾注してきたと経緯を話し、2度と同じような不正行為を繰り返さない環境形成に努めていることを報告した。
Witty CEOは、さらに、GSKが米国のコンプライアンス順守・営業・販売の方法・手法などを大きく変化させたことを説明した。
GSKは、先ず、コンプライアンス強化のためにコンプライアンス部門スタッフを増強した。また、2011年1月以降、医療従事者と直接話すMR (医薬情報担当者)について新規の奨励給制度を設けた。これは、賞与の基礎となる個人の売上目標を取りやめ、代わりに、MRが医師に提供する、患者の健康を改善するようなサービスの質によって奨励給を決めるという評価制度に変えた。
同CEOは、「これらの改革が、GSKの各種計画や活動を適切に管理し、関係者の期待に添うことを保証している。最も重要なことは、この改革が、誠実さと尊敬に基づきわが社の活動や外部との関係を透明化し、患者の利益を第一とするわが社の根本方針に添ったものだ」と説明した。
同CEOは、同社の米国での「Commercial Practices Policies」(商習慣政策)は、医療関係者との関係を規定した、米国研究製薬工業協会(PhRMA)のプロモーション・コードに(内容的に)合致あるいはそれを超えるものになっているとした。
今回、GSKが支払う和解金の金額は、2009年のファイザーがBextra、Zyvox、Lyricaなどの適応外使用違法販促に対する訴訟で支払った和解金23億ドルを抜いて、史上最高額の金額となった。しかし、このような違法販促や適切な医療情報を伝達しないなどの理由で訴訟を提起される製薬会社は後を絶たない。
◎和解金額の大きさからみた製薬企業の訴訟トップ10
米医薬専門誌「Fierce Pharma」最近号は、和解金額の大きさからみた、製薬企業の違法販促などの訴訟トップ10を上げている。
このトップ10では、GSKの和解金合意前のため、トップがファイザーで以下次の通りだ。
2位 ジョンソン・エンド・ジョンソン 支払和解金等は16億ドルから22億ドル、3位 アボットラボラトリーズ 16億ドル、4位 イーライリリー 14億ドル、5位 米メルク 9億5000万ドル、6位 セローノ(現メルクセローノ) 7億400万ドル、7位 Purdue Pharma 6億3450ドル、8位 アラガン 6億ドル、9位 アストラゼネカ 5億2000万ドル、10位 ブリストルマイヤーズスクイブ 5億1500万ドル。
今回、金額ではGSKが「トップの座」についたものの同社が特殊なケースでないことが分かる。製薬企業として優良企業と目される企業が連なるが、なぜ、このように違法販促が多いのか?違法販促では、安全性を十分に伝達しなかったり、有効性を過大に伝えたりする例も多いようだが、特に目立つのは、適応外使用をめぐる違法販促だ。
米国では、適応外使用に関する販売促進については、2009年1月に食品医薬品局(FDA)が策定した「Good Reprint Practices for the Distribution of Medical Journal Articles and Medical or Scientific Reference Publications on Unapproved New Uses of Approved Drugs and Approved or Cleared Medical Devices」(既承認薬および既承認医療機器の未承認新規使用法についての医学雑誌記事および医学・科学的参考文献の配布に関する再プリント実践規範)と題するガイダンスに基づき、適切な医学雑誌の記事であることなどエビデンスが確かな場合など一定の条件を満たせば違法ではないとされている。
また、公的保険のメディケア(高齢者保険)やメディケード(低所得者保険)では、エビデンスが十分な文献に基づく販促であれば償還を行っている。
しかし、エビデンス等が曖昧なケースでは、医療現場からのニーズに応えているなど販促の違法性の判断が難しいことが問題を複雑にしているといえる。一方、2009年に、従来の「False Claims Act」(不正行為請求法)を強化した「Fraud Enforcement and Recovery Act」(不正行為執行・損害回復法)という法律が成立したことで、不正行為により行為者が獲得した公的資金などを取り戻すことが容易になった。
このようなことを背景に、製薬企業が、違法か合法か判断の難しいところで違法ギリギリの販促を行う場合があるために、不正行為を疑われ、公的保険ですでに償還を行った政府や州政府などが訴訟を提起する要因とも言われている。
しかし、多数の同様訴訟が提起されているにも関わらず、それが後を絶たず、FDAのガイダンスなどを無視することは、言うまでもなく、生命関連製品としての医薬品についての製薬企業の倫理観が問題視されても致し方のないところだ。